第11話 それぞれの思い
――ドタンッ。パタンッ。トンッ。ガジャン。
アダマスに一歩一歩と近づくジークの身体に次々と付着する部屋中のモノ。
重なるように膨れ上がるモノは、次第にジークを球体のように包み込み身動きを封じた。
アダマスはジークから目を逸らさず、続けて、後方にある赤い鉄扉を閉ざすため、腰にあてた手を使い「磁極」を刻み始める。
閉ざし始める2枚の赤い鉄扉。
そして、鉄扉が閉まりかけると同時にジークの足の動きが停止する。
――ギギギギッギ。
鳴り響くジークの身体に付着したモノとモノがこすれ合う音。
室内のほとんどのモノがジークの身体に付着し、ジークは大きな固塊となる。
静まり帰る部屋。
鉄扉の外にいるシャルルは即座に立ち上がると、閉まりかける鉄扉の中へと急いで足を進めようとする。
しかし、雨月がシャルルの手首を握る。
「無礼をお許しください」
シャルルは涙ぐんだ瞳で雨月を見る。
「あなたに私の人生を咎める権利はないでしょ!」
シャルルのお腹から出る精一杯に力んだ声。
「私の、私の10年間を支えてくれた、たった1人の家族なの……」
雨月の握る手が少し緩む。
「男ども!シャルルを扉の中に絶対に入れるんじゃないよ!」
扉の内から声を荒げるアダマス。
その声に反応するようにもう一度、雨月はシャルルの腕を強く握った。
ナキは地に視線を落とし座り込む。
「シャルル、今の戦いを見てわかっただろ。オレたちには何もできねぇんだよ」
そうナキが言葉を漏らすと、シャルルはキッと瞳に力を入れ、ナキの顔を見るために首を振り向けた。
「だからなにっ!あなたは諦めても、私は諦めないわ!」
歯を食いしばるナキ。
「クッ。……諦めない?」
「雨月君。離してっ!離してよ!!」
シャルルは雨月につかまれる腕を強く引っ張り返し、必死に離そうとする。
が、雨月は黙ったままつかむ力を緩めず、シャルルから視線をそらし続けた。
ナキは立ち上がりシャルルに近づく。
そしてシャルルの前に立つとシャルルの瞳をじっと見つづけた。
目を合わせる2人。
「オレは諦めてなんてねぇ。オレたちに力がなけりゃ、何もできねぇ!って言ってんだよ。何でわからねぇ!!何もかも失うんだよ!……何もかも、救えやしねぇんだよ……」
(また、あの時と同じだ。……失ってしまうんだ)
ナキはシヴァとホタルを失った情景を思い出し、何とも言えぬ顔でシャルルから目をそらした。
しかし、シャルルは強い眼差しでナキの顔を見続ける。
「だからなにっ!あなたの気持ちを押しつけないで!例え結果がそうだったとしても!それが間違っていたとしても!自分で何も選択できずに、誰かに生かされるのはもう嫌なの!」
「……それなら、死んだ方がまし!!」
目を見開くナキと雨月。
(クソっ……。あれから強くなって王都にきたはずなのに、思い上がりだった。オレには、シャルルもばっちゃんも……今のオレじゃ救うことができねぇ)
目から涙を流すシャルルの険しい顔をナキは再び寂しそうな顔で見つめ……
雨月はシャルルの手首を握る手を放した。
(俺にはこれ以上この子を引き止めることは……)
シャルルは視線を落とし黙り込むナキの隣を通り過ぎ、閉ざしかける鉄扉の中へと入ろうとする。
「でも……それでも……シャルル、ダメだ。シャルル!!」
(ホタルと重なるシャルル)
「それだと、みんな、失っちまうんだ!」
ナキは振り返り、呼び止めようと声を上げる。
シャルルは、立ち止まる。
「ナキ。あなたは、全てを失うことにただ怯えているだけ。諦めていないのも気持ちだけで、もう何もしようとしていない。ここが戦場だったら逃げるの。負けることがわかっていたら何もしないの。今ある選択の中で、次につなげるために最後まで抗い続けるのが諦めないってことじゃないの。……いつからそんなに弱気になったのよ、ナキ」
目を大きく見開くナキは、扉に入るシャルルの背中をただただじっと見ていた。
(オレは、オレは……クソッ)
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