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「なーんだ。俺、ここのやつと仕事したことあったじゃん」
カルナがアリスにメールを見せる。From欄には「
「まっさか
「なんのお仕事だったの?」
「売れないスマフォゲーのくだらねぇ新機能追加。ま、その直後にサービス終了したからどうでもいいが」
心底どうでもよさそうに言ったあと、カルナは差出人のメールアドレスをトントンと指さしてみせた。
「これ。サトウ タカヒロのメアドがt-satou@zicedai.com。おまえの持ってきたアイバ ナオヒロのメアドがn-aiba@zicedai.com。俺が何を言いたいかわかるか?」
「メールが送れる」
「んなもん当たり前だろ。いいか? この会社はメンバーのメアドを『名の頭文字・ハイフン・苗字@zicedai.com』で統一してるんだ。ランダマイズされてないどころか、役職や部署ですら違いをつけてない。つまり
「カルナってよく次から次へとそういうの思いつくね」
「思いつくわけじゃない。知ってるだけだ。重役になりすますのはいいぜ。役職にビビってろくな確認もせず重要情報わたしちまうやつが多い。『ネームドロップ』って手法だ」
「すごいなぁ」
アリスはふうとため息をつき、カルナの隣に腰かけた。やわらかなソファーが湯あがりの体を受け止める。アリスは眠そうに目をこすりながら言った。
「ねぇ、カルナはさ。なんでハッキングを始めたの?」
「正確にはクラッキングな。教えてくれる人がいた。ほめてくれた。嬉しかった。だから得意になった。それだけだ」
その人が
アリスは眠気に身を任せながらうっとりと次ぐ。
「いいなぁ。私は得意なことなんてなんにもないや」
「そんなことないだろ。料理ができる。洗濯と片付けができる。それも毎日。稀有な才能だ」
「誰でもできるよ……」
「俺はできない」
アリスはむにゃむにゃと何か言ったが、半分眠っていた。なんとか目を開け、ふらふらと私室へ向かう。
「カルナはさ。そんなにサイバー攻撃に詳しいなら、みんなを守る人にもなれるね。すごいねぇ……」
カルナは何も答えなかった。アリスにはもうカルナの表情をうかがう余裕もなかった。大あくびをする。
「ふああ。そのへんのブランケット使って寝てね。おやすみぃ、カルナ」
アリスが部屋のドアを閉める直前、カルナはスマフォの画面を忙しくフリックしていた。顔をあげぬまま言う。
「名刺の入手ご苦労。期待してろ。敵陣に乗りこめるかもしれねぇ」
「んー」
パパがいないなら別にいいかなぁ。
アリスはそんなことも思ったが、眠気が勝って言葉にはできなかった。
ドアを閉めると、真夜中過ぎの暗闇がアリスを包んだ。うっとりとベッドに倒れこむ。ブランケットを引き寄せ、眠りに落ちる直前、扉の向こうからかすかな声が聞こえた。
「今日はありがとな」
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