強者の集い

第24話 七英傑3席 獅子帝レオン

 差し込む太陽の光が3人を照らす。

 ナキがあまりの眩しさに目を細める。


「外だ!でっけぇー橋だな」


 声を上げるナキと雨月の目の前には王都の中心、主王宮へと続く主王宮直属大橋が現れる。馬車が数十台、横一列になり、余裕をもって通れるほど幅のある巨大な石橋。


 雨月は少し歩くと、ナキの背後で歩く足を止めた。

   

「この巨大な橋の中心に下の王宮街へと繋がるリフトがある。脱出はそこからしよう」


 同じく足を止めたナキは主王宮を眺めたのち、シャルルの子供のように温かく眠る顔を見つめた。


「そうかぁ。…あ、あのさ、雨月。1つお願いがあるんだ」


「なんだ?」

     

「シャルルを安全な場所へ連れて行ってほしい。……お前だから頼みたいんだ」


「まてっ。お前はどうする気なんだ」


「オレはこのまま主王宮へ行く。知りたいことがあるんだ」

   

 雨月は少し大きめな声を出す。


「お前、今の状況わかっているのか!……無謀だ。たまたまマニスは倒せただけ。次はもうない……無駄死にするだけだ。それに、あの七英傑のジークも必ず追ってくるに違いない」

   

「あぁ。そうだな」


「そうだなって……オレの言っていることがわかるだろ……今じゃなくてもいいだろ」


 ナキは歯を食いしばる。


「そうじゃないんだ。オレは最初からそのために王都へ来たんだ。そのために、今まで生きてきたんだ。もう、もう目の前なんだよ……」


「そのためにってなんだよ」


 ナキは雨月の方へと無邪気な笑顔で振り返る。


「オレが生きてる理由がここにあるんだ。それを知るために」


 雨月はそのナキの笑顔と瞳を見つめる。

      

「止めてくれてありがとな。やっぱお前いいやつだわ。安心してシャルルを預けられる」


(意思は、固いかぁ……。これは何を言っても無駄だな……)


 ため息をつく雨月。


「……わかったよ。シャルル王女は俺がなんとかしよう。その代わり、きちんと後でシャルル王女の元に顔出してやれよ」


「あぁ、約束する。ほんと、何から何までありがとな雨月。んじゃ、頼むわ」


 雨月はナキの隣へと足を進める。


「オレにもオレのやるべきことがある。お前にもきっとそれがあるんだろ。だから、オレはもう止めない。でも……死ぬなよ。生きていれば……きっと」


「お前もよく知っているだろ。オレはなかなか死なねーよ!」


 ナキは笑みをこぼし答えた。


「あぁ、そうだったな」


「お前、やっぱ優しいんだな」


「うるせぇ。今回だけだ」


 そう言う雨月も少し笑みをこぼした。




******************************

  

 第3王宮、1階フロア。

 階段に寝そべるマニス。


 ジーク看守長が中央階段に向かって赤い絨毯の上を歩く。


 ジークは倒れるマニスに視線を移す。


「面白くなってきたじゃねぇーかぁ。まさかマニスがやられるとはなぁ。マニスが戦闘向きではないとは言え、天帝会の中でも「天位てんい」に入っていたやつだ。ますます、あいつらに興味が沸いてきたぜ」


 ジークはナキと雨月を思い浮かべながら笑みを浮かべる。




******************************


「うぅ……。今何か寒気しなかったか」


 ナキが雨月に話しかける。


「俺もした」


 主王宮直属大橋の中心付近のリフトへと向かって足を進める2人。


「おっ!あれがリフトか」


 ナキが声を上げる。


 橋の淵に設置された巨大な昇降機が2人の目に映る。


「そうだな。急ごう」


 リフトに近づくにつれ、橋の淵に足を組み座る人影が見える。


 ナキと雨月は足を止める。


 橋の太い淵「欄干らんかん」の上で足を組み座る男は、アッシュゴールド色の少し長い髪をなびかせながら煙草をふかし、一息に煙を吐いた。白い天帝会の豪華なコート。首に垂れるチェーン。足はすっと長く、鼻の下と顎に少し髭を生やしている。


「待ってたぜ」


 雨月は目を大きく見開く。


「七英傑3席獅子帝レオン!?」


「なな、えいけつ……。あの変態野郎と同じ……なのか」


 続けて、ナキは驚く。


「なぜここにいるんだ……。こんなに早く、軍のトップ戦力が動くわけが、ない……」


 雨月は驚きを隠せない様子で立ち止まっている。


(不可能だ。もう逃げられない……)


