第1章『~天帝国 第3王宮脱獄編~』

弱者の矜持

第1話 脳裏に焼きつく悪夢

 燃えゆく木々、騒めく葉風。

 命を失った灰が、熱風とともに空気中をずしりとただよう。


 地に両手をつき、一点を見つめる紅髪の幼き少年。

 少年の目の前には、頭部と切り離れた青年の肉体が転がっていた。


 大きく見開いたその少年の瞳は、うるおう暇も与えず乾ききっている。


「シ、シヴァ……」


 そう震えた口からひとりでにこぼれ落ちた、か細い声……。


 その声をかき消すように地をる何者かの足音が一歩一歩と少年の目の前へと近づく。


 白く豪華なコートを羽織る大柄の男は、少年の目の前で立ち止まると、そっと口を開いた。


「・・・・・・・。だからお前は失う。」


 大柄の男は少年に語りかけるが、少年はその言葉を聞き入る素振りも見せず、固まったまま、何もない地をずーっと見つめ続けていた。


「シ、シ……シ」


 と、次の瞬間――。


 ブォッと風を切る音が不意に少年の耳元で鳴り響き、同時に骨を砕く鈍く重い音が宙へと広がった。


 大柄の男に蹴り上げられた少年は、ドサッっと木に強くうちつけられると、たちまち地へと静かに倒れた。


 意識が遠のく少年の耳にどこからともなく聞こえる幼き少女の泣き叫ぶ声。


「ナキ、ナキ、ナキ、ナキ、ナキ、ナキィ。ナキィ……ナキィ!!!」


 少年に訴えかけるように「ナキ」と、言葉を重ねる度に、その言葉は次第に強さを増した。


 少年ナキは命のともしびが消え入りそうな中で、最後の力を振り絞ると片目をかすかに開き、声のする方へと視線を向ける。


 少年ナキへと差し伸びる幼き少女の手。


「いき て」


 その言葉に反応するように、少年ナキの唇や指先はピクリ、ピクリと動くが、返事をすることもままならず……。


 そして……。

 

 大柄の男に担がれた幼き少女の声は次第に遠くなるとともに、少年ナキの視界は電源が切れるようにプツリと暗闇へと消えていった。

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