Trip to San Juan Islands Day Ⅰ(サンファン諸島 一日目の旅行)

ワシントン州の避暑地

               四章


    ワシントン州 サンファン諸島 二〇一五年五月二三日 午後一時〇〇分

 昨晩は天気が荒れ大雨が降っていたシアトルだが、翌日は雲一つ見えないほどの快晴だ。まさに絶好の旅行日和という感じで、心理学サークルの部員たちは予定通りサンファン諸島へと向かう。

 同日の午前八時三〇分ごろ、香澄とジェニファーはフローラが運転する車で移動することになる。途中ワシントン大学正門前へと向かい、そこでエリノアと合流してから目的地のサンファン諸島へと車を走らせる。


 サンファン諸島へはフェリーを使用しての移動となるため、ワシントン州アナコルテスへ車を向かわせるフローラの車。アナコルテスに到着すると同時に、香澄・ジェニファー・エリノアら三人は先にフェリーへ搭乗する。その間に自分の車をフェリーに移動させてから、彼女たちと合流したフローラ。彼女たちが出発したワシントン大学からアナコルテスまで、車だと一時間三〇分ほどかかり、徒歩だと少し遠い。

 アナコルテスからサンファン諸島まで、さらに数時間ほど移動に時間がかかる。だが初めてのクルージングということもあるのか、香澄たちはつかの間のクルージングを楽しむ。そして午前一一時四五分――フェリーは終着地のフライデー・ハーバーへと着く。


 だがすでに他の部員たちはすでにフライデー・ハーバーへ到着しており、一つ後のフェリー便で到着した彼女たちを歓迎する。

 

 なお数日前に部員たち全員にチケットを渡していたこともあり、集合場所はアナコルテスではなくサンファン諸島、つまり現地集合という形になる。当初はアナコルテスでの待ち合わせを予定していたが、あいにく同じ時間帯でのチケットが取れなかった。そのため当初の予定を少し変更し、サンファン諸島へ現地集合という形になった。


 部員たちと現地で合流した後、代理顧問として簡単な注意事項を知らせる香澄。しっかりと自分の仕事に務めており、フローラの鼻も高い。レストランへ戻る時間を午後六時〇〇分ぐらいとだけ伝え、“それまでは自由行動です”と皆に伝える香澄。そして一通りの注意事項を説明後、一時解散という流れになった。

 解散後はちょうどお昼時ということもあり、香澄たちはフェリー場近くのファーマーズマーケットでランチを取る。シーズン時限定だが、観光客向けのサービスとしてパンやコーヒーなどを販売している。そこでランチを堪能後、彼女たちはサンファン諸島を観光することになった。


 サンファン諸島での行動プランについて考えていなかったエリノアだが、自分の身の安全を考え、香澄たちと一緒にいることを選ぶ。その好意に甘えるかのように、

「あ、あの私……行ってみたい場所があるんですけど」

大人しい性格のエリノアにしては珍しく、自分から口を開く。“何?”と優しく問いかける香澄たちへ、

「はい。私、イングリッシュキャンプを一度見てみたいです」

自分が行きたい場所をリクエストした。

 イングリッシュキャンプはサンファン諸島の北西部に位置する、観光名所の1つ。のどかな雰囲気が特徴で、にぎやかな場所が苦手な彼女にぴったりの観光名所だ。ここから約九マイル(約一四キロ)あり、車だと大体20分ほどかかる。だが細かい行き先を決めていなかった香澄は、

「えぇ、私は構わないわよ――ジェニーとフローラもそれでいいですか?」

エリノアの提案を快く引き受ける。


 さりげなくジェニファーとフローラにも同じ質問をするが、彼女たちも香澄と同意見。それを聞いたエリノアの表情に笑みがこぼれ、

「あ、ありがとうございます。そうと決まれば善は急げです、早速行きましょう!」

一目散にフローラが運転する予定の車へ向かおうとした。

「エリー、そんなに慌てなくても大丈夫よ。私はまだ、食後の紅茶を飲んでいる途中なんだから――」

「――あっ、すみません。私ったら、つい」


 まるで無邪気な子どものような素振りで、少し強引気味に目的地へと誘ったエリノア。だがフローラに注意されて頭を冷やし、少し興奮気味だった自分を思い出し、思わす頬を赤く染めてしまう。

 

 だがそれは大学では決して見せないエリノアの姿でもあり、“少しは元気が出てきたみたいね”と心がおどるフローラ。大学やサークルではどこかよそよそしい素振りを見せるということもあり、屈託くったくな笑顔を見せるエリノアにフローラは魅了されてしまう。

 いや、フローラだけではない。カフェのテーブル席で食後の紅茶を楽しんでいた香澄とジェニファーも、うっすらと微笑みを浮かべている。つい先日までいじめを受けていたとは思えないほど可愛らしく、そしてどこか大人の魅力を見せるエリノア。


 フローラはエリノアがリクエストしたイングリッシュキャンプへ車を走らせ、安全運転で目的地へ向かう。目的地へ着くまでの間も、意外に世間話が多い車内。特に講義とサークル以外でエリノアと面識がなかったフローラにとって、今日は何かと驚くことばかり。

 だが楽しそうに話をしているエリノアの姿を見て、その気持ちをあえて心に仕舞いこむフローラ。だが無理に隠す必要もないと思ったのか、時折頬をゆるめながら車のハンドルを握っていた。


 なお途中車道にキツネが飛び出すこともあり、これもサンファン諸島ならではの光景。シアトルでは絶対に見ることが出来ない光景に、彼女たちの心は早くも興奮している。

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