第17話 血の涙
『
マニスは、天帝兵の目の前で、2勝目の歌詞を歌い始める。
――ゴキリッ。
骨が折れる鈍い音。
天帝兵の首元から離れるマニスの両の手。
――バタッ。
地に崩れ落ちる天帝兵。
マニスの行動を見つめるシャルル。
『君は、どうして~♪』
マニスは胸に手をあて、気持ちを込めながら歌い続ける。
フロアの中央で突っ立つシャルルは目の光を完全に失う。
(まただ。みんな、死んじゃう……みんな、みんな、みんな……)
歌に浸るマニスは続いてすぐさま跳躍すると、雨月の目の前へと現れる。
――ゴキリッツ。
――ゴキリッツ。
――ゴキリッツ。
マニスは雨月を取り押さえる天帝兵3人の首を次から次へとへし折る。
『私に~♪ つくすの~♪』
(命が手からこぼれ落ちるその感覚は戦場でしか味わえない)
雨月は、抜け殻のように1点を見つめ座り続ける。
(そうとう過去の傷が深いらしいな)
マニスは雨月の面に視線を移すが、雨月には何もぜず振り返った。
そして、マニスは雨月から瞬時に離れると、フロアを飛ぶよう駆け続け、自身の部下である天帝兵の元へと次から次へと移動し……
マニスはフロアに転がる銃や槍などあらゆる武器を使い、自身の体術と組み合わせながら天帝兵を次々と葬り去っていった。
天帝兵は声も上げず全く抵抗しようとしない。
その光景は、誰が見てもただただ狂気そのものであり異常をきたしていた。
血に染まるマニスの白いスーツと豪華なコート。
次々と寝落ちるように倒れる天帝兵の肉体が地へと転がっている。
『無償の愛が~♪ その愛が~♪』
マニスは悲しそうにもどこか愛しそうに歌い続け……
そして、次第にフロアの端で天帝兵と交戦するナキのもとへと現れる。
「お前、さっきから何してやが……」
ナキは怒った様子でマニスを睨みつけ、続けて何かを言おうと口を開いた瞬間……。
マニスはひと蹴りにナキと天帝兵を巻き込むように全員を壁へと吹き飛ばした。
――ドガァアアン。
壁にうちつけられ、白目を向く天帝兵たち。
――ゴトッ。ゴトォッ。
壁の瓦礫が大きく崩れ落ちる。
フロア一帯に立ち込める煙。
その中に見える1人の人影。
マニスの蹴りが入る瞬間、ナキは瞬時に右顔隣で腕をクロスにし、ガードをするために受け身を取ることによって、その場から飛ばされずにとどまっていた。
「さっきの変態野郎よりスピードは遅いが、なんて重い蹴りなんだ……」
(ほう、耐えるか)
マニスはナキを見るや歌う口元を少し緩ませ、ナキの右顔に蹴り上げた状態の足を地へと降ろす。
――カタンッ。
と、その音を合図に、ナキは自身の体をひねり、マニスに回し蹴りを入れる。
が、俊敏に、マニスはその蹴りをかわす。
『私を~♪ 包むの~♪』
マニスは最後まで歌詞を歌い終えると、そのままナキとは戦闘を続けず後方に3段ジャンプし、先ほどいた階段の位置まで戻った。
音色と歌声がピタリと止まり、一気に静まり返る1階フロア。
転がる無数の肉塊と床に広がる無数の血溜まり。
血の海となるフロア一帯。
その中央で雨月は依然と力が抜けたようにずっと座り続け、微動だにしていない。
辺りを見渡し、呆然と突っ立つナキ。
階段にゆっくりと腰を下ろすマニス。
――タッタッタッタ。
シャルルは、階段に座るマニスの目の前へと近づき、
――次の瞬間。
――パァンッ。
シャルルの平手打ちがマニスの頬へと入る。
マニスが口を開く。
「これもまた、愛ゆえに。か」
「マニス!マニス!マニス!マニスッ……」
マニスの顔の前で、名前を連呼し、シャルルは涙ぐむ。
「天帝会がどれだけ正しいっていうの!あなたがどれだけ偉いっていうの!だったら何をしても良いっていうの……」
マニスはシャルルの様子を見るや黙り込み、平然と何食わぬ顔でシャルルの顔を見つめ続けた。
「何でそんな顔するのよ。ねぇ、答えて!これはなにっ!どうしてこうなるのよ!ねぇ……」
シャルルはマニスの肩をつかみ、何度も振るう。
「ねぇ!!」
マニスは微動だにしない。
――タッタッタッタ。
どこからと聞こえる走る足音。
――ドンッ。
「きゃっ」
シャルルにものすごい勢いで体当たる人。
――ドサァアアア。
その衝撃で、シャルルは床へ滑るように倒れた。
生き残っていた1人の天帝兵が倒れたシャルルの前へと現れる。
そして、その天帝兵はシャルルに向かい銃口を構える。
――カシャ。
「シャルル!!」
急いでナキが近づく。
天帝兵はナキに視線を移す。
「こっちにこないでくださいっ!撃ちますよ!」
声を上げる天帝兵。
立ち止まるナキ。
天帝兵は、ナキが止まるのを確認するとシャルルに視線を戻し、大きく口を開け、崩れた泣き面で言葉を吐き始めた。
「シャルルさまぁ」
「オレのために……オレの家族のために…………この国のために……」
天帝兵は銃を強く握る。
「……死んでください」
先程、殺された母親と娘に視線を移す天帝兵。
シャルルとナキは同じく視線をずらし、目を見開く。
「あんたのせいで、あんたが、脱獄なんてしたから、妻と……そして娘は死んだ。……今、ここでだ」
「あなたは生きていてはいけない人なんだ」
「お前な!何もかもシャルルのせいにするなよ!」
ナキは忿怒し天帝兵に向かって大声を上げる。
「ナキ。ありがとう。いいの」
「シャルル……」
シャルルは息をのみ、天帝兵に向け口を開く。
「……あなたのことはよく覚えているわ。昔、木の上から落っこちた私を助けてくれたことがあったわね」
シャルルはゆっくりと立ち上がる。
向かい合うシャルルと天帝兵。
「な、なんで!こんな時にそんなことを言うんですか!!昔話をしようがオレはこの手を止める気はないぞ!」
天帝兵は下唇を噛む。
「私はあなたに一度命を救われた。そして、あなたが言うように、あなたの家族を殺める原因になった……」
シャルルは銃を構える天帝兵の顔をじっと見つめる。
「わかったわ。それであなたの気が晴れるなら構わない。あなたは、愛する人のために、たとえその行動が間違っていたとしても迷わず信じた道を進むのね」
シャルルは笑顔でその天帝兵を見る。
「すみません。……シャルル、さま」
引き金に指をかける天帝兵。
「シャルル!お前はこんなところで死んじゃだめだ……!まだ、やることがたくさんあるだろ!」
ナキがシャルルに走り近づく。
「ナキ。私のせいでもうこれ以上辛い人や命を落とす人が増えてほしくないの。この命で救えるなら、それでいい。最後まで私を必要としてくれて……」
「ありがとう」
目から涙を流すシャルルはナキに笑顔を向けた。
天帝兵がゆっくりと引き金を引く。
「シャルルーーー!!!」
――バァーーーーン。
銃声だけが静かなフロア一帯に広がる。
「それも愛ゆえに……」
マニスはひっそりとそう口に出し、瞳から涙を流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます