第13話 見えない鎖
特別監獄室内に散らかる、数々に砕けた物。
静まり返る特別監獄室。
――パタンッ。パタンッ。
汚れた服をはたきながらアダマスが立ち上がる。
ジークはアダマスの隣でムチを握り突っ立つ。
「ばぁーさん、演技しやがったな」
「ありゃ、そうだったかい?」
床に倒れる扉の開いた冷蔵庫。
つぶれ落ちた3つのトマト。
「はぁー。久しぶりの戦闘は流石に疲れたさねぇ。お前さんの狙いは初めから、あの3人を逃がさないこと。お前さんのその記憶を読み取る『皇力:記憶の旅(メモリートラベル)』によってねぇ……」
(こやつは、読み取った相手の記憶を利用し、言葉巧みに相手の精神を刺激する。そしてジーク自らに対し「記憶の口外を恐れる者」「記憶に触れられ憎しみや憎悪を覚える者」「眠った記憶を知りたい者」=つまり、ジークに執着する者たちを生み出す……)
「そうだぜぇ。知っての通り記憶を読み取った相手の「大事なもの」を握り、俺様の元へ必ず帰ってくるように「お気に入りの者」に暗示『見えない鎖』をつけるのが俺様の至福、楽しみだぁ」
「相変わらずのド変態っぷりだねぇ」
(まぁ、何よりたちが悪いのがジーク自身の元へ暗示をかけられた者が色々な理由によって戻ってきた後、手練れのジーク自身へ戦いを挑ませるや、挑んだ相手を圧倒し、希望を根こそぎ潰すことへ快感を覚える。
まだ、それで終われば良いがねぇ……。ジークは、自らが戦闘により倒されるまでそれを繰り返すド変態野郎ということださね。ジークを倒さなければ記憶が消えることも。聞きたい情報を漏らすこともないからねぇ)
「はぁ~。本当はこの場所からもアイツら3人を逃がしたくは、なかったんだけどなぁ~」
「どこまで本当かねぇ~」
(まぁでも幸いなことに、こやつは全員を殺すことや物理的に拘束することに快感を覚える狂気野郎じゃなかったてことだねぇ。もし、そうだったら今頃全員、拷問されるか、死んでいたさねぇ……)
「さぁ、ジーク。お前の好きにするさねぇ。老いぼれの始末を頼んだよ」
「戦闘しねぇやつには興味はね~よ。次にココに馬鹿が来るまでおとなしく引っ込んでろ。その時は、俺様が本気で用済になったお前を掃除してやっからよぉ」
「やさしいねぇ~」
(おばばは初めからシャルルがもう一度、ジークに会いにくるための「大事な理由」。つまり「見えない鎖」ね……。
さて、ナキと雨月にはどんな鎖をつけているのやらねぇ……)
「てか、俺様が何もしねぇのわかって言ってんだろぉ~。全く今日は連れないばぁーさんだなぁ~。ここの扉はあんたしか開けれねぇんだぜぇ。なんせ俺様専用の鉄壁の特別監獄『鉄壁のおもちゃ箱』だからなぁ~」
アダマスがハッハと短く笑う。
「褒めてもなんもでんねぇ。まぁもう少しだけ、おばばの話相手をしてくれたら開けてやるさねぇ」
(ただの時間稼ぎだろがぁ……)
「あぁ~。ばぁーさんの相手すんのは疲れるぜぇ~」
「ジークよ。まず、おばばをお姉さんとお呼び。話はそこからださね」
「ケッ。とことん、うぜぇ~ばぁーさんだ」
(さぁ~て、あいつらは、あいつを超えられるかなぁ)
不敵な笑みを浮かべるジーク。
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座り込むシャルル。
血のにじむシャルルの擦り切れた拳。
「シャルル。行こう」
ナキはシャルルの手首をつかむ。
「離してっ……」
「オレたちは最後まで抗い続けるんだ」
「私には何もできなかった……。ナキにも偉そうなこと言ったのに……」
「シャルル、それは違うぞ。お前はオレの目を覚ましてくれた。ずっと抗う背中を見せてくれたじゃねぇか。……だからオレは、ばっちゃんを信じたんだ。今オレたちにできることは、失うことに怯えて逃げることじゃねぇ。無謀にアイツに突っ込むことじゃねぇ。……そうだろ。諦めずに生き抜くことが今オレたちにできる抗いなんじゃねぇのか」
シャルルはうつむいた瞳から落ちた雫で土を湿らせる。
「私には、もう。あの人しかいなかったの……。生き抜いても何もないわ……」
「シャルル。ばっちゃんはな、そんなこと言うために逃がしてくれたんじゃねぇだろ。ばっちゃんは言ってただろ。もっとお前は、自分のために生きろって」
「自分のため、に……」
「シャルルに何があったか、オレはこの10年間のことは全然知らない……。でも、きっとお前みたいなやつがこんなところで捕まっていちゃいけないんだ。そんなことおかしいに決まっている」
シャルルの肩に手をのせるナキ。
「悪いこと、してねぇんだろ?」
コクリと頷くシャルルはナキを見上げた。
表情を柔らかくするナキ。
「だよな。もし『自分のため』ってやつが今わかんねぇなら、わかるまで生き抜く理由が必要なら、オレがいる。お前のことを知っているやつも必要としているやつも必ずこの世界にいる。それに、アダマスのばっちゃんも死んだわけじゃないんだ。だから生き抜こう」
「オレもひとりぼっちだったけど、今日こうやってシャルルに出会えたんだからさ」
ナキはシャルルを見て笑顔になった。
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澄んだ空。
風が吹き、揺れる草花。
黄色い花畑の真ん中に座り込む少女シャルル。
「お母さん……」
シャルルは、うつむきながら涙をこぼしている。
シャルルの前に、現れる少年ナキ。
「シャルルっ、寂しかったらオレが一緒にいてやるよ」
太陽のように万遍の笑みで、ナキはシャルルに手を差し伸べた。
「なっ、いこうぜ。オレがいる」
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「……やっぱり、ナキはナキだね。弱気になったなんて言って、さっきはごめんなさい。」
(昔からあなたが今できることを精一杯にする人)
シャルルは一息つくとやわらかな表情へと変化した。
「みんなで生き抜こうね。約束だよ。ナキ」
シャルルは拳をナキに差し出す。
「あぁ」
その拳に拳を当て、約束を結ぶ、ナキ。
「ありがとう」
雨月がシャルルとナキに近づく。
「シャルル様、お手を」
「えっ?」
雨月がシャルルの指輪を見る。
「生死の指輪……割れていませんね。アダマスさんは死んではいませんよ」
シャルルは溢れる涙を指で拭った。
「ほんとだ……よかった」
シャルルのかすれた声。
「よかったなシャルル。あの、ばっちゃんのことだ。大丈夫に決まってる!」
「とりあえず、今は一度ここから外へ出よう。そんで、それからまたアダマスのばっちゃんのことは考えようぜ」
「わかったわ」
「雨月君もいるしなっ!」
ナキが冗談交じりに笑いながら雨月を見た。
「オレは暗殺犯の疑いを晴らすためにシャルル様を外に連れ出す協力をするだけだ。それにアダマスさんにも借りができた。あと、オレのことは、アマツキでいい」
ナキは雨月を見てニタリとする。
「っしゃ。それじゃあシャルル。アマツキ。行くか!」
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