オルカ(シャチ)ウォッチングを楽しむ

   ワシントン州 サンファン諸島 二〇一五年五月二四日 午前一〇時〇〇分

 エリノアの希望により、昨日はサンファン諸島北部にあるイングリッシュキャンプを訪れた香澄たち。そして彼女たちが今日最初に向かった場所は、サンファン諸島の西側に位置するライム・キルン・ポイント州立公園。

 実はサンファン諸島ではオルカ(シャチ)が見られる、アメリカでも数少ないスポット。ホイールウォッチングの名所としても、アメリカ国内では有名な場所の一つ。旅行雑誌で事前に下調べをしていたのか、香澄たちはさっそくライム・キルン・ポイント州立公園へと向かった。そして午前一〇時〇〇分ごろに、香澄たちは目的地へと到着する。

 香澄たちの目の前には、海や水平線が一面に広がっている。時折潮の香りも漂い、水着を用意していれば泳ぎたくなるような場所。そんな気持ちを抑えつつも、用意していた双眼鏡を手にして、海一面を覗きこむ香澄たち。だが一向にオルカは表れる気配はなく、ただ波のせせらぎが聞こえてくるだけ……


 しかし不思議なことに、蓄積された香澄たちの疲れは逆に無くなる一方だ。実は波のせせらぎには「1/fのゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)」と呼ばれる、脳をリラックスさせるαアルファ波を発している。

 脳がα波の刺激を受けることでと呼ばれる神経伝達物質が増加し、幸福感を感じられるようになる。心と脳がリラックス状態になることによって、日々蓄積されたストレスや疲労を解消することも出来ると、医学的に証明されている。

 多くのメリットをもたらすα波は色んな場面で活用されており、『音楽療法』がその例としてあげられる。『音楽療法』とはカウンセリングや心の治療を行うにおいて、音楽が持つ社会的・心理的な作用を利用する治療法。

 その人の好きな音楽を聴く・演奏することで脳が自然とリラックスした状態になり、疲労やストレスなどが軽減される。特にうつ病や引きこもり気味の人・記憶障害や認知症などをわずらっている人に対し、絶大の治療効果を発揮する。


 双眼鏡で海を眺めながら、心地よい波音に耳を澄ませる香澄たち。最終的にオルカは発見出来なかったものの、彼女たちは終始優しい笑みを浮かべている。そして誰1人愚痴や不満をもらすことなく、少し遅いランチタイムを取る。

 フローラは用意していたレジャーシートを敷き、フライデー・ハーバー周辺のお店で購入したサンドイッチと飲み物を香澄たちへ配る。辺り一面に広がる水平線と波のせせらぎの音色を聴きながら、静かに瞳を閉じている香澄たち。そんな彼女たちの髪は“ゆらゆら”となびかせており、夢心地な景色の中で食べるランチは一段と格別だった……


 香澄たちがランチを食べ終えた時、時刻は午後一時〇〇分。暖かい陽気や食後ということもあり、香澄たちを軽い眠気が襲う。だがせっかくの観光ということもあり、一同はライム・キルン・ポイント州立公園を後にして、次の場所へと向かう。

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