概要
これからわたしがする話はひとつの物語だ。
それは少年少女が暖かで調和のとれたモラトリアムの楽園から追放され、否応なく無慈悲で不条理な現実と向き合わされることになる痛みを伴う成長譚かもしれないし、捉えどころのない不定形の恐ろしい化け物との命を賭けた戦いに挑むジュブナイルなのかもしれない。あるいは、神の加護を受けた主人公が化物を殺し最後には姫を獲得する王道のドラゴンスレイヤー譚かもしれないし、知らぬ間にひたひたと背後に忍び寄っている恐怖を描いたホラーかもしれない。もしかしたら、謎が謎を呼び最後に探偵が真犯人を指摘するミステリーでもありえるのかもしれない。
それがなんであるかは、あなたが好きに決めればいい。わたしはこの物語
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!引き摺り込まれる
良質なホラーですが、ホラーの枠に収まらない作品です。
前半、ある怪異が徐々に形を持ってゆきます。どのようにして人が心の闇に取り込まれ、怪異に力を与えてしまうのかが、洗練された筆致で丁寧に、しかし、おどろおどろしく描写されています。
おそらく中盤まで読み進めた時点で、誰もがこの作品を優れたホラーだと認めることでしょう。しかし、この作品の真骨頂はそんなものではありません。
後半まで読み進めた読者は、想定外の一撃を脳天に叩きこまれることとなります。
現実と物語の境目を揺らされ、破壊されます。そして引き摺り込まれる。
具体的にどういうことなのかは、読んで確認してみて下さい。
小説でも漫画…続きを読む - ★★★ Excellent!!!リアルと虚構の境目を超えて
現実を侵食してくるタイプのホラーです。
疑わしいと思うなら読んでみてください……ただしどうなっても、保証はできません。現に大澤先生のTwitter、今大変なことになってます。
こんな連載作品、過去にありました?
しかも公式の連載ですって?
もうすごい。私はこの作品をリアルタイムで読めて幸運だったと思う。
ものの売れない昨今、物語を消費することに意識が向いている。私たちはプロダクツの向こうの物語を消費している。
物語消費には弊害もある。炎上、あれも物語消費の悪しき一面だと思う。火中の人物に物事の悪い面だけを押し付けて消費している。感動ポルノもそう。対象を切り取って、都合のいい物語を…続きを読む - ★★★ Excellent!!!物語を否定する「物語」
中学校で、ひとが続けて死ぬ。それを偶然と片づけるには、人間は賢すぎ、繊細すぎ、脆すぎる……
疑心暗鬼にとらわれた共同体が、狂騒と恐慌で沸騰してゆく学園ホラーです。
事件になにか意味を見いだし、解決しようとする者が、ことごとく退場してゆきます。それは、愚かな者でなくても。正義や愛情を抱いた者でも。ひいては、この物語を一生懸命に追いかけ、先の展開を予想している読者すら、物語の側から「物語を作ってはいけない」と否定される。
黙って最後まで見届けることだけが、この物語に読者が示せる、唯一の誠実さでありましょう。おそろしい小説です。だから、とてつもなく蠱惑的な小説です。 - ★★★ Excellent!!!「木曜になると人が死ぬ」限定状況がもたらす暗虹色の物語
ある固定された状況が、人の行動や心理にどんな影響を与えるのか。
そうした思考実験そのものを物語にするジャンルには、例えば映画『SAW』や『CUBE』といった名作がある。
本作『ムルムクス』は、「木曜になると必ず人が死ぬ」という限定状況を設定することで、現代日本の学校という舞台に非日常的なホラーとスリルを持ち込んでいる。
そうした意味で、本作は典型的なソリッドシチュエーションの形式を踏襲していると言っていい。
一方で、本作の大きな特徴は、そうした限定状況の前提そのものが「本当にそれは確実な事実なのか?」という大きな疑問の中に投げ込まれている点だ。
「木曜に人が死ぬ」という状況は、異常ではあ…続きを読む