第26話 ぶつかる心

 レオンの背後で止まる3人の足音。

 重々しく固唾をのむレオン。


(随分と会議が終わるの早いじゃねぇか……第3王宮官長バトーさんよぉ)


 レオンの背後、中央に立つのは異様なオーラを放つ第3王宮官長『バトー・ヴィヴロス』。第3王宮を管理する最高官位。天帝会最高幹部が身にまとう少し派手な白いコート。後ろになびく銀髪。黒く細いサングラス。何にも動じまいと冷徹で冷静な表情。そして、顔の輪郭を包み込む銀髭が貫録を感じさせる。


 バトー官長の右側には身体を大きく包み込む特殊な白い布を身にまとった大橋護衛の1人が立っている。背には死神の持つような大鎌デスサイズを2本担いでいる。また、目や鼻などはなく大きくむき出た歯のみ描かれた仮面を装着しており、仮面の上部からでる黒く長く伸びた髪は侍の髪型(ポニーテール)のように頭頂部から結び垂れている。


 そして、バトーの左側にはもう1人の大橋護衛『マット』が突っ立ている。片手首に装着されたリング。全身ムキムキの筋肉質な体型。金髪の短髪。上半身は裸をむき出し、羽織った天帝会の白いコートのみが風になびく。

   

 雨月の額から滴る雫が数滴、地面へと落ちる。


(次から次へと……凄まじい気だ。こっちは立っているだけで、精一杯だっていうのにさ……)


 雨月も瞬時に背後の異様な気配に気づき、カラ傘の持ち手をより強く握りしめた。

    

 3本の指でサングラスの位置をカチャリと直すとバトーがゆっくりと口を開いた。


「お前ら全員ここで何をしている?」


 元第3王女シャルルをサングラスの隙間から鋭い眼光で見つめるバトー。


「元第3王女シャルル……か。なるほどな」


「なぜ、お前がここにいる七英傑Ⅲ獅子帝レオン。それにお前も第三王宮監獄のおもりはどうした七英傑Ⅳ繋縛帝けばくていジーク。……あと、そこの2人のガキはなんだ?」


 バトーの声は空気に重くのしかかると、低くゆっくりとここにいる全員の身体へじりじりと触れていった。


(さぁ~てどう言い訳するかなぁ……)


 ジークは額から一粒の汗を流し、苦笑いする。


「これは、あのぉですねぇ~…」


 バトーがニヤリと口角を上げ、口を開く。


「まぁいい。ジーク、レオン。こいつらは知りすぎた。まず、そこにいるガキ2人を殺せ」


 目を見開くジークとレオン。


(冗談だろ……オレのオモチャをこんなところで失えってかぁ~。せっかく久々に面白いのに出会えたって言うのによぉ)


 レオンは突っ立ったまま微動だにしない。


 雨月がレオンの背後にいるバトーを中心とする3人にゆっくりと視線を移す。


(ここまで、か……)


「シャルルは……シャルルはどうなるんだよ!!」


 バトーに大きく言い放つナキ。


(ナキ!)

(おい、死に急ぐ気か)

(紅髪、落ち着け)


 ナキに想いを向ける雨月、ジーク、レオンの3人。


 バトーがナキに視線を移す。


「お前、威勢がいいな。力なき弱者よ。俺は弱いやつに耳は傾けん。……レオン?なぜ突っ立ている。早くその紅髪の小僧を殺せ」


 バトーは護衛の1人であるマットにもナキを殺すように目で合図を送った。


「よそ見するなよぉ。カラ傘野郎」


――その瞬間。


 雨月のカラ傘を握る手首がジークのムチにより捉えられる。


「しまったっ」


 雨月は素早く、もう一方の空いた手でカラ傘の持ち手を切り替えようとするが……

 しかし、ジークはそれ以上に素早く雨月に近寄るとてのひらで雨月の頭を鷲掴み、そのまま地面へと叩きつけた。


――ドガァアアアアア。


 ナキの背後で響く衝撃音。


「アマツキ!」


 瞬時に振り向くナキ。


「はい、タイホ~」


 ジークはニヤリと口角を上げる。

(まだ、殺しはしねぇ~よ)   


――と、途端。


 ムキムキの護衛のマットがシャルルを抱えたナキのすぐ目の前へと現れる。


「お前もよそ見なんてしている暇はないんじゃねぇのか?」


 マットがナキの眉間へと力強く握った拳を大きく振るう。


 まさに、プロボクサーのように……


「避け、きれねぇ」

   

