「木曜になると人が死ぬ」限定状況がもたらす暗虹色の物語

ある固定された状況が、人の行動や心理にどんな影響を与えるのか。
そうした思考実験そのものを物語にするジャンルには、例えば映画『SAW』や『CUBE』といった名作がある。

本作『ムルムクス』は、「木曜になると必ず人が死ぬ」という限定状況を設定することで、現代日本の学校という舞台に非日常的なホラーとスリルを持ち込んでいる。
そうした意味で、本作は典型的なソリッドシチュエーションの形式を踏襲していると言っていい。

一方で、本作の大きな特徴は、そうした限定状況の前提そのものが「本当にそれは確実な事実なのか?」という大きな疑問の中に投げ込まれている点だ。
「木曜に人が死ぬ」という状況は、異常ではあっても明示的な条件ではなく、作中の言葉を借りればあくまで “ジンクス” に過ぎない。

タロットをモチーフに、逆位置の「世界」から始まる暗示的な各話タイトルは、具体的に何を意味しているのか正体の見えない、不確実な不穏さをうまく演出している。

読者は、この「正体の見えない不穏さ」そのものが「ムルムクス」なのではないかという予断を抱きつつ、あるいは来週には物語の前提から覆るような破滅的な展開がもたらされるかもしれないという恐れ/期待に引きずられるように物語を読み進めていく。

そんな本作にとって、Web連載という形式はその魅力を十二分に引き出してくれるよい戦場だ。
さらには、書籍になったときにはまるで異なる物語に変わっているのではないかという期待をも抱かせる奇妙な力がこの物語にはある。
そうした虹の色のように変転する性質こそ、本作の魅力であるように思う。
ただ、その虹の色は、あくまで暗く、人を嘲笑うように輝いているのだけれど。

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