第21話 雨月の作戦
「遅くなったな」
雨月がカラ傘を広げ立つ。
雨月はナキをかばうようにマニスの攻撃を防ぐ。
「おせぇよ」
ナキはそう答えると少し笑みをこぼした。
「ほう、悪夢から目が覚めたか。カラカサ一族の生き残りよ」
マニスは2歩3歩と後ろに跳躍し、2人から距離をおく。
カラ傘を閉じ、背へとなおす雨月。
「だが、2人になったところで勝ち目はないぞ。紅髪は『気力』切れで、もう体も思うように動かないはずだ。さぁ、お前には何ができる。暗殺者よ」
雨月はナキの肩に手をまわし、ナキを持ち上げる。
「やっぱり、この一連の出来事も最終的に全て俺になすりつけるつもりだったんだな。だから俺だけは殺されなかった……」
「ご名答。お前が実際にシャルル暗殺の罪を犯していようが、犯してなかろうが私たちにとって真実は関係ない。お前が罪であること自体に意味がある」
ふっ、とマニスは口角を上げる。
「この意味がわかるよな?お前を罪にすることにこそ意味があると私は言いているんだ」
「要は、民衆。天帝国。を納得させるための落としどころってわけだろ。なるほど……天帝会のやりそうなことだ」
「そう、全ては愛ゆえに仕方がないこと。カラカサ一族の生き残りよ、喜べ!誇りを持て!世界の愛を支える糧となれることに!」
「喜ばないね。だって、もうすぐ俺はそのお前の言う愛とやらを、いや、俺たちがその腐った愛を全てぶっ壊すんだからな」
「ふっ。戯言を」
「ナキ、まだ戦えるか」
「うっ……、戦いてぇ。あいつをぜってぇぶっ飛ばさねぇといけねぇんだ。でも、なぜか、いつもみたいに体が回復しねぇし、思うように体も動かねぇ。多分あと少し時間さえあれば……」
(こいつ、やっぱりアビリティリングの皇力について自覚がないのか)
「わかった、それだけ聞ければ充分だ」
雨月はナキの耳元に口を寄せる。
「……聞いてくれ、実はマニスに勝てるかもしれない策が1つだけある。だが一か八かだ。……俺を信じれるか。」
口角を上げるナキ。
「あぁ。それしか、あいつに勝てねぇんだろ」
「そうだな。今すぐ思いつく方法ではな……」
「頼む。教えてくれ」
雨月は口を小さく開き、ナキに作戦を伝えた。
ナキは目を見開く。
「あ、あぁ。わかった。いけそうな気がするぜ」
辛うじて一人で立つナキは少し笑みをこぼす。
その横に立つ雨月。
そして、2人はマニスの前に向かいに立つ。
「なんだ、私に勝つ秘策でもあるというのか。しかし……」
――ハァアアアア!!
マニスは身体に力を込める。
「無駄な足掻きよ」
マニスの叫びとともに体から、なみなみと溢れだす気力。
すると、マニスの体の傷はみるみると治癒されてゆく。
「くっそぉ!!あいつも回復できるのか!これじゃあ振り出しじゃねーか!」
ナキはボロボロの体で残念そうに嘆いた。
「さぁ、再戦といこうか」
首をコキッ。コキッ。と動かし、マニスは準備運動を始める。
「まぁ、あいつが回復しようが関係ないぜ。俺たちはあいつに勝つんだ。抗うんだ!生き抜くんだ!」
ナキは力強い眼差しでマニスを見つめる。
(こいつは、何を背負っている……)
その隣で、ナキの瞳に魅了される雨月。
(シャルル。俺は生きるぞ。こんなところでやられるわけにはいかねぇんだ)
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ナキの脳裏に映るアダマス・シャルル・ホタル・シヴァの姿。
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「ナキ、準備はいけるか?」
「あぁ」
「よし、いこう」
とその合図で、ナキと雨月は正面をまっすぐ向き……
雨月は床に転がる銃を瞬時に2丁持ち上げ、銃口をマニスへと向けた。
すぐさま、雨月はマニスに数弾を撃ち込む。
――バンッ!
――バンッ!
身軽く避けるマニス。
――バンッ!
――バンッ!
続けてマニスは右方向へと軽々と銃弾を避け続ける。
(カラカサ野郎は、皇力が使えないと聞いているが……。何を企んでいる)
「攻撃があまいわ。そんな銃に頼るとは血迷ったか」
マニスは中央の階段前まで移動すると、
それを見計らったかのように拳を強く握るナキが前方から走りやってくる。
マニスは階段の前で足を止め、即座に横目でナキに反応する。
(先程の銃撃は陽動か……)
「ふっ。次は、ちゃんと眠らせてやるからな。紅髪!」
ナキは辛うじて動かせる紫色に腫れあがる左腕を構え、マニスに真正面から突っ込む。
「ふんっ、気力もなく。使いものにならないその片腕でお前に何ができるというのだ!」
拳を振り上げるナキ。
「ハァアアア!!!」
マニスは正面から突っ込むナキを返り討ちにしようと拳をかまえる。
向かい合うナキとマニス。
――カシャ!
――カシャ!
ナキの両耳隣から現れる2つの銃口。
ナキの背後に突如と現れる雨月。
「いけぇええ!」
雨月が声をあげると同時に、2丁の銃の引き金を引いた。
――バンッ!!!
ゆっくりと目の前のマニスへ向かう銃弾。
――キィーーーーン。
ナキの耳に鳴り響く銃声音。
(ただの銃弾など俺には効かん)
マニスは、雨月が放つ銃弾に一瞬視線を移すが、避ける気はいっさい見せず、迷いなく拳をそのままナキの顔面へと振りかざす。
「おそいわぁ! 2人もろとも飛ばしてやろう」
――フンッ。
凄まじい早さで動くマニスの拳は、銃弾を捉え、そのままナキの顔へと振りかざされる。
――と、その瞬間。
マニスの拳はナキと雨月の顔面をすり抜け……
雨月の放った銃弾もマニスの胴体をすり抜けた。
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