第33話 招かれざる者

――パンッ、パンッ、パンッ、パンッ。


 大部屋に鳴り響くようにロカが手を叩く。


「は~い。ちゅうもーく!」


――ザワザワザワッ。


「は~~い。ちゅうもーーく!」


 ロカは先程より少し大きめの声を上げる。


――ザワザワザワッ。


「はーい。ちゅう……」


 ロカはニコニコと笑みをこぼしながら大部屋の中心部へと移動する。


――ビリッビリッ。


 と、いつの間にかロカのてのひらに集まる雷の流体。


「よしっ!今からこれをぶっぱなしまーす!」


 ロカが天に振り上げた片手の平に乗る、巨大な雷の球体。


 その球体の存在感に気づくメンバー達は急いでビリビリッとした光を放つロカに注目した。


「………………」


 一瞬にして静まり返る1階と2階の大部屋。


「はーい。注目ありがとう!それじゃ、ここ、革命軍特殊捜査部の新しい仲間として今から入隊するメンバーを紹介するね。まず1人目がそこにい……」


 と、その瞬間――。


 凄まじいスピードで2階の吹き抜けから何者の影が現れ……


「くっせぇーーーなぁ!!!」


 床を強く踏み込んだ美しい顔立ちの獣耳の豊胸美女がナキの首元へ鋭く爪を立て、獣手(猫の手)を一直線へと振るう。


 ――その間は一瞬。現場に走る緊張感。


 雨月がその殺気に気づき、目を見開いた頃には、クラウンリングへ爪先が触れ……


 誰しもがナキの死を悟った刹那――。


 その獣耳の豊胸美女の手が、ピタリと止まった。


 ナキが驚いた様子で目の前を見る。


 そこには、その獣耳の豊胸美女の

 片腕を掴む5番隊隊長ヴィック。

 長い鞘を美女の首に当てる2番隊隊長シド。

 そして、ナキを瞬時に後退させた総隊長ロカが片手を広げナキの前に立っていた。


「ガルルゥ」


 獣耳の豊胸美女は牙をむき出し威嚇する。


 革命軍特殊捜査部7番隊隊長『メルティ・ケット』(通称:クレイジーキャット)。


 腕は大きな肉球が目立つ獣の手。猫耳と大きなクリッとした猫目に豊満な胸。尻尾や所々モフモフした愛嬌のある容姿とは裏腹に気性の荒々しさも垣間見える。寝ぐせのついた綺麗な艶やかな長い髪を垂らし、パジャマ姿の素足で立ち、ナキを強い眼差しで見ている。


「お前から皇石こうせきの嫌な匂いが充満しているんだよ!」 


(こうせき……?)


 ナキは額から汗を流し、首を少し傾げる。


「隊長。ロカ総隊長の決めたことだ。」


 2階の広間から聞こえる男性の声。


 その男性は、手札のように不特定多数の美しい女性がプリントされた小さな写真を手に持ち、また机にも複数並べられた小さな写真を眺めている。


 革命軍特殊捜査部7番隊副隊長『ジン』メルティの隊のNo.2。


 金髪のミディアムヘアー。誰しもにモテるであろうと感じさせる甘いフェイス。

 シャルトルーズイエローのネクタイにピッチリと整えられた黒い服装。

 不特定多数の美女の写真を見ながら、鼻の下を長くし真面目な顔で話す姿は異様であり、周りのメンバーをいっさい近づけさせない。


(隊長はあぁなったら人の話聞かないからなぁ……)


 ジンはため息をつく。


 ヴィックは冷や汗を流し、メルティに訴えかける。


「1回落ち着け、メルティ」


「触るな!離せ!」


「私は認めない。この隊に入るのであれば、この男のリングを破棄させろ」


 ロカがメルティに向かって口を開く。


「メルティ。この子のリングは破棄できない。それを決めたのは俺だ。ごめん、許してほしい。この子は特別なんだ」


「私たちは特別じゃないっていうの……。どれだけ皇石のせいで私たちが辛い思いしてきたかわかってるでしょ!だから私たちはアビリティリングを絶対に使わない。……総隊長が掟を破るの!」


 ロカがメルティに頭を下げる。


「ごめん」


 周囲のメンバーたちは頭を下げる総隊長を見て、驚いた様子で額から汗を流す。


「ロカ総隊長、お前が決めたんだ。頭を下げる必要なんてねぇ」


 アスラがカウンターから低く渋い声で続けて口を開く。


「メルティ。紅髪はリングのことを認知していない。何の事情があったか俺も知らないがな。こいつらも俺たちの気持ちをいつかわかってくれるだろ。今は何かを判断できる時じゃねぇ。許してやろうや」


 ヴィックは掴んだ腕を離し、シドも鞘をスッとひく。


「みんな、甘すぎるよ……。危険すぎる。もし……」


 メルティはナキを睨めつけたあとに、雨月も睨めつける。


「もし、隊のみんなに何かあったら私は絶対に許さない。……その時は必ず仕留める」


 ――と言葉を吐いたコンマ1秒。


 メルティの片目の瞳から強い赤紫色の気力の光(オーラ)があふれ出し、大部屋中をメルティの身体から放出されたとてつもない殺気で満ちた気力が包み込む。


 そして、瞬時にその気迫は消え去ると、場は静寂化した。


 ジンや周りの隊長クラスが冷や汗をかく。


(おいおい、マジギレ一歩手前じゃねぇか……。3日分の睡眠で良かったぜ)


 ナキと雨月は硬直し、同時に思う。


(今まで見た誰よりも恐ろしい。そして、死すら許されない)と。


「私はこんなくさいところではいられないわ」


 メルティは、そっぽを向くと大部屋を後にする。


「フンッ。……ジン!いくぞ」


 ロカは振り返ると放心状態のナキを見た。


「驚かしてすまない。メルティは悪いやつじゃないんだ」


「あ、あぁ……」


(生きた心地がしない)

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