第4話 暗殺者と看守長

「民間人が、民間人が1人、1人死んでしまったぁ!!!」


 そう1人の天帝兵が小銃を震わせながら言った。


「ありゃ~。こりゃ事故だぜぇ~。紅髪……お前に当てるつもりはなかったんだけどなぁ~。刺さりどころが悪かった見たいだなぁ~」


 和服の男はすぐに殴られた横頬を抑えながら、体を起こそうとする。


 現れるキツネのようにスッとした顔立ち。キツネの仮面と同じく、両頬には赤い2本の線模様。薄赤く塗られているアイライン。その顔立ちは、近くにいる天帝兵を惚れこませるように目を奪った。


 無造作に広がるツンッとした髪。首に垂らした太く紅い真珠の首飾り。お世辞にも、その出で立ちは天帝国の雰囲気と馴染んでいるようには見えない。


 一瞬、物音せずに静まり返る現場。 


 周りにいるみなは、血だまりの上で倒れこみ地面にうつ伏せるナキに視線を移した。

 

 そして、次第にジーク看守長と和服男、周りにいた天帝兵の目が大きく見開く。


「イッテーなっ!いきなりなにすんだよ……」


 そう言いながら、みなが死んだと思ったであろうナキが胸を手でわしづかみにしながら立ち上がった。


 額から頬へとスーっと生ぬるい汗が流れ落ちるジーク看守長。


(確実に心臓に刺さった手ごたえはあった……。刃の先端にも血がにじんでやがる)


 和服男もじっとナキを見ている。


(こいつは、いったい……)


 瞬時にジーク看守長はナキに目を凝らす。


(感じる。この違和感。こいつ、首にアビリティリングを装着しているのか……?)


(ってことは回復系の何か、なのか……。いや……)


 ジーク看守長は首に巻かれたスカーフに視線を移した。

 

「んあっ!てんめぇ!!!!」


 ナキは和服男が起き上がる様子を見るや、瞬時に和服男へと走り出す。


――ザァーーーーッ。


 走り向かうナキを阻むようにナキの目の前へと一瞬にして現れるジーク看守長。


 ナキのスカーフをグッと掴み、スカーフを宙へと取り外す。


 そして、勢いよくナキの胸に手を突っ込み胸の中をまさぐりだした。


――ガサガサガサッ。


「やっぱり傷がない……。てめぇ、その首のリングはいったいなんだ?」


 ナキは青ざめると同時に、後ろへと大きく2歩、3歩と後退した。


 ナキの額から流れ落ちる雫が数滴。


「てめぇこそ、いったい何なんだよ!!いきなり刺すし!触るし!きしょくわりぃし!」


 ナキはジーク看守長の不吉さを感じさせる笑みを見て言葉を吐いた。


 その瞬間、ひっそりと和服男が近くに転がるカラ傘を掴み上げる。


「おっと、殺気が駄々洩だだもれだなぁ~。俺様のお楽しみの最中に余計な事するんじゃねぇよぉ~」


 その言葉にハッと気づいた天帝兵たちは瞬時に小銃を和服男へと向け構えた。


「お前らも余計なことするんじゃねぇ~」


 天帝兵を不敵な笑みで睨むジーク看守長。


――と、その途端!!


 和服男は、その一瞬の隙を見計らったようにジーク看守長の背後へと向かい走り……

 

 そして、ジーク看守長の左わき腹に大きくカラ傘を振りかざす。


 しかし、ジーク看守長はその攻撃を見向きもせず、迫りくる和服男のカラ傘を伸ばした左手で勢いよく掴む。


「クッ」


 身動きが取れない和服男。


(ウソだろ。あのスピードの攻撃を受け止めやがった……。なんて身体能力をしてんだ)


 その光景に圧倒されたかのように口をポカンッと開くナキ。


 ジーク看守長はゆっくりと和服男に視線を移すと、瞬時にムチを握る右腕を天へと大きくあげ……

 即座に和服男の首へとムチを巻き付けた。


「うっっ」


 苦しそうな顔で歯を食いしばる和服男。


 和服男は首に縛るムチを右手で強く握りしめ、抵抗するようにもがく。


 と、同時にもう片方の手を休めることなく、ジーク看守長に掴まれているカラ傘を勢いよく振りほどいた。


「おっ、やるねぇ」


 そして、もう一度ジーク看守長の左わき腹に向かって大きくカラ傘を振りかざす。


――ブオォン。


 しかし、瞬時に反応したジーク看守長は和服男の首に巻いたムチを勢いよく引っ張り、自身の身体を90度に回すと、カラ傘を軽々とかわした。


「まぁ、褒めてやるぜ~」


 和服男の身体は、ムチに引っ張られたことで体制が崩れ…


「攻撃をやめなかったことはなぁ~」


――そして、ジーク看守長の目の前に倒れる瞬間。

 

 和服男はジーク看守長に額を大きなてのひらでわし掴みにされ、

 後頭部を地面へと勢いよく叩きつけられる。


――ドザァアアアン。


 地に立ちこめる煙。

 地に倒れこむ和服男。


「お前ら、この暗殺者を押えておけ」


 この一連の流れは、和服男がジーク看守長の左わき腹にカラ傘を振りかざしてから一瞬の出来事だった。


 自然と足が一歩、二歩と後退したナキはジーク看守長を見ながら言葉を吐く。


(こいつ、つよい)


「だから、なんなんだよお前……」


 ジーク看守長はその言葉を無視し、それからすぐ再びナキの首のアビリティリングへと目を凝らした。


「やっぱ、どこかで見たことがあるんだよなぁ……」


――と、その瞬間。


 ジーク看守長の先程まで余裕そうに上がった口角は一瞬にして下がり…


「う、嘘、だろぉ……」


(あの高貴な黒光りのブラックリング。そして、薄く浮かび上がる模様。同じような物を見たことがあるぞ)


 ジーク看守長が目を大きく見開く。


「おい!眼帯野郎!さっきからオレのことをジロジロ見るわ。無視するわ。ブツブツ独り言いうわ。いい加減にオレの話を聞けよ!!」


 ナキの言葉を無視した様子でただ立っているジーク看守長。

 

 が、考え事をやめるやいなや、ものすごい速さでナキへと近づき――。


「はやいっ」


 一方的にナキの首をわし掴みした後、ナキを地面へといっきに投げ倒した。


 ジーク看守長の動きに反応する暇もなく地にうちつけられるナキ。


――ガダァァアアアン。


 地に立ち込める煙。

 仰向けに倒れるナキ。

 ナキにまたがるジーク看守長。


「グッッ……」


 ナキは自身の首を掴むジーク看守長の片腕を両腕で掴み返した。


 しかし、ジークの腕はびくともしない。


(なんて、力、なんだ……)


 ナキのジタバタと動かす両足がその苦しさを表している。


「し、死ぬ……しぬ」


「大丈夫。さっきからお前の話はちゃ~んと聞いているさぁ~。俺様の名前はジーク・リオットだぁ。天帝国、第3王宮で看守長をしている。だから、安心しろ。これからもたくさん話を聞いてやるからさぁ~」

「まぁ、生きていればの話だがなぁ~」


「お前らが、あの、てん、てい、かぁい。かぁ……」


 ナキはどうにか口から空気を吐き、そう言った後ゆっくりと目を閉じた。


「アビリティリングCROWNRINGⅢクラウンリング スリーSSSトリプルエスレート、超速再生の皇力こうりょく……。まさか、こんな形で出会えるとはなぁ~」


 そう言うと、ジーク看守長は不敵な笑みでニヤリと笑った。

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