第20話 ナキVSマニス
「ほぉうっ……」
マニスは気力が体から満ち溢れるナキを見てニヤリと口角を上げる。
(私に向けられた殺気か……なかなかの『
そのままマニスはナキを見続ける。
(そして、この異常にも体から溢れ出た気力の量、心の力が暴発したといったところか……)
ナキの身体を包むように無造作にゆれる紅い気力。
(気力の流れを見てもコントロールはめちゃくちゃ……。この気力、皇力の発動でもないことは先ほどの戦闘接触時に把握はしているが、気になるのは首の異様なアビリティリングの皇力……。なぜやつは先程から一度も使用しない。戦闘系ではないのか?……まぁいい。面白そうだ。もう少し戦ってみるとするか)
ナキは自身のてのひらを数回グー、パーと握り開くを繰り返す。
「大丈夫。正気だ」
ナキは自身に言い聞かせるように言った。
そして、ナキは抜け殻のように座り込む雨月の元へとゆっくりと足を運ぶ。
雨月は生気を失った瞳で一点を見つめ座っている。
「母さん……母さん……」
と雨月の口から漏れ続ける言葉。
「目を覚ませぇ!!」
――ドンッ。
雨月の頬に入るナキの気力をまとった拳。
――ドサァアアア。
床に擦り飛ぶ雨月。
雨月はスッと自身の頬を触る。
(殴られたのか?……俺は……また、あの悪夢を見ていたのか。……くっ)
雨月は目をそっと開ける。
(戦闘中に何してんだ俺は、俺の目的はなんだ。こんなところで……)
「くっ、頭が痛い」
雨月は頭を押さえる。
ぼやける雨月の視界には階段に座り、歌を歌うマニスが映る。
フロア中に流れる音色(BGM)。
地に倒れる人々や天帝兵。
(シャルル王女、それにナ……)
と雨月は瞬きをすると、前方に立つナキとマニスが映り……
「あれ?」
先程聞こえていたフロア中の音色はパタリと途絶えた。
床に見える無数の血だまりと、赤く染まる無残に倒れた王都民と天帝兵。
雨月の瞳に映る光景は血の海と化したフロアだった。
もう一度、雨月は目をつむるが何の変化も起こらない。
「なんなんだ。今のは……」
雨月は頭を押さえる。
「アマツキ、目が覚めたか……」
ナキが雨月を見てひとりでにつぶやいた。
「オレがもし倒れたら、あとは頼む」
雨月はナキの顔を見返す。
(この気迫、様子がおかしい。何だこの気力の量は……)
「……何が、あった」
ナキは雨月の言葉には答えず、意識が戻ったことを確認するとマニスの元へと向かった。
(あれ、シャルル王女は……)
――と、次の瞬間。
雨月はすぐさま血だまりの上で倒れているシャルル王女を見つけ、状況を即座に飲み込むように固唾を飲み込んだ。
************************************************
マニスは先ほどナキが蹴った地に落ちた金色の銃を拾い上げる。
「さぁ、私と拳で愛を語ろうじゃないか」
ナキとマニスは、フロアの中心で向かい合う。
2丁の金銃を腰に直すマニスは拳を握りしめ、天帝会の豪華な白いコートを脱ぎ捨てた。
メラメラと揺れるナキをまとう気力。
「覚悟はいいな……」
マニスがニヤリと口角をあげる。
――と、次の瞬間。
――ドォーーーーーーーーーーーーーン。
宙でぶつかり合う両者の気力。
逃げ場なく殺気に満ちるフロア一帯。
その様子を見る雨月。
(あいつの気力量は異常だ。暴発……。このままだと危険すぎる。……もって数分)
――と、雨月がまばたきをした一瞬。
マニスは地を踏み込み、瞬時にナキの目の前へと現れる。
(さぁ、首輪の皇力を見せてみろ……)
先程ナキと交戦した時と同じように、ナキの右頬にマニスは上段蹴りを振りかざす。
――バンッ。
ナキは先程の戦闘時とは違い、両腕2本ではなく右腕1本で蹴りをガードし、衝撃を緩めると、続いて左手でマニスの足のすねをつかんだ。
「ほう……先ほどより蹴りの威力は増したはずだが。軽々と受け止めるか」
(やはり首輪の皇力の発動は確認できない……。そして、このでたらめな気力は、ただ身体能力のみ向上させたというわけか……ふっ素人がしそうなことだ)
ナキは何も答えず、続けて、つかんだマニスの足を手前へ引っ張る。
体制を崩すマニス。
と、同時にナキはステップするように一歩下がり、空いたマニスの横顔に拳をおおきく振りかざした。
「なっ」
しかし、マニスは瞬時に手の甲で、その拳を顔の横で受け止め――
すぐさま、ナキの攻撃した腕をつかみ返し、
「攻撃が単純だ」
――ダンンンッ。
ナキを勢いよく地へと背負い投げる。
「グハッ」
仰向けになるナキは地へと勢いよく撃ちつけられる。
地に倒れるナキはダメージを受けるが、ひるむことなく自身の腕をつかむマニスの手首をそのまま握り返し、マニスの動きを封じ込んだ。
ナキの顔の上にあるマニスの顔。
(なにっ!)
