第2章『~革命軍特殊捜査部隊 入隊編~』

同志

第31話 砂漠の隠れ家

 王都から少し離れた砂漠地帯エルグード。

 広がる砂漠地帯にあちらこちらと不揃いに立ち並ぶ砂岩石。

 吹き荒れる砂塵。


 ロカはナキを抱え、巨大な崖岩がけいわの先端から広がる砂漠に向かって飛び降りる。


「もうすぐだよ」


 ナキは目を大きく開く。


「すっげぇ!綺麗だ」


 果てしなく広がる砂漠……

 

 ナキは広大な砂漠を包むように照らす、茜色にほんのりと輝く夕日に圧倒されていた。

   

「お~い!」


 砂漠地帯の中にひときわ目立つ、いびつな形をした大きな砂岩石の根本でヴィックが叫んだ。


 主王宮直属大橋にいた巨漢、革命軍特殊捜査部5番隊隊長『ヴィック』。

 脱いだ黒いフードから現した顔の輪郭は四角くもどこかもの柔らか。少し大きく鋭い二重の目と短いあごヒゲ。


 雨月はヴィックの隣に立ちロカとナキを見ている。


 いびつな砂岩石にもたれかかる狙撃銃と寄りかかる狙撃手の若い女性。


 第3王宮地区で鐘のある塔にいた狙撃手の若い女性。革命軍特殊捜査部2番隊副隊長『ロア・ブラックチェリー』。

 

 脱いだ黒いフードから現した童顔は可愛さとは裏腹に少し性格きつめの顔にも見える。が、どこか凛々しくもあり女性らしさを感じさせる。身長は160cmほど。大きなアップルグリーン色の瞳を瞬させると同色のミディアムショートの髪を風になびかせた。


 立ち込める砂煙。


 ナキとロカは3人の目の前へとたどり着く。


「少し、待たせたね」


 ロカがみんなの顔を見るや笑みをこぼした。


 ロカの肩に抱えられていたナキは地に足をつけるが、雷のしびれが抜けずにふらついている。


「ア・マ~ツ・キモ、キタノ・カ~」


 痺れるように喉と身体を震わせながら話すナキに、雨月は視線を移す。


「うん。プ、ハハハッ」

 

 雨月はナキの痺れる様子を見て小さく笑った。


「なっさけないっ」


 ロアはナキを見てプイッと首を横へ向ける。


「じゃあ、お前!やってみろよ!めっちゃくちゃ…」


 ロアへ向けナキが言葉を吐く。


 が、ロカは続けて話すナキに触れ、再び電気を流し始めた。


「シ・ビレ~ン、ダヨ~」


「おいっ!」


「ヤ・メェ、ロォ~」


 遊ぶように電流を繰り返し流すロカにナキが怒る。


「でも結構きくだろ?この電気マッサージ。疲労回復に良いんだよ」


 ロカは悪だくみをしたように無邪気に笑った。


「タ・シカ、ニ~」


「じゃね!!――ハァ。ハァ。結構これ疲れるんだぞ」


 ナキは手を下へ垂らし、ぐったりとだれるように屈んだ。

   

「じゃあ、次はロアもやってあげようか?」


 ロカはロアに視線を移すと、からかう様子で口を緩める。


 ロアはムカっと眉をひそめると、すぐさま隣の大きな狙撃銃をガッチリ構え、銃口をロカへと向けた。


「やったら本気で撃つからね」


「まぁ、まぁ」


 ヴィックは額に汗を流し、苦笑いしながら2人の仲裁に入り……


「ごめん、ごめん」


 ロカも同じく額から汗を流し苦笑いした。


――と、その瞬間。


 ロカの左肩から右胸に一直線にかけ赤い飛沫が吹き出る。


――ブッシュ!!


 それを見るや目を大きく開ける一同。


「ロカ総隊長!?」

 

 ロアは口を開けたまま……


 一瞬ふらつくロカを支えようと手を差し伸べた。


 が、すぐにロカは踏ん張るように立ち直り、いつものようにヘラヘラとしながら後頭部を手で押え、口を開く。


「やっぱり斬られていたみたいだね」


 ナキが何かを思い出すように口を開く。


「あの時の…」


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 主王宮直属大橋で仮面の者がロカへ向かって鎌を振りかざす瞬間の光景。

******************************

   

(オレを守りながら戦ったから…)


(雷帝と渡り合える『仮面の鎌のやつ』はいったい何者なんだ…)


 ナキと雨月の頭の中を巡る臆測。

   

 ヴィックが続いてロカに近づく。


「総隊長!大丈夫か!」


 ロカが開いた傷口を手で押える。


「大丈夫!大丈夫!みんな心配してくれありがとう。これくらいたいしたことないよ!さぁ、暗くなる前に中へ入ろう」


(総隊長が怪我をするところなんて、しばらく見ていないぞ……)


 めったに総隊長が怪我をすることがないのか、ナキと雨月に比べ、ロアとヴィックの焦る様子がそれを物語っていた。




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 5人は大きくいびつな砂岩石の根本に眠る鉄扉の前へと立ち並ぶ。


 ロカが鉄扉全体を包むように雷で電気信号を伝えると鉄扉が開き、一同はその中にある革命軍特殊捜査部の拠点へと入っていた。




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「帰ってきた…」


 黒髪の少年がどこか大部屋の鉄扉の前で小さく言葉を漏らす。




************************************************


(クンッ。クンッ。)


 どこかの一室のベッドで眠る長髪の美女が、鼻をヒクヒクさせる。




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 土壁に松明が点々と灯る地下道を進む5人一同。

 整地された道。


 ロカを先頭にナキと雨月が横に並び……

 その背後にロアとヴィックが並び歩く。

   

「すっげぇ。砂漠の下にこんな道があるなんて…」


 ナキが急に落ち込んだように暗くなる。


「あるなんて?」


 雨月は、そのナキの様子を見るや瞬時に問いかけた。


「すんげぇ!!!わくわくするだろ!これは絶対に秘密基地だぁ!」


 ナキは瞳をキラキラと輝かせる。


「子供かっ」


 ロアがシビアにナキにツッコミをいれる。


「じゃあお前は大人かっ!オレとたいして変わんねぇーだろ」


「なに?私が子供だとでも思ってたの!?」


「別にそういうこと言ってんじゃねぇよ!」


 小競り合いするナキとロア。


「まぁ、まぁ」


 ヴィックは苦笑いしながら2人の仲裁に入り額に汗を流した。


(こいつらなんなの。初対面なのに相性悪すぎないか……)


 そうしているうちに地下道の奥に現れる鉄扉。


 上機嫌にも見えるロカは鉄扉の前で足を止めた。


「さぁ、ここがオレたちの家だ」


 開く鉄の扉の隙間から光が漏れる。


――ギィッ。

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