――バシッ。


――その瞬間。


 マットの拳がナキの眉間の前で止まる。


 低いト音で言葉を吐き、マットの手首を掴むレオン。


「おまえ……」 


 握り潰れそうになるマットの手首。


「シャルル元王女がいるだろが」


 レオンの面を瞬時に見たマットの目が大きく見開く。

 

 そして、眉間にしわをギュッと寄せるレオンの怒りに満ちる表情を見るなり、マットは顎から雫をポタポタと急いでこぼした。


「くっそ。天帝王の犬め」


 と、捨て台詞を吐くとレオンの掴んだ手を振り払い、マットは後退した。

 

 レオンを細いサングラスの隙間から見るバトー。


「なんだ、レオン。情でもわいたのか?七英傑でもあろうものが弱者を庇い、目ん玉やるほど落ちぶれたとはな」


「バトー第3王宮官長。失礼ながら、オレとの取引によって第3王宮から脱獄した者2名より元第3王女を取り返すことができました。これで天帝国のメンツは保たれます。なので、こいつらの調査及び始末はオレに任せてもらえないでしょうか」


 ジークはその言葉を聞くや冷や汗を流す。


(おいおい、獅子帝さんよぉ。言うねぇ~。それじゃ王宮の番してたオレが怒られちまうじゃねぇ~か。……まぁでも、このおっさんにそんな言葉遊びが通じるかなぁ)

   

「お前さぁ。律儀な振りするなよ~。取引?何を勘違いしている?足止めのための虚言だろ。今なら、誰にも逃げられずに確実にこいつら消せるもんな~。よくやったよ。獅子帝レオン」


「あとは、第3王宮管轄が責任を持って始末しといてやるよ」


(どの口が言ってやがる……腐れ外道が……)


 レオンは煙草の咥え、口を強く噛みしめた。


 バトーはニヤリと口角を上げ、続けて話し出す。


「正しい選択はなんだ?……そう、その女ごとこいつらを消すことだよな?それが、最善だろ?なぁレオン」


「……」


 黙り込むレオンの額から流れ出る雫。


 拘束され地に伏せる雨月の背中に乗り上げるジーク。


(まぁ、七英傑であるオレらの立場上、官長クラスには逆らえないわなぁ……)

   

 雨月は額から血を流し、ナキの方を見る。


(くっ……シャルルは生かされているはずじゃなかったのか?なぜ、バトーはシャルルを消す指示をも出した。何をどこまで信じれば……)


――その瞬間。


 ジークは雨月と同時に目を見開く。


(なんのつもりだぁ?あの紅髪)


 ナキはシャルルを大橋の欄干へとそっと寝かせ……

 そして、レオンへと向かい一歩一歩と足音を鳴らした。


「お前が助けれなきゃ、またオレが助けるだけだ!」


 そのナキの一言がバトーからナキへとレオンの視線を向けさせる。


 ナキは拳をゆっくりと自身の目の前で握り戦闘体制になると、大きく息を吸いレオンへ言い放つ。


「かかってこい!まずは、オレが相手だ!獅子帝レオン!」


(((無謀だ……)))


 マット、ジーク、雨月の重なる思い。


「生粋の馬鹿だな。命乞いでもすればいいものを」


 バトーは無情な表情で言葉を吐き、ナキを見る。

    

 レオンは口角を上げる。

 そして、すぐに卑劣な面でナキを見た。


「わるいな、紅髪。オレは全く汚ねぇ大人だよ。だから今からお前を殺す」


(口にはだせねぇが……紅髪。感謝している。お前らを消すことを迷ったオレがバカだったぜ。シャルルはオレとお前のどちらかしか助けられねぇもんな……) 

  

 ナキの目の前へと立つレオン。


 拳を力一杯に握りしめるナキ。


「ハァアアアアアアアアアア」


――ブォーーーーーーーーーーン。


 大声を上げるとともにナキの身体からでる紅い霧状のオーラ。片目の瞳も紅色へと変わる。


 ナキは自分の手を見る。


「出た……さっきと同じだ」


 続けてレオンが拳に力を込める。


――ブォーーーーーーーーーーン。

  

「せめて、お前と同じ気持ちだけで答えよう……」


 同時にレオンの身体からはアッシュゴールドのオーラが放たれる。


「『しん』の力のみの開放……。基礎練習でよく使ったなー。懐かしいぜ、この感じ」


 レオンは手を握り、離し、握るを繰り返す。


 そして向かい合う2人はお互いの瞳を見つめた。


「全力でいくぞ」


「あぁ」


――タッタッタタ……!!!!


「ウァアアアーー」


 叫ぶ2人は互いに近寄り――。

 

 同時に拳を振るった。


「ラアァァァァアアア!!」

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