Theft attempted incident and Bullying allegations(盗難未遂事件といじめ問題)

真相に迫る一つの道

                 三章


ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年五月一三日 午後〇時二〇分

 心理学サークルの部員たちへの親睦を深めるための、小旅行の詳しい日程が決まってから二日後――香澄は自分の教員室で一人勉強をしていた。部屋には心理学に関する書物が並べられており、臨床心理士を目指す香澄にとって最高の場所。


 空模様も雲一つない青空で、緑豊かなシアトルへショッピングやハイキングなどに最適な日。絶好のお天気日和であったが、香澄は一人部屋にこもりある問題に頭を悩ませていた。

『どちらの問題から、先に調べればいいのかしら? 盗難未遂事件、それともいじめ疑惑から調べましょうか?』


 盗難未遂事件の解決までの期限まで、まだ一ヶ月近く残っている。彼女がワシントン大学へ戻ってから約一〇日が経過し、そろそろ情報収集をしても良いころあいだ。しかし本職が警察官や探偵などではない香澄にとって、何から調べれば良いのか見当がつかない。

 それに加えて、ここで新たな問題が浮上してしまった。心理学サークルに所属するシンシアとモニカ両名による、エリノアに対するいじめ疑惑。フローラとジェニファーの話によると、彼女たちがいじめに関与している可能性は濃厚。だがいずれも確証のない噂で、彼女たちへ真偽について問いかけても、かたくなに関与を否定している。


 しかしこのまま何もせず、ただ手をこまねいているというわけにもいかない。現状に納得がいかない気持ちを抑えつつも、重い腰を上げて調査を開始する香澄。


『そうね……盗難未遂事件も気になるけど、今はまだ情報が少なすぎるわ。ここはエリーに対するの方を、先に調べてみましょう。この問題を解決すれば、それが盗難未遂事件の解決にもつながるかもしれないわ』

 現時点での状況を香澄なりに把握した結果、今はエリノアへのいじめ疑惑問題を調べることにした。状況をしっかりと調べ直すため、教員室へ誰かを呼びだすアイデアが浮かぶ。サークルの代理顧問という立場なら、部員たちを呼びだすことは容易だ。

『午後の講義までまだ時間があるから、今だったら部屋に呼び出せるわね。さて……誰の話を聞こうかしら? でも現段階において、不必要な情報が広がることは避けないと』


 誰を教員室へ呼びだすか決めた香澄はスマホを取り出し、その相手に連絡を試みた。数コールほどして相手が電話に出て、

「もしもし、香澄よ。ちょっと〇〇に聞きたいことがあるから、私の教員室へ来てくれる?」

と相手を午後〇時三〇分ごろに来るようにとお願いする。

 約束の時間になると、誰かが教員室を“コンコン”とノックする音が聞こえてきた。念のため“誰?”と問いかけると、ドアの奥から約束した相手の声が聞こえてきた。その声を聞いて安心した香澄はドアの鍵を外し、相手を部屋へと招き入れる。


 招かれた客人が椅子に座ったことを確認した香澄は、用意していた熱々の紅茶をティーカップに淹れる。ソーサーに置かれたティーカップを相手の前にそっと置くと、

「……ありがとうございます。私、あなたの淹れる紅茶って好きなんです」

一言お礼を言い、香澄の淹れた紅茶の香りを堪能しつつも、一口飲み干す。

「どういたしまして。……突然呼びだして、ごめんなさい。この後の予定は大丈夫?」

「はい。卒業に必要な単位はおおむね取り終えているので、大丈夫ですよ」

「なら良かったわ。実はあなたに聞きたいことがあるのよ――

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