1-4

 アリスは狐につままれたような気持ちのままアパートに帰った。


 母親はまだ帰っていない。いつものことなのでアリスは気にもとめず、自分の部屋に入ってパジャマに着替えなおした。


「蝶番の方のカルナ……」


 Plum phoneで調べようとしたが、これはもうカルナの手の内であることを思い出してやめた。ちゃんと調べたと知られるのはなんとなく癪だった。


 古いパソコンを起動する。これはアリスの父が姉に買い与え、離婚のとき置いていかれたものだ。姉の残した「admin」というアカウントから同じパスワードでログインする。ずっと更新をかけていないブラウザがアラートを出してきたが、無視して検索サイトを開いた。


 「カルナ」で検索すると確かにインドの英雄の話がたくさん出てきた。アリスは唇をとがらせ、検索ワードに「蝶番」を足す。


 カルナは確かに蝶番の女神の名前だった。しかしカルデアと表記されていたり、健康の女神とされていたり、かなり情報が曖昧だ。


 まあ、あいつの胡散臭さ考えるとぴったりの偽名だけど……。


 アリスは思い、あくびしながらパソコンをシャットダウンした。ベッドにもぐりこむ。カーテンの隙間からは夜明け特有の清明な水色が漏れてきている。


 昼からバイトだし、寝なきゃ。


 目を閉じる。すぐにうとうとし始めた。寝つきがいいのはアリスの特技のひとつだった。


 夢うつつのアリスの脳裏に、カルナの言葉が懐かしい父の声で読み上げられる。


「いいかい、アリス。おまえがお金を払ってないなら、おまえは客じゃなくて餌なんだよ。だから……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る