少し驚いた表情のマニス。
ナキはマニスのひたいへと
が、しかし、間一髪で首をふり上げ、マニスは瞬時に回避する。
(くっ……なんだこいつの人並外れた身体能力は……。気力の力だけじゃない。だが、)
ナキはマニスの手首を離すと、両てのひらを地につけ上体を跳ね起こす。
「隙だらけだ」
マニスはそれを見計らったように起き上がる瞬間、ナキの背後へと中段蹴りを入れた。
が、瞬時に、ナキはそれに反応し宙へと高くとぶ。
(ふっ…これも避けるか)
凄まじい速度でマニスの蹴りを避けるナキは、動きを止めることなく、続いて空中でかかと落としの体制に入り、マニスの頭頂部へと足を振り落とす。
「甘いわぁ!」
両手を頭上でクロスにし、ナキの蹴りを軽々と受け止めるマニス。
続けて、マニスは頭上でナキの足首をつかむと……
「なにっ」
自身の体を大きく回しながらナキの身体を一周させ、勢いよく手を離した。
ナキは壁まで一直線に突き飛ばされる。
――ドガガガアッツ。
壁の前に立つ煙。
煙の中に見える人影。
「紅髪、随分頑丈みたいだな」
姿を現すナキは煙を割くとマニスに向かい飛ぶ。
ナキはマニスの正面に近づくや、1撃目、2撃目と続けて宙でマニスの顔へと拳を振るう。
が、マニスは見切ったように顔の前でナキの拳をガードする。
3撃目。4撃目。
両者攻防に全く引けをとらない。
そして、――ナキの5連打撃目。
「なにっ。滞空状態で」
ナキは宙にいる体制のまま、マニスの顔面へと前蹴りを入れた。
――ドォーーーン。
宙で風が弾ける。
2人の重なる足。
マニスは逆立ちをするように体を反り倒し、危機一髪のところで、ナキの振りかざす前蹴りを跳ね返すように自身の蹴りを入れていた。
「あぶねぇな」
両者譲らぬ威力。
ナキはそのまま足の力での競り合いはせず、マニスの蹴りの反動を利用し宙で体を反回転させると……
瞬時に、拳に気力を込めはじめ……
「なにっ!」
(だが、こいつの攻撃は単純。顔しか狙わな……)
――と、次の瞬間。
身体の回転力を活かしたナキは拳に紅色の気力をまとい、地から体を起こそうとするマニスの顔面へと回転しながら強烈な一撃を、撃ち込んだ。
「燎(かがりび)」
――ドォ――ン。
マニスは起き上がると同時に顔の前で両手をクロスにしながらガードをする。
がしかし、あまりのナキの拳の威力にガードがはじけ、足を開いた状態で地をするように体を回転させながら後退する。
(皇力なしで、なんて威力だっ。イカれた野郎だ)
ナキは攻撃を休めることなくマニスへ走り迫る。
紫色に腫れあがるマニスの腕。
マニスの額から流れる血。
マニスのクロスにした腕は突如と力が抜けたようにぶらりと垂れさがる。
「少しはやるじゃねぇか……」
腹部を無防備に空けた状態で突っ立つマニス。
ナキを見つめるマニス。
両拳を腰の横で握りしめるナキ。
「ハァアアアアアア!!!!」
ナキは、マニスに一直線に迫り寄り――
「こい、紅髪!!!お前の愛の全力をこの俺に撃ってみろ!」
両腕に集まる紅の
「焔蕾咲(ほむらさき)!!」
両拳を胸の前でそろえたナキの渾身の一撃がマニスの腹部へと入る。
――ドォーーーーーーーーーーーーーン!!!
マニスの腹部から背へと突き抜ける打撃と風圧。
マニスの背後にあるフロアの壁が、衝撃波で大きく丸くひび割れ、崩れ落ちる。
静まり返るフロア一帯。
――バキッバキッバキッ。
「いってぇえええ!」
ナキの拳先から肩先へとかけて電気が流れるように骨全体が悲鳴を上げ、両腕全体へ一気にヒビが入る。
両腕が粉砕するほどの力で攻撃したナキの腕は、たちまち赤黒紫く腫れ上がり、次第に力がスンッと抜け落ちた。
(グ、パーができねぇ……)
ナキは息を荒げたまま、額に汗を流し、煙立つマニスを吹っ飛ばした方向を見る。
煙の中に立つ人影。
「どれだけ、頑丈なんだよ……」
マニスはナキの最大の気力を込めた威力の攻撃を受けても、なお、微動だにせず突っ立ていた。
ナキの体からスンッと消える紅色の
片目の色も元へ戻る。
ナキは体制を崩し、床へ拳をたてる。
(やべぇ、もう動けねえ)
――ポタッ。ポタッ。
地を見た状態のマニスの口から垂れ流れる血液。
マニスはナキに視線を移すと、不敵にもニヤリと口角を上げた。
「残念ながらお前の愛は、届ききらなかったようだな」
――と、その瞬間。
マニスはナキに一瞬にして近づき……
両指を組んだ拳を天高くへあげ、
「なんで、まだ、こいつは腕が動くんだよ……、さっき使えなくなったはず、なのに」
ナキは何とか立ち上がろうとする。が……
(あれ?体がいつもみたいに回復しない。あれ……)
ナキはマニスの目の前で力が抜けたように膝から崩れ落ちると、天を見上げた。
(オレ、やられるのか……)
ナキはその天高く上がったマニスの両拳をじーっと見つめる。
(くそっ。オレはオレはこんなところで死ぬわけにはいかねぇ……)
その間は数秒――。
「母なる愛のもとで眠れ」
マニスはそう言うと、天仰ぐナキの顔面へと両拳を一気に振り落とした。
――ドガァァァァァァン。
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