 だが、シャルルを抱えるナキは黙ったまま足を進め、獅子帝レオンの背後にあるリフトへと向かう。


「ナキ!待て!」


 ナキは雨月の言葉を無視して歩き続ける。


 シャルルを抱えたナキは獅子帝レオンの隣をゆっくりと通り過ぎる。


 レオンは何事もなく、煙を吐く。


「お前らは見逃してやるから、そいつを置いていけ」


 立ち止まるナキ。


「シャルルを……か」


「だいたい事情はわかっている。俺は今日非番だし、お前らに何かしようってわけじゃない」


「寄ってたかって、シャルルを……クッ。断る!」


 ナキは一瞬止めた足を再び進める。

   

 レオンは欄干の上から橋道へと降りる。


 そして、ナキの背後に立つレオンが口を開く。


「大罪人の元王女様が実は生きていて、さらにはさらわれました~、なんて、国家として民衆に示しがつかねぇだろ。まぁ、俺達にもメンツってもんがあるんだよ。そこらへんはわかってくれよ。じゃなきゃ、俺はお前たちを殺さなきゃいけなくなる」


 とレオンは殺気を放ち、ナキの斜め前へと一瞬にして現れる。


 ナキは驚きながら目を大きく見開いた。


「速いっ……(何も見えなかった……)」


 レオンはナキの肩にぽんっと手で軽く叩くと、ナキの正面へと即座に立ちはだかった。


 「なっ。紅髪。」


 ナキは眉間にしわを寄せレオンの眼を睨みつける。


「オレはこいつをここから出してやりたいんだ!こいつを自由にしてやりてぇんだ!どけろ!」


「んーー」


 レオンは顎ヒゲに手をあてる。


「例えここから出たとしても、そいつは目を覚まさねぇぞ」


「え?」


 ナキと雨月は驚いた様子でレオンを見る。


「どういうことだ?シャルル王女は気絶しているだけじゃないのか」


「気絶しているというのも正解だし、そうじゃないというのも正解だな。」


「何を言いてぇんだよ!」


「お前らマニスの幻覚の中にいただろ?それでこいつは、幻覚の中で殺されなかったか?あいつの幻覚中の体験やダメージは脳が記憶する。つまり、あいつの幻覚の中で死を体験するとそのまま脳がダメージを受けるんだ(まぁ、そんな単純な皇力じゃないんだけどなぁ)」


「それって……」


「そう、今はほぼ死んでいる状態に等しい。仮死状態だから、よほどのことじゃない限り目を覚まさない」


 ナキは目を見開く。


「まぁ、マニスなら何とかできるかもしれないけどな」


「だったら、今すぐマニスの元へ戻ってシャルルの目を覚まさせるしかない!」


「ナキ!」


 雨月は引き返そうとするナキを止める。


「今は、ここから離れるのが先だろ」


「でも、シャルルが……」


「おい、紅髪。いつからお前は選択できる立場になったんだ」


「おれは……」


 レオンはナキの微かに揺れ動く瞳を見る。


(迷いがあるな)


「それは、理想だ」


 レオンはナキを冷徹な様子で見下す。


「お前に何ができる?俺をぶっ飛ばすのか?殺すのか?……これからお前たちを捕まえにくる奴らを全員退けるのか?……もう少し考えろ。今のお前の理想には実力が伴っていないだろ」

   

「それでも俺は…」


 レオンは煙草をくわえナキの胸ぐらを一気につかみあげる。

   

「そいつもお前の実力不足でやられたんじゃねぇのかぁ!まだわかんねぇか!力がなけりゃ人前でそんなこと語るんじゃねぇ!」


 レオンは目を見開き、ナキに怒声を浴びせた。


 ナキは歯を食いしばり、悔しそうな様子でうつむいた。


「わかってる。わかってるさ、そんなことわ……」


 レオンはナキの胸ぐらから手を離す。


「これだけは覚えとけ、力がなけりゃ意見なんて通らねぇ。思い通りになんてならねぇ」


「それでも…」

 

 ボソッとナキは言葉を吐く。


 チッっと舌打ちをするレオン。


「守りたけりゃ力をつけろ、ガキが。さぁ、わかっただろ。そいつを置いてここから去れ」


 レオンは少し暗い様子で続けて話し出す。


「そいつは俺に任せろ。悪いようにはしねぇからさ」


 そう言ったレオンは突っ立つナキが抱えるシャルルへと手を差し伸べた。


――と、その瞬間。


「それでもここにおいていくことなんてできねぇだろ!お前らを信用できるわけがねぇだろがぁ!!」


 ナキは威嚇するように吠える。


 ナキの気迫でレオンの差し伸べる手が一瞬止まる。


(こいつ……)


「俺は、もう…誰も失いたくないんだ……」


「なんて目をしてやがる」


 少し動揺した様子のレオンの額から流れる雫。


 どこか悲しげで、どこか怯えていて、それでも守りたいという強い意志が現れているような瞳。例えるなら、飼い犬が大好きな飼い主を守るために必死に無謀であっても強い敵に抵抗するようなそんな姿。


(お前も過去に大切な人を失ったたちか……。はぁ。覚悟なら既にできているってか)

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