第34話 同じ匂い

――パンッ。


 ロカが手を叩く。


「さ、仕切りなおそうか」


 ロカはナキの方に手を大きく広げる。


「本日より入隊するナキだ!」

 

 ナキに注目する各々のメンバーたちが臆測を交わし合い、ざわつきはじめる。


「おい!オレは革命軍に入るとは言ってねぇぞ!……オレには確かめなきゃいけないことがある。……だから、ここで強くなって、力をつけて、必ず主王宮へ行くんだ。だからオレは、そのためにここへきたんだ!!」


(それに、シャルルも必ず取り返す)


 ナキは拳を強く握りしめ、少し暗い表情で視線を落とす。


 ロカが口を開く。


「そうだったね。ナキは大事な家族のことを知るために、大事な人を取り戻すために、ここへきたんだったね」


 静まりかえる大部屋。


 雨月はナキを切ない瞳で見る。


(家族……か)


 ロアは首をプイっと横に向け横目でナキを見ていた。


――カランッ。


 アスラは酒を飲む手をピタッと止めると、グラスに浮かぶ氷を淵にぶつけ、カランッとした音を大部屋に響き渡らせる。

 

 アスラが笑みを浮かべ、口を開く。


「紅髪、じゃあしっかり強くなって、己の目的を果たすために行けばいいじゃねぇか。天帝国の主王宮へ」


――と同時に大部屋全体がどこか寂しくも柔らかな笑顔へと包まれる。


 ナキを強い目つきで見つめるメンバーたち。


「よっ!いい心構えだっ!紅髪の兄ちゃんっ、強くなれよっ!」


「おいおい、面白れぇこと言うじゃねぇか。主王宮へ行くってか!自殺行為だな!まぁ、でもそういうのは嫌いじゃねぇぜ!」


「仕方ねぇーやつだな。何か情報があれば教えてやるよ!その時は飯おごれよ!」


 あたりを見渡すナキは驚きを隠せない様子で動揺した。


(あの紅髪も天帝会に借りがあるたちか…?)


 シドは横目でナキを見る。


「やったれぃ!やったれぃ!」


 リリィは抱きかかえ酒樽をカウンターに置くと両腕を交互に振りあげた。


「がんばって!お兄ちゃん!」


 コルトも鼓舞するように笑顔で声を上げる。


 ロカが一同を見渡し、ナキを見る。


「ねっ。誰も君のことを笑ったりなんかしないだろ。ここにはそんな想いや信念を分かち合えるやつらがいる。……オレの誇りだ。どう?なかなか悪くないだろ?」


 ロカがニッコリと笑みをこぼす。


 そしてロカは続けて少し大きめの声で話し出す。   


「まぁべつに、君がここに入っても、入らなくても、これから仲間になろうが、敵になろうが、ぶっ飛ばし合おうが、好きにすればいいさ!ただ、君、ナキの帰る場所、オレ達の帰る場所はいつもここにある……それだけは忘れるな」

   

「なんで…なんで…。そんな簡単に、見ず知らずのオレを受け入れるんだよ!」


「うーん。オレはそういうやつが大好きだからかな」


 ロカがヘラヘラと笑った。


「紅髪、総隊長の悪い癖だぜ」


 ナキの近くのテーブルに座るメンバーの1人が笑いながら言葉を吐いた。

 

「それと……生きる道は違ってもみんなナキと同じだからだよ。オレ達にはそれぞれ目指すものがある。……誰かを思って進む強い意志があるんだ」


 ロカは話しながらどこか強い眼差しでナキを見た。


「同じ……」


「そっ、まぁ同じ匂いがするってことさ。一緒にいればわかってくるよ」


「わかりあえる仲間がいる。帰る場所がある。それだけでいいじゃねぇか」


 ヴィックがカウンターの方からナキへ向け言葉を吐いた。


「よく言うぜぇ。全然オレらの酒を飲みてぇ気持ち、わかってくれねぇのになぁ~リリィ」


「そうじゃ、そうじゃ」


 ヴィックに向かって不満げにシドに続き、リリィが言葉を吐く。


「よっし、じゃあお前ら今日は朝までオレと付き合えよ」

   

 そう口を開くヴィックから目を逸らすシドとリリィ。


「それは…」


「勘弁じゃ…」


 リリィとシドはすごく嫌な顔をしている。

   

 それを見てアスラが高笑う。


「ヴィックはこの中で一番酒強ぇからな」

   

(あれ以上って、どれだけ酒を飲めるんだよ……)


 雨月は転がるビンやボトル、酒樽をみて苦笑いした。

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