初めてのサークル顧問

 ワシントン州 ワシントン大学(部室) 二〇一五年五月四日 午後六時〇〇分

 香澄が心理学サークルの部員の簡単なプロフィールを確認している間に、時刻は午後五時四五分を迎えていた。今日は自分がフローラの代理顧問として、皆に紹介する大切な日。“初日から遅刻するわけにはいかないわ!”と心に喝を入れつつも、香澄は急いで心理学サークルの部室へと向かう。

 集合時間の午後六時〇〇分になると、サークル顧問のフローラはいつもの定例挨拶をする。基本的な心理学サークルの活動時間は、からと決まっている。終了時間は特に決まっていないが、大体数時間ほどで終わることが多いのが特徴だ。


 定例挨拶を終えたフローラは、部員たちに自分の代理顧問となる香澄を紹介した。事前にフローラの口から代理顧問が来るとは聞いていたサークル部員たちだったが、まさか自分たちと同じ年代の女性――しかもアメリカ人ではなく日本人女性が登場するとは、一同は夢にも思っていなかったようだ。香澄の親友ジェニファーを除いて、ある意味予想通りの反応でもあった。

「このたび サークルの代理顧問を引き受けることになりました、高村 香澄です――至らぬ点も多いかと思いますが、よろしくお願いします」


 香澄が簡単な自己紹介を終えた後、心理学サークルのメンバーたちも順番に挨拶を交わす。早速“今日のサークル活動の概要を説明しましょう”と思った。だがせっかくの機会なので、自分の代理顧問となった香澄へ、急遽その役を引き継いだ。最初は戸惑いつつも、しぶしぶ納得した様子を見せる香澄。軽く咳払いをした後、さっそく代理顧問としての業務に取りかかる。

「本日集まってもらったのは、他でもありません。以前から皆でお話ししていた、サークルメンバーの交流会の日時、および場所が正式に決まりました。やむを得ない事情を除いては、全員参加必須のイベントです。……詳しいことはこちらを確認してください」

 そう言いながら、手元に用意してあるプリントを部員全員に配る香澄。その手際の様子を見たフローラは、ニコニコと一人満足げだ。


            『交流会の詳細について』

一 日時は五月二三日~二四日まで。一泊二日の小旅行を予定しており、お金は部員・顧問たち全員で負担する。詳しい場所はまだ決めていないが、行き先の候補は二または三の中から選ぶ。

二 ワシントン大学から北西部にある、サンファン諸島へ行く。非日常的な体験が数多く出来る観光名所で、気分転換に最適。宿泊先はサンファン諸島内にある施設を利用。

三 ワシントン大学から西側にある、オリンピック国立公園へ行く。動物たちを触れあうことで、日頃の疲れを癒す。宿泊先はクレセント湖周辺の施設を利用。

四 サンファン諸島・オリンピック国立公園の双方を回ることも可能。だがその場合には予定が少し変更となり、五月二三日~二五日までの二泊三日となる。

五 二つの観光名所は正反対の場所にあるため、サンファン諸島・オリンピック国立公園のいずれかへ、二泊三日滞在することも可能。

六 最終的な行き先については、来週の心理学サークルの集まりで決定。そこで再度アンケートを取り、最終的な行き先を部員たちの意見を確認する。


 香澄が告知した内容を知った部員たちの反応は様々で、“まぁ、予想通りかな”と納得した様子を見せる者もいれば、“一泊二日の旅行なんてありえない”と愚痴や不満をもらすものなど色々あった。

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