第30話 散らばる運命

 マットの腕を貫いた一筋の雷がまっすぐにバトーの目の前まで接近する。


――と、その瞬間。


 大鎌を担ぐ仮面の者が瞬時にバトーの前へと現れ……


――ブォンッ。


 風を切る音とともに大鎌を一振りすると、綺麗に真っ二つに裂かれる一筋の雷。

 2つに裂かれた雷はバトーの両脇を通り過ぎ、大橋の両淵へとぶつかる。


――ドォォォオン!!


 凄まじい衝撃とともに大橋の欄干の瓦礫が砕け落ちる。


「雷、切れるんだ~」


 ヘラヘラと口を開くロカ。


「当たり前だろ。新しい七英傑なんだからな」


 口角を上げるバトー。


(へぇ~。あの噂の新人さん……やっぱりね)


 ロカは口から笑みをこぼしつつも、目からは一切笑みをこぼさない。


「ほんと、君たちのやり方はつくづく気に食わないね」

  

「くそっ……」


 マットはロカの雷攻撃を食らった片腕を抑え跪く。


「やれ、マット」


「バトー官長、任せてください。雷帝よ……そんなに見たけりゃ見せてやるよ、このリングの力をなぁ!」


 マットは立ち上がり、リングの装着された右拳に力を込める。


「うおおおぉぉお」


 腕のアビリティリングから放たれる大地のように黄色く放たれるオーラ。


――そして次の瞬間。


 マットは地に拳を打ちつける。


一角イッカク


――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。


 轟音と揺れる大橋。


「なんだ?!」


 ナキは辺りを見渡す。


 その瞬間、大橋の地表が変形し形成された一角獣の巨大な角のような1本の岩石が上空に向かって突き伸びる。


 凄まじいスピードで、ロカへと向かう鋭い角の形をした岩石の先端。

   

 ロカは体から一瞬で雷を放電しナキの横に雷の速さで現れ……


「少し、ピリッてするからね」


 そう微笑みながら言うと、ナキを片腕で抱きかかえ凄まじい速度でその伸びる岩石の先端を沿うように上へ上へと向かい移動した。


「えっ…はっぇぇえ!!!」




******************************


 マットのアビリティリングの皇力により橋上に立ち込める煙。


 レオンはそのタイミングを機にシャルルを抱え、煙の中へと消えていく。


 そして、同時に町はずれの高台からは革命軍の狙撃手の女も姿を消した。


 一方、煙に乗じて黒牛も雨月を片腕で抱えると、大橋から姿を消し……

 

 ジークも大きく後方へ下がりながら煙の中へと消えていった。




******************************


 ロカを追うように空に向かって立ち込める煙と角岩石。

 

 ロカは角岩石の側壁に巻き込まれないように避けながら、角岩石の最先端まで凄まじい速さで駆け上がった。


「さーて、みんな散った頃かな」


――と、その瞬間。


 ロカは背後から迫り来る何者かの気配に気づく。


 ロカに抱きかかえられた後ろ向きのナキの目にも何かが映る。


 驚き焦る様子のナキ。


「おい!仮面野郎が後ろからきやがったって!」


 ロカの背後にたち込める煙の中から1本の大鎌を手に持つ仮面の者が現れる。

   

「そう簡単にはいかないよね」


 と、余裕そうに笑うロカ。


 仮面の者は煙から姿を現すと瞬時に角岩石の側面を蹴り上げ空高く飛び、ロカとナキに向かって1つの大鎌を大きく振り上げた。


――その途端。


 一気に振り落とされる大鎌。


 2人へと向かう鎌の刃形をした斬撃。


「なんとか耐えてくれ!」


 そうロカはナキに言うと、仮面の者と斬撃へ向かって手のひらを見せる。

 

 ロカのてのひらに集まる雷の光。

  

雷華カミバナ


 てのひらから放出された雷が一輪の華のような形へと一気に広がる。


 衝突する斬撃と雷。


 その瞬間、角岩石の先端に亀裂と雷が乱れ走る。


――ドゴォオオオオン。


 王都中に鳴り響く、凄まじい破壊音。


 橋上へと崩れ落ちる角岩石の先端。




************************************************


 折れた角岩石の最上部の煙が晴れる。


 仮面の者は削り落ちた岩石の表面の上で立っていた。


――ピキッ。


 ヒビの入る仮面。

   

 バトー官長は黒く細いサングラスで岩石の先端を見上げる。


「ちっ、逃げられたか」




******************************


 ナキはロカに抱きかかえられながら王都の屋根を飛び移り移動する。


「いてぇよ!」

    

 服もボロボロになり、黒く丸焦げになるナキ。


「ごめんごめん。でもよく生身で生きていたね」


(やっぱり気力をうまく使えないのか。もっと電力を上げてたら、どうなっていたことやら……)


 冗談交じりに、ロカが苦笑う。


「もう少しだけ我慢して紅髪君、拠点に着いたら手当……って、」


 ロカはナキの全身に広がる火傷の治りを見る。


「君にはその必要がなさそうだね」


「オレ、昔から怪我だけ治るが早いんだ」


(あれ?気づいてないのか、CROWNRINGの皇力のことといい……これは帰ったら教えることが多そうだ……)


 ロカはそう言うと額に汗を流し、苦笑いした。




 王都外へと向かうロカの横顔を見ていたナキは主王宮へと視線を移す。

   

「オレは強くなって、いつか、また必ずここへ戻ってくる」


(シヴァ、ホタル、シャルル……)


 ロカとナキから遠ざかる主王宮と街並――。


「さぁ、もう少し飛ばすよ」

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