3-5
「ブランド名、なんだって?」
「RIP RISA ……」
カルナはしばらくノートパソコンにかじりついていた。アリスの視界の端に、何度も通ったファンシーな通販ページがちらりと映る。画面はすぐ黒背景に文字と記号の並んだものに移り変わった。
「よしできた」
そう言い、カルナは満足げにノートパソコンを閉じた。
「ボットネットの動作確認も兼ねて
「なにそれ」
「複数からやる
「説明になってない」
ドアが開き、静かなホームから熱帯夜の空気が流れこんできた。今夜も寝苦しくなりそうだ。
乗る客も降りる客もいないまま、電車はドアを閉め、
「で、何なの
カルナはパソコンをキャリーにしまいながら言う。
「人気のサイトやサービスに人が殺到しすぎてアクセスできない経験、お前にもあるだろ?」
「あるわね」
「要はそれをわざと作るのさ。支配下に置いたPlum phoneたちに、一斉に何度も予約販売ページへアクセスし続けるよう命令を送った」
「サイバー攻撃っぽいサイバー攻撃ね」
気を良くしたカルナはにぃと笑う。
「
「そうなんだ……」
「それどころじゃないぜ。SNS使って『F5を連打すると予約ページへのアクセス成功率があがるそうです!』とかデマばらまけば
「私にも、サイバー攻撃ができる……」
アリスは軽いショックをうけていた。
遠い世界の話だと思っていた。サイバー攻撃は、自作のパソコンや複雑なプログラムを縦横無尽に操作しないとできないのだと思っていた。それが、自分にもできる。
ぼうっとするアリスを見て「捕まらないかどうかは別問題だけどな」とカルナは付け加えた。
車内アナウンスが
二人は
駅前広場のベンチに座り、カルナが舌打ちする。
「クソ田舎のくせに無駄に近代的な造りしやがって」
「まぁ、五年くらい前に大改修してたからね……」
夜も更けて、涼しい風が広場をわたっている。噴水の止まった静かな池がさざなみを立てる。まだ酸性雨に溶けていない彫刻がアリスたちを見下ろしている。
「仕方ない。コインロッカーに置くぞ。扉でかなり電波が減衰しちまうが、近く通ったのだけ掴めれば御の字だろ。上りホームに行くやつが絶対通る位置なのは悪くない」
カルナがノートパソコンを開く。アリスが後ろから覗くと、何かをtsukuyamaに書き換えたのがわかった。きっとアクセスポイントの名前だろう。
カルナは他にも何かを消しては書き換えている。アリスはわざと背中側に立ったまま、何の前触れもなく問うた。
「ねぇカルナ。ううん、
タイピングの手が止まった。
「……あのクソババア。カルテは誰にも見せないって言ったくせに」
「怒らないでよ。偶然見えちゃっただけよ」
大きく舌打ちしてからプログラムの書き換えを再開するカルナ。間もなく乱暴にノートパソコンを閉じた。キャリーにしまいながら言う。
「ちげぇよ」
「
「ほお、出会った日の意趣返しとはずいぶん性格が改善したようだな」
カルナはキャリーをつかんで歩きだした。駅へのエスカレーターに乗る。もう一つのキャリーを取り、アリスは後を追う。
アリスに背をむけたまま、カルナは吐き捨てるように言った。
「血の繋がった弟じゃねぇ。
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