第29話 新たな勢力


――ビリッ。ビリッ。


 レオンの上空に現れる小さな雷が空気宙で音を小さく鳴り上げる。


――そして、次の瞬間。


 上空からレオンに目掛け、凄まじい衝撃音とともに1本の雷が一気に落ちた。


――ドォ――――ン。


 すぐさま、それに反応し後退するレオン。

 

 橋上に立ち込める煙。

 ビリッ。ビリッ。と大気に残る雷流。




******************************

――第3王宮地区・町外れの鐘のある高い塔――


――カチャ、ガシャ。


 小さな2脚に支えられた対物ライフルであろう大きな狙撃銃を手動装填する音が聞こえる。


 第3王宮地区にそびえ立つ、鐘のある高い塔の上から黒いコートを羽織る狙撃銃を構える者が1人。照準器のない変わった狙撃銃。黒いコートからチラリと見える甘くソフトな谷間。黒いフードの中からはアップルグリーン色の髪がおでこと頬へと垂れている。髪色と同じくアップルグリーンに輝く大きく綺麗な瞳。


「いくよ。モウちゃん」


 そう言い、トリガーに指をかける女性。


――と、次の瞬間。


 その輝く大きく綺麗なアップルグリーンの片瞳が鷹のような目へと一変した。


 女性の鷹のような目に映る大橋の光景。

 煙が晴れるとともにロカ、ナキ、レオン、雨月、ジークと次々にその目に映しだす。

 

 そして、つかの間、その女性の目に映る情景はズームされ、銃口の照準は瞬時にジークへと移り……


 ジークの頭部を捉えた。




******************************

   

 ジークはすぐさま鐘のある塔から何者かが自身を狙うことに気づく。


「はいはい。わかったよ。」


(まさか、特殊捜査部の2番隊副隊長まできてるとはねぇ~)


 両手を上げるジーク。

 そして、雨月の両腕に巻きついたムチをほどき手に握るムチを地へと落とした。


 すると、ジークと雨月の真横に大きな影が現れる。


――上から何か降ってくる。


――ドーーーーン。


 地響きのする巨大な大橋。

 ジークの周りに立ち上がる煙。


 立ち煙の方を見る、ナキ、バトー、マット。


 たち煙の中から現れるフサフサの獣の手がジークの両手首を強く掴む。


「よけいなことするなよ」


(今の隙を狙ってきたかぁ……すべては計算の上ってことだな)


 その低く野太い声を聞いたジークが背後へと目を逸らす。


 煙の中から現れる黒いコートに身を包む巨漢の男。


「黒牛か?おいおい、5番隊隊長ヴィックさんまでおでましとは聞いてねぇ~ぜ。随分用意周到だなぁ~捜査部隊さんよぉ」


『通称:黒牛』と呼ばれる革命軍特殊捜査部、5番隊隊長『ヴィック・シュティーア』。黒いコートに包まれた巨漢の男。黒いフードから少し見える顎鬚とジークを見下げる鋭く大きな片目。


 ジークは頭の後ろで腕を組み立ちあがる。

 腕を掴んだ状態でジークの背後に立つ黒牛のヴィック。


「何もしねぇ~よぉ。ただ1つだけ、このカラ傘野郎に教えといてやらねぇことがあるなぁ。お前が探しているカラカサ一族暗殺事件の真相について俺様は知っているぜぇ……って、おっとそれ以上は言えねぇけどなぁ~」


「なぜ、お前がそれを……」


 拘束から解き放たれた雨月は立ち上がるやすぐにジークの胸ぐらを一気に掴んだ。


 雨月を見下すジーク。


「さぁな~。教えてほしかったら俺様を倒してみろよぉ。あ、それと倒せたら首輪野郎が探している『シヴァと女』の情報についても教えてや……」


「今すぐ、全て教えやがれ!」


 雨月は険しい面で目を開く。


「おい、お前らいい加減にしろ!」


 そう、黒牛は冷静沈着に言葉を吐き……

 ジークの頭上で空いた拳を振り上げた。


「へいへい」

(これで鎖の取り付けは完了だぜ。また会おうぜ、紅髪、カラ傘……)


 ジークは不敵な笑みを浮かべ、戦意を解いた。




******************************


 ロカがバトーを見つめる。


「っていうことでおっちゃん行くわ。また会ったらゆっくり話でもしようよ」


「逃がさねぇって言ってんだろ?」

    

 ――その瞬間。


 ロカの隣に現れたマットが拳を振るう。


「逃がすかよ」


(こいつ隙だらけなんだよ!本当に雷帝かぁ?実は大したことないんだろ)


 ロカの左頬に急接近するマットの拳。


(入ったぁ!!)


 しかし、瞬時にロカはあっさりとかわす。


「なっ?!」


「へぇ!面白いリングつけてるんだね。どんな能力のアビリティリングなの?教えてよ!」


 体制を立て直すマット。


(よけた?……いやまぐれだ)


「お前が死ぬ前に見せてやるよ、雷帝さんよ」


 マットはロカに再度急接近しパンチを繰り出すが全て軽々と避けられる。


「死ぬ前は嫌だな~。男の前で死ぬ趣味はないよ~」


 そう言うとロカはマットの腕を即座に掴んだ。


 マットの左腕にはしる小さな電流。


――ビリッ。ビリッ。


「?!」


「それじゃまた今度見せてよね」


――その瞬間。


「雷撃(ライゲキ)」


――ゴォーーーン。


 空気がひび割れるように大きく鳴る音とともに、マットの伸びた左腕を一筋のいかづちが貫く。


「うわぁぁぁぁ!!!」


 腕を抑えながらマットが叫ぶ。


 マットの腕を貫通し、まっすぐにそのまま突き進む雷。


 その雷は勢いを落とすことなくマットの背後に立つバトーへと向かった。




******************************


 煙草を吹かすレオンがその期にナキの真横を通り過ぎる。


「さっき、なぜオレに戦いを挑んだ?」


「オレはただ守りたいものを守ろうとしただけだ」


 ナキに背を向けたままシャルルが眠る欄干へと向かうレオン。


「そうか……じゃあな、紅髪」


 レオンは煙草を咥えた口元を緩め、去っていく。


(死ぬ恐怖より、失う恐怖か……)


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