無傷でエリノアを救出!

 ワシントン州 ワシントン大学(部室) 二〇一五年五月三〇日 午後五時三〇分

 緊迫した状況はしばらく続き、交渉に応じようとしないシンシアとモニカ。そんな二人の対応に対し、“この危機的な状況、どう切り抜ければいいの?”と香澄とジェニファーが思っていた矢先のことだった! エリノアの首を絞めつけていたシンシアが突如悲鳴をあげ、そのまま床に倒れてしまう。しかも数秒ほど体を痙攣けいれんしており、それが終わると同時に彼女は気を失ってしまう。

「ちょ、ちょっとシンシア……一体どうしたの!?」

倒れこんでいるシンシアを、遠くから様子を確認するモニカ。

 それから間もなくのこと、シンディと同じようにモニカも突如謎の悲鳴をあげて、その場に倒れ込んでしまった。……シンシアとモニカの二人には、何か持病でもあるのだろうか?


 目の前で起きた突然の状況について、一向に理解出来ない香澄とジェニファー。あっけにとられた状況下の中で、“何が起こったのか、説明して”と目で会話している香澄とジェニファーの姿がある。

 香澄とジェニファーが途方に暮れている間に、シンシアとモニカに問われていたエリノアを救出する警備員たち。

「よし、被害者を無事確保! ……お嬢さんたち、もう大丈夫ですよ」

そう言いながら、彼らはシンシアとモニカへ手錠をかける。無事エリノアを救出した警備員たちの連携プレイは、まさにあっという間の出来事だった。

あっけに取られていた香澄自身も、

「……えっ!? あ、ありがとうございます。お、お疲れさまでした」

慌てて言葉を返す。まるでドラマや映画のアクションシーンを観ているような気持ちになり、驚きと興奮が入り乱れている。

 

 シンシアとモニカを取り押さえた警備員たちは、その後エリノアの手足を中心に、傷など付けられていないか調べる。だがエリノアの白く細い腕や首筋には、傷1つ付いていない。エリノアが無傷であることを知った瞬間、緊張気味だった彼女たちの表情も一気に緩む。

 

 だがどうしてシンシアとモニカの両名が急に倒れたのか、香澄とジェニファーには疑問でならない。そこで二人はエリノアを救出してくれた警備員へ、“一体何が起こったんですか?”と問いかける。すると一人の警備員が

「実はですね……を使って、取り押さえたんですよ!」

ホルスターから銃を取り出し、銃口を自分に向けた状態で手の平に置く。


 興味深く手の平に置かれた銃を見てみると、彼女たちが思っていた形とは少し異なっている。一見すると普通の拳銃のようだが、銃口の先が四角になっている。

「これは拳銃……ですか? でもこれは私が知っているものとは、少し形が――」

「――これはと呼ばれている銃でして、銃弾を発射するのではなくを発射する道具なんですよ」

聞き慣れない銃の名前を聞き、香澄とジェニファーは首をかしげている。銃器に詳しくない彼女たちに対し、警備員たちは軽くテーザーガンの仕組みや特徴を簡単に説明する。


 警備員が必死にテーザーガンについて説明している間、ジェニファーはエリノアの体調を何度も気遣う。……外傷はないとはいえ、怖い思いをしたことに違いはない。そして危機は去ったとはいえ、エリノアの心の傷は計り知れない。

 いじめを行っていたシンシアとモニカの両名も、今度こそ言い逃れは出来ない。同時に“これからやっと、エリーと本当のお友達になれる”と、エリノアを心から歓迎するジェニファーの姿があった。


 テーザーガンに関する特徴を話し終えた警備員たちは、シンディとモニカを警備室へ連れていき、警察へ通報しようとする。だがそこで香澄が、

「……ちょっと待ってください。彼女たちを警察へ連れていく前に、フローラへ連絡しても良いですか?」


 サークル顧問であるフローラへ連絡しても良いか尋ねる。“大丈夫ですよ”と警備員が承諾すると、香澄はすぐにスマホを取り出し、フローラへ電話する。数コールもしないうちに彼女が電話口に出たので、

「あっ、フローラですか!? 香澄です。今お時間よろしいですか?」

すぐにワシントン大学へ戻ってきて欲しい旨を伝える。理由についてフローラが問いかけると、“例の件についてお話があるので、出来るだけ早く警備室へ来てください”と少し重い口調で伝える香澄。

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