ドラゴン襲来(1)
そろそろ、まずい。
私はタブレットの画面を見ながら、頭を抱えていた。期待していた
どうしたものかと、私は首から提げたおじいちゃんのペンダントを、ギュッと握りしめた。不安になった時、ペンダントを握る癖が付いてしまったなぁ。
上岡一佐にも相談した。
「王への義理は果たしたと思います」
上岡一佐は、期限を切って撤退もやむなしという判断だった。
「科学部門が求めていたデータも十分集まりましたし、装輪装甲車やUAVの運用訓練にもなりました。
うん。上岡一佐は、私の背中を押してくれたのだろう。そうだね。ではあと二日、何もなければ、三日目に撤退しましょう。
「遠征隊のみなさんには、上岡一佐から伝えてください」
ヴァレリーズさんやマグネス隊長さんにも伝えないと。領主は……まぁいいか。先に礼を失したのはあっちだし。
三日後には撤退、その判断に対する反応はさまざまだった。けれど、総じてホッとした雰囲気にはなったかな。やはり、見たこともない想像上の生物と戦うなんて、緊張しない方がおかしいよね。
午後になってキャンプにやってきたマグネス隊長さんとダニーさんにも、テントの中で経緯を説明する。マグネス隊長さんは上岡一佐に、ダニーさんはヴァレリーズさんに会いに来たのだった。
「そうですか……わざわざ遠方までお越しいただいたのに、申し訳ない」
マグネス隊長さんは、申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
いや、こちらの見通しも甘かったし、隊長さんが謝ることはないですよ。ほんと。
「私としては、貴女方のお力添えはとても心強かったのですが、仕方ありません。今ある兵力だけで、
マグネス隊長さんも、いい人だなぁ。
「あと二日以内に、
軽く口にしたそんな言葉が、
「何か巨大なものを発見!」
突然、陸自隊員の叫び声が聞こえた。
もう、何かって何よ! 私たちはテントを飛び出す。指令機能を搭載したワンボックスカーに人が集まっていた。ドアの外から中を覗き込むと、一つのモニターに翼を持った生物の姿が映っていた。UAVのカメラが、飛行中の巨大な何かを捉えたのだ。それは赤銅色の鱗に覆われた生物に見えた。
「
中に飛び込むのではないかと思えるほど、モニターに近づいたダニーさんが叫んだ。
「あの翼、あの鱗! まちがいないっ! あぁぁっ、ようやく会えたっ!」
興奮しているダニーさんの横で、私は少し冷静になれた。
「バッテリー残量が少なかったので、帰投させている途中、これに遭遇しました」
UAV担当の隊員が、私の後から駆けつけた上岡一佐に報告している。その隊員に、
「レーザー距離計と画角から計算すると、全長十メートル、翼の長さは十五メートルほどと推定されます」
なるほど、大きさからすると、前に襲ってきた
突然の
「くそ! 街の反対側か! 阿佐見さん、どうしますか?」
どうしますって、そんなの決まっている!
「全員、インカム装着! チャンネルは3!」
「了解! 総員、インカム装着! チャンネル3に合わせ!」
上岡一佐が、私の指示を復唱してくれる。こうした時のために、日本人全員がインカムを常時携帯していたのよ。インカムは軍用のものではなく、民生品だから私みたいなか弱い女子でも持ち運びが楽なの。
「ソニック君を出して! 私たちも現場に行きます。ヴァレリーズさんも乗ってください」
「私は馬で行く。すぐに追いつく」
モニターを覗き込んでいたダニーさんが、振り返って私に同行を願い出た。
「私を連れて行ってはもらえませんか? お願いします」
「わかりました。誰か、ヴァレリーズさんに馬を用意して! ダニーさんはこのまま指揮者に乗って来てください」
そう言って、私は四駆目指して走り出した。
「総員点呼! 街に行っている者はいないな? よし、一班二班は分乗して現場に向かう! 残りの者は、必要物資を持って後から来い! 不要な者は放置しておいて構わん!」
走りながらもてきぱきと指示を出していた上岡一佐が、私よりも先に四駆に辿り着き、後部ドアを開けてくれた。自分は助手席へと滑り込む。運転手は横井一曹だ。私が後部座席に飛び込むと、続けて日野二尉も飛び込んで来た。二尉も興奮しているのか、私を見てにやりと笑った。
四駆の窓から街の方を覗くと、マグネス隊長さんが街に向かって馬を走らせている姿が見えた。すばやい。でも自衛隊員も負けていないわ。ソニック君は、すでに走り出している。四駆と指揮車は、太陽光発電パネルに繋がっていたケーブルを外し、乗員を乗せてから走り出した。
「今飛んでいるUAVは、そのままキャンプまで飛行させて回収してください。予備のUAV出せるならすぐに飛ばして。インカムの中継もさせて」
『了解』
日本の
□□□
ギャォォォーンッ!
「目標、視認! 一時の方向!」
進行方向から少し右の空に、巨大な物体が見えた。
「桜さん、これを」
四駆の窓から身を乗り出すようにして、田山三佐が手渡してくれた双眼鏡を目に当て、ピントを合わせると、
「各車両は、距離を取って! うかつに近づかないようにしましょう」
『なんだ、ありゃ……』
『でかいな。動いているぞ』
『あんなの倒せるのか?』
インカムから隊員たちの声が聞こえる。
『貴様ら! オープン回線で私語は止めろ!』
上岡一佐が一喝する。
いや、でも、そう思うよ。目の前の
水魔法によって創られた氷の塊が、
ギェェェッ!
街の守りは堅牢、そう思ったが、それは間違いだった。
ギャオォォォンッ!
かつては壁であった瓦礫の上に着地した
グルルルルルッ!
「捕縛網、投擲!」
かけ声とともに、街の城壁から二本の槍が打ち出された。槍にはロープが結びつけられており、その先には巨大が網が括り付けられていた。網は空中に大きく広がって、
「今だ! 固定しろ!」
何人もの兵が網の端に取り憑き、網を地面へと固定子始めた。網で地面に縫い付けて、
あれでは、まるで特撮映画に登場する怪獣だわ。これが、知恵ある生物の姿なの? 賢者が
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