第2話 新・天帝国
――ガタゴト、ガタゴロ、ガタゴゴゴ。
大きく長い石橋を渡る馬車。
優雅に泳ぐ雲、裏のない青く広がる大空。
馬車の荷台に積まれた
馬車の手綱を持つ煙草をふかせたヒゲ親父がナキの方へと振り向く。
ナキの頬につたう透きとおる雫。
――ナキは目を覚ます。
「兄ちゃん、どうしたぁ。寝ながら泣いてたぜぇ。……あのなぁ、人ってのはよぉ~」
「って泣いてねぇよ!オレは昔から涙が出ないんだ!」
ナキは片膝に手をつき、身軽く体を立ち上げると、両手を大きく天に向け背伸びをした。
「お、おい最後までオレの話をきけってんだよ!んでな、人ってのはなぁ……」
「おぉおおおおおおおおおお!うっひょー!」
咥え煙草のヒゲ親父はその様子を見て、ため息をつくと、自然にもニコリと笑みをこぼした。
「ったく、元気な野郎だぜ。わかってんじゃねぇか。人ってのはなぁ、それでいいんだよ」
「なぁ、おっちゃん!天帝国の王都ってのはこ~んなに、デッケェーんだな!!」
ナキは上下に体を震わせ、光らせた瞳を大きく見開いた。
目の前に広がる王都の一角は、強大な一枚壁が何枚も横へ横へと無限に連なっている。
「王都はオレの想像していた3倍はある、いや4倍、5倍、ん?……10倍?」
「わかった、わかった。一旦落ち着けよ。王都は逃げも隠れもしねぇよ」
と、そう言いながらヒゲ親父は立っているナキの珍しい格好に改めて目を移した。
(首に巻かれたスカーフに、砂漠の多い民話にでてきそうな身軽い服装……。ここいらじゃ見たことねぇな)
「いやぁ~しっかし、お前さんよ。ここいらで見ねぇ格好にその顔立ち。王都にいったい何の用があるってんだ?」
ナキはその言葉が耳に入った途端――。
王都を揺ぎ無い眼差しで見つめ、そっと言葉を漏らした。
(ホタル……)
「オレには助けなきゃいけないやつがいるから。」
ナキは、王都の巨大な壁が自身を阻む強大な敵のように感じたのか、全身を少し震わせた。そして、ズボンのポッケへとスッと手を忍ばせると、取り出した金色の花の髪留めをてのひらにのせ、じっとそれを見つめ続けた。
ヒゲ親父は突如として様子を変えたナキを見て、額から汗を流すと、それ以上は詮索はせず、静かに返事をした。
「そうか……」
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――ゴ~~~~ン。ゴ~~~~ン。
巨大王都全域に広がる太く重い鐘の音が2回。
王都中の人々が生活する足をピタリと止める。
「これより、現国王『天帝王:カデナ様』の緊急演説がございます」
淡々と話す中年男性の声が街のスピーカーから流れ出る。
「聞こえるか。民衆よ。既に周知していると思うが、今朝、『シャルル元第3王女』が何者かによって暗殺された。私たちの手によって罰するべきではあったが…どうやら天罰が下ったのであろう。これもまた、運命といえよう。人間の行いは、良くも悪くも報われる」
ザワザワザワッ。と噂や憶測が飛び交う街々。
「つまり、これにより10年前の大戦争での大罪人は全てこの王都より根絶した。皆がこの国で生きる意思を表したあの日の報いが、今!ここに示されよう!喜べ!民たちよ!」
――万歳!万歳!シャルル元第3王女暗殺万歳!!
街々に飛び交う活気と一体感を生み出す声々。
王国の民衆は何度も両手を天高くあげた。
そんな最中、群衆の中の1人の老人が言葉を漏らす。
「王女さまぁ……」
――と、その途端。
それを聞いた天帝警備兵が、その老人に早々と迫りくる。
「おい!きさま。今哀れんだな?哀れんだよな?」
「やめろ、やめろぉおおおおお!!」
老人は2人の天帝兵に両腕を捕まれると、街角の裏路地に連れていかれた。
「きさまら、天帝会は天帝会は何もわかっちゃ、うわぁあああああああ、ああぁぁぁあああああ!!」
周りにいた人間は誰一人として、当然であるかのようにその老人の悲鳴に動揺もせず、見向きもしなかった。
――路地裏から静かに垂れ流れる赤い血。
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天帝国の王都は、主王宮を中心に対になるよう第1王宮、第2王宮、第3王宮とそびえたち、均等に土地の面積を有している。例えるなら主王宮を中心とした『3つのエリアに分けられたルーレット盤』のようである。
その主王宮から第3王宮へと繋がる1本の巨大な石橋『主王宮直属大橋』の太い
その男は、アッシュゴールド色の髪をなびかせながら、煙草をふかすと、
一息に言葉を吐いた。
「クソどもが……」
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民衆の騒めきがしばらくして落ち着くと、中年男性の声が再び街々のスピーカーより流れ出る。
「それでは天帝会より引き続き暗殺犯の捜査を行います。皆さま、ご協力のほどお願いいたします。以上」
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――ガタゴト、ガタゴロ、ガタゴゴゴ。
王都、第3王宮地区の入門をくぐり抜ける馬車。
ナキは手荷物を肩に背負い、ひょいっと馬車から降りた。
「おっちゃん!ありがとな!」
「おうよ!がんばれよぉぉお!」
そう手の甲を見せ、馬車のヒゲ親父は立ち去った。
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