香澄への挑戦状!?

ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年五月二二日 午後六時〇〇分

 フローラがいじめを受けているエリノアを守るため、親友の香澄・ジェニファーらに助けを求めてから、一週間が経過。彼女たちのサポートの結果が早速出始めたようで、今日までいじめの報告は本人から聞かされていない。何かと評判の良くない二人だが、顧問のフローラからお灸を添えられた以上、あまり軽はずみな行動には出られないのだろう。


 そして彼女たちが楽しみにしていたこの日が、着々と近づいてきた……部員たちの交流を深めるための、二泊三日の旅行。行き先はサンファン諸島となり、1泊ではなく二泊になったことが大きな違い。

 教員室での仕事を終えた香澄は、“今晩天気予報で雨が降ると言っていたから、そろそろ仕上げましょう”と思いながら、資料の入ったクリアファイルをバッグへ入れる。窓から外を見ると、少し強い風が吹いているものの、今のところ雨は降っていない。

 ワシントン州シアトルは別名「雨の街」とも呼ばれており、日本に比べて降水日数が多い。外の気温も一五℃前後になることが多く、薄手のジャケットや上着などが手放せない。


 明日のことを考えながら教員室のドアに手をかけようと、香澄は視線をふと下に向ける。

「……あら? これは何かしら?」

香澄の足元には、クリアファイルに入れられた二枚組のレポート用紙が置かれている。

 さっそく中身を確認しようと、クリアファイルからレポート用紙を取り出す香澄。だが一枚目のレポート用紙には『警告』と真ん中に赤文字で印字、しかも文字サイズも拡大されていた。

「な、何よこれは!?」

 恐怖のあまり小さな悲鳴を上げると同時に、レポート用紙を床に落としてしまう香澄。その拍子に二枚目のレポート表紙も表面になり、その内容に思わず香澄の心は身震いしてしまう。


【これ以上 エリノア・ベルテーヌに関わるな。これ以上深追いすると、お前も傍聴人として罰を見届けなければならない。裁きはまもなく執行される……】


 脅迫とも呼べる何とも不気味な内容の文面から、“シンシアとモニカの両名がエリーに対し、何らかの強硬手段に出るのでは?”という考えが、香澄の脳裏に浮かぶ。

『……でもここで諦めたら、エリーがあの二人に何をされるか分からないわ。そんなことは、絶対にさせないわ』

脅迫文を送った犯人に屈することなく、自分の信じた正義をつらぬく香澄。同時に、“エリーを一人にしてはいけないわ”という危機感をつのらせていく。

 

 果たして今回の脅迫状を送り付けた犯人は、本当にシンシアとモニカなのか? そして犯人の本当の目的とは、一体何なのだろうか?


     ワシントン州 香澄の部屋 二〇一五年五月二二日 午後九時三〇分

 ワシントン大学の教員室で脅迫状を受け取った香澄だが、意外にも犯人の要求に屈することはなかった。むしろ香澄の心の中に眠っていた、使命感や正義感が再び目覚める。香澄自身は気がついていないかもしれないが、難しい難題・課題になればなるほど、彼女は燃える性格なのかもしれない。

 後日使用する資料をそろえた香澄は、一足先に帰路へとつく。そして彼女が家に着くと同時に、空を漂っていた黒い雲から雨が降ってきた。だが“夕方から夜にかけてにわか雨がある”と香澄は天気予報で確認していたため、特に取り乱すような素振りは見せない。


 フローラの作った夕食を食べ終えた香澄はお風呂に入り、バスタブに浸かりながら体や髪を綺麗にする。綺麗好きの香澄ならではの習慣で、三〇分以上バスタブに浸かっていることも珍しくない。

 体を綺麗にし髪をドライヤーで梳かし終えた香澄は、その後まっすぐ自分の部屋へ戻る。部屋に入ると勉強机に置かれているノートパソコンの電源を入れ、ハリソン夫妻から依頼されている『カウンセリングレポート』の作成を始める。

『今回のレポートはカルテというだけでなく、謎を解くためのメモとしても使えそうね。“前回と同じでレポートの形式に特に決まりはない”って言ってくれたから、自由に作れるわね。さぁ、頑張らないと』

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