なぜか笑いがこみ上げてくるセリフと、中毒性のあるおかしみ。

 タイトルは宮沢賢治『春と修羅』を模していると思われるが、中身は同作とあんまり関係がない。むしろ下敷きとなっているのは、同『銀河鉄道の夜』や『注文の多い料理店』などだろう。未読の諸氏は青空文庫でタダで読めるからちょっと読んでおくといい。
 本作のうまみは、宮沢賢治の作品における特徴である独特の口調による掛け合いをきれいに模写しながら、その中にSF的な単語を混ぜ込んでいくことによって生まれる、なんともいえないおかしみにある。
「浮遊小天体に突つ込みでもしたら、ずいぶん痛快だらうねえ。軌道を外れて、くるくると飛んでいくだらうねえ、シュラ」
 こんな具合で、まるでジョバンニとカンパネルラの掛け合いのようなセリフに、ハードSFてきな雰囲気が混じって、なんだか笑えてくるのである。もともと賢治の作品はSFの要素を色濃くもっている点も、この奇妙なシナジーを助けているのかもしれない。この親和性に気づいた点が、現時点で最も評価すべきポイントと言えるだろう。
 本レビュー投稿時にはまだ2話までしか公開されておらず、話の筋については評価できないが、湯葉氏ならばきっと読者を痛快に裏切り、抱腹絶倒の中にもほろりと涙を流させるような大展開を用意してくれるものと期待している。3話はよ。

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