第32話 砂塵に重なる賑わい

 開く鉄扉の前で笑みを浮かべる黒髪の少年……

 に続き、鉄扉の内の大部屋にいる革命軍特殊捜査部のメンバー達が一斉に笑みをこぼす。


――ガッシャン。


 音をたて完全に開く鉄扉。


 カウンターに座る針鼠のようなツンツンとした青白い髪の男が合図をするように先んじて口を開いた。


「帰ってきたぞ」


 その合図と同時に歓喜の声を上げ、騒ぎだす革命軍特殊捜査部隊のメンバーたち。


「「おかえりっ!」」


 みなの声が重なる。


「ただいま」

 

 ロカが笑顔で答えた。


――カランッ。


 グラスと氷のぶつかる音が大部屋に反響する。


 1人黙りカウンターでグラスに入ったブランデーを飲むほろ酔いのおっさん。革命軍特殊捜査部1番隊隊長『アスラ』。後頭部へと流れる赤茶色の髪と向き出た額。薄く口の周りに生えたヒゲ。ダークブラウンのマントを羽織り、白銀のブーツを履いている。


 まず初めにナキは身震いさせると、視線をアスラへと移し……


「なんだ、あのおっさん……」


 気迫に圧倒されるように目を奪われた。




************************************************


 1階と2階にわかれた大部屋はどこかのギルド酒場のようにあちらこちらと丸や四角いテーブルが並べられている。オーダーのできるカウンターとカウンター裏の棚に並ぶたくさんの酒のボトル。宴会用に備え付けられた部屋の奥にある舞台。火のついていない暖炉。誰かが遊んだであろう樽の上に散らかるボードゲーム。通気口であろうパイプが取り付けられた数本の大きな柱。天井からぶら下がる大きなシャンデリア。


 大部屋の上部は2階から見下ろせるように高く吹き抜けており、手前に入り組む手すりから1階をメンバーたちが覗くように顔を現す。


「すんげぇ…!なんだよ、ここ!!それにいろんなやつらがいる」


 ナキは広がる大部屋や個性豊かな姿かたちの革命軍特殊捜査部のメンバーたちを見渡し、目を光らせ続けた。


 ふと、ナキは斜め下の方へと視線を向ける。


「父ちゃん、おかえり!」


 ナキの隣のヴィックの足にしがみつく黒髪の少年。


 先程から鉄扉の前にいた黒髪の少年『コルト・シュティーア』。ヴィックのたった一人の息子。大きくぱっちりとした目。黒髪のてっぺんからピョンッと飛び出たくせ毛。少年が浮かべる笑顔は子供独特の無邪気さを感じさせる。


「あぁ、ただいま。コルト」


 ヴィックはコルトの頭に大きな手のひらをおいた。


 コルトは笑みをこぼす。

 

 その様子を見て、ロカとロアは和むように瞳を閉じた。


「コルトォ!いい子にしてたかぁ~」


 と声を上げるロアがいきなりコルトの脇の下に手を突っ込むと、こちょこちょこちょと指を無造作に動かした。


「もぉ!ロア姉!」


 コルトは急いで逃げるようにロアから走り離れる。


「まぁてぇ~、コルト!」


 ロアはあどけない表情でコルトを追いかける。

    

 その光景を目で追っていた雨月はカウンターの上で足を組み、あぐらをかく幼き少女へと視線を移した。


 カウンターの上にいる眼鏡をかけた幼き少女。


「プッ、はぁ~」


 その少女は酒のビンを口につけ、カブ飲みしている。


 頬と鼻先を赤く染める小さな少女。


 革命軍特殊捜査部5番隊副隊長『リリィ=スターチス』。ヴィックの隊のNo.2。

 

 幼女のような童顔にくりっとした瞳。茶髪のショートカットの頭上にかける赤縁メガネ。フェイスラインに垂れる髪が頬の前で揺れ動いている。黄緑色をベースに赤いチェックの入った衣装は、子供っぽさとは真逆で少し生真面目さをも感じさせる姿にも見える。


(あの子、まだ幼い子供だよな……)


 雨月は苦笑いし額に汗を流した。

   

――ドンッ。


 大部屋に響き渡る、カウンターにボトル酒を勢いよく置く音。


「次は樽じゃ、シドよ!今日は負けんからな!」


 リリィは飲み干した酒のビンをカウンターに勢いよく置いたあと、隣の席に座り同じように頬を赤めるツンツンとした青白い髪の男に向かって喧嘩を売るように口を歪ませ話しかけた。


 革命軍特殊捜査部2番隊隊長『シド=エンドアイ』。ロアの所属する隊のNo.1。


 針鼠のようなツンツンとした青白い髪。きりっと細い目の中に輝くサファイアのような青い瞳。リリィと相対して背は高く、襟の長いコートを羽織っている。カウンターに寄りかかる白と青い柄の鞘に入った長刀が異様な存在感を放っている。


「いいぜぇ。それよりお前さ、毎回酒飲む度にばばぁ口調になるのやめろって言ってんだろ。かわいくねぇ~んだよ」


 シドはリリィの頭を鷲掴むと目をつむりながらへへっ、と笑った。

    

 その2人の様子を見る雨月はヴィックへ話しかける。


「あのカウンターに座っている子って今お酒飲んでましたけど、良いんですか?」


「あぁ。リリィか……って、えっ?」


 ヴィックの目が一瞬にして黒い点になる。


 カウンターの上と地に転がる大量の空ビンと酒のボトル。


「はぁぁあ!てめぇら!資源が枯渇するだろがぁああ!」


 ヴィックはシドとリリィの元へ急ぎ走る。


 ヴィックと入れ替わり雨月の前に現れるコルト。   


「ハハハ。傘のお兄ちゃん!リリィ姉はあぁ見えて立派な大人なんだよ」


 ケタケタと笑うコルト。


 酒樽を取り上げようとするヴィックだが、リリィは樽に抱きかかえるように引っ張りつき一向に離れない。シドも樽を守ろうとヴィックの邪魔をするが、赤らめた頬をひじでグイグイと押される。


 酒樽の取り合いをするヴィック、シド、リリィ。


 それを見て周りのメンバー達も同じように騒ぎ笑う。


「やれやれっ!」


 コルトの方へ向かって歩くロア。


 ロアはその騒ぎに気づくとシドへと視線を移す。


「あぁ!シド隊長ずるいですよ!私も飲みたいです!」


 ロアがシドの隣へと向かう。


「お前はまだはぇんだよ。てめぇはまだ子供だ、子供」


 シドがロアを見て冷汗をかく。


(こーいつ飲むと記憶は飛ぶわ。激絡みしてくるわ。の、とんだ酒乱野郎だからな)


「プっ、子供だってよ」


 シドとロアのやり取りを近くで観戦していたナキがロアを指さした。


 ロアを見て、笑いあげるナキ。


「はぁああ!」


 そのナキを見るやロアはすぐさま拳を握りしめナキへと近づき……


「いってぇ!」


 ロアはナキの頭をぶん殴る。

 

 ナキはたんこぶができた頭上を押えながら屈みこむ。


「そこまですることないだろ!」


「ふんっ」


 そっぽを向くロア。

   

「お客さんよ、ロアは怒らすと怖いぜ」


 ナキは周りのメンバーの1人に笑われる。


「あいつ、オレに当たり強ぇんだよ……」

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