第15話 母なる愛の歌
一瞬……。
時が止まったかのように静まり返る1階フロア。
これから起こる災いに動物的本能が反応するかように……。
嵐の前の静けさとはこのことだろう。
――カタンッ。
開いた扉から1歩前にでる足音が、波紋のように静かなフロアに響き渡る。
そしてその瞬間、寸前まで感じていた重い空気が一気にほどけ落ち……
『
男性のオペラ調の歌声がフロアに響き渡る。
その歌声はどこかパワフルで、どこか悲し気。
「なんなんだ、この歌声は」
ナキはつぶやく。
何者かの歌声とともに流れる音色(BGM)。
『どうして~、私は~♪』
黒髪のオールバック。ごつごつとした、がたい。
赤いネクタイにピッチリと整えられた白いスーツ。
その身なりはおっさん顔には似合わず、潔癖・完璧主義者とまでに見える出で立ち。そして、天帝会の豪華な白いコートを羽織るその男は歌いながら2階から1階に向けて階段を1歩1歩と噛みしめるように下ってくる。
続けて、2階と1階の壁に配置された、あらゆる扉が開き、天帝兵たちが現れる。
――ザザザザザザッ(無音)。
謎の男の大きな歌声と音色で、部屋中のあらゆる音はかき消され、誰の耳にもよく聞こえない。
『生~まれて~♪ 生~きるの~♪』
――カッシャ(無音)。
銃を構える天帝兵の1人がフロア中央でかたまる親子へと近づく。
母親の眉間に向けられる銃口。
母親の顔を見る少女。
「マ、マ?」(無音)。
ナキは目を大きく見開く。
――バァンッ(無音)。
母親は眉間から血を勢いよく吹き出すと、ゆっくりと宙へと倒れた。
少女の瞳からは光が一瞬にして消え失せる。
『教~えて~♪ 教~えて~よ~♪』
――カッシャ(無音)。
続いて、少女に向けられる銃口。
天帝兵は躊躇なく、容易に引き金を引く。
――バァーンッ(無音)。
――カキンッ(無音)。
開いたカラ傘が銃弾をはじく。
少女をかばう雨月。
「だ・い・じょ・う・ぶ・だ」(無音)。
そう雨月は口を動かし、少女を抱くように
『その温もりに♪ 触れ~る、までに~♪』
天帝会の豪華な白いコートを着る男の歌声が途絶える。
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~~~中間伴奏~~~
少し音量を下げた音色(BGM)のみがフロアに流れる。
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同様を隠せないナキは、その光景から目をそらすように、一瞬、扉の前で先ほどまで天帝兵と一悶着起こしていた中年男性に視線を移す。
槍を握る天帝兵。
中年男性の体に刺さる槍。
「あ、あぁ、ああ」
中年男性からこぼれ落ちるかすかな声。
背中から床へと滴る赤い液。
次第に地へ倒れこむ中年男性。
ナキは次から次へとフロアの目のやり場を探すかのように視線を移す。
しかし、その視線の先に映るのは……
ただ、ただ、第3王宮に訪れた王都民が無残にも天帝兵に虐殺されている光景のみが存在した。
「むごいっ……」
ナキはひとりでにつぶやいた。
つかの間、ナキとシャルルのいる場所も天帝兵に見つかり、数名が走り向かい来る。
「大人しくしろっ!!」
天帝兵が声を上げる。
槍をナキに向ける数名の天帝兵。
ナキは、立ちすくむシャルルを背にし、守るように天帝兵に立ちはだかる。
いきなりナキへ槍を振るう天帝兵。
――バシッ。
「いきなり、何すんだよ!」
槍を腕で受けたナキはそれをきっかけに戦闘を開始する。
天帝兵数十人と相対するナキ。
「くっそっ。数が多すぎる。それにあいつはいったい……」
ナキは階段に立っている一人異様なオーラを放つ豪華な白いコートを着た天帝会の男に視線を移す。
フロアの真ん中では、雨月も向かい来る数十名の天帝兵から少女を守りながら既に戦闘を始めている。
「私の……私のせいだ」
シャルルは自身の口を押え、言葉を漏らす。
「お前のせいじゃ……」
ナキは仕方なさそうに低い口調で声をかける。
「降伏しろっ!!」
1人の天帝兵が槍をシャルルに勢いよく突き刺す。
が、反応するナキは瞬時にシャルルへ向かい来る槍を即座につかみ握る。
「うるせぇー!」
そして、ナキはそのまま天帝兵を蹴り上げ、地へと転がした。
「私が…私が
天帝兵は足を止めることなく、次から次へとナキに向かって槍を振るう。
「シャルル!今は、そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
ナキはシャルルの前で数十の槍を受け止める。
「生き抜くんだろ!」
「抗うんだろ!」
「進むんだろ!」
「そうだろ!なぁ、シャルル!!!」
と、ナキは交戦を繰り返しながら声を荒げた。
「……」
あたり一面の光景を目の当たりにするシャルルは、唇を噛みしめ沈黙する。
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