XVIII; The Moon



 <正位置: 危険な予感 迷妄 不安定>




「ワン オブザ モースト ポピュラー プロァーブス イン ジャパン セイズ、 イフ ザ ウェスト スカイ インジ イヴニング イズ レッド、 ザ ウェザー ウィルビー ナイス ザ ネクストデイ」


 日本で最も有名なことわざのひとつに、夕焼けの次の日は晴れるというのがあります。


 本当にそんなのがあっただろうか? ことわざというのはもっと、犬も歩けば棒に当たるとかそういう、とても具体的な一事例でありつつも一般に適用可能な普遍性があるような高度なものじゃなかっただろうか?


 六月十五日の木曜日の午後一番の五限目の英語の授業中、わたしは担当教諭のミスター河野が下手くそなカタカナ英語でテキストの例文を朗読しながら教室の机と机の間を練り歩くのをぼーっと目で追いながら、そんなことを考えていた。


 ミスター河野の英語は、わたしたちでも分かるレベルの露骨なカタカナ英語なのだけど、なぜか本人は自分の発音に絶大な自信を持っていて、威風堂々と練り歩きながら朗読する様はなかなかに滑稽だ。ちなみに、ミスター河野のことをミスター河野と呼ぶように要求しているのもミスター河野自身だったりする。ミスターってなんだよ。


 そういうところも含めて滑稽な人ではあるけれど、尊敬はされていないものの、どこか憎めないところもあって、生徒から嫌われているということはないと思う。


 今年の梅雨入りは遅く、まだ春のようなカラっと乾いた陽気が続いていて、暑くもなく寒くもなく、お腹も空いておらず、開け放たれた窓からそよそよと吹きこむ風は気持ち良くて、教室全体が深い水の底のような微睡みに沈んでいた。板書でもして手を動かしていればまだ正気を保っていられるけれど、ミスター河野の単調なカタカナ英語の朗読は催眠術のように生徒たちの眠気に拍車をかけていて、窓際の席ではキミヤが目に涙を浮かべて欠伸を噛み殺していたし、とっくに撃沈して机と合体してしまっている子も少なくなかった。誰も彼もが、ちょっと上の空だった。


 ミスター河野が通り過ぎざまに、机に完全に突っ伏している佐々木葉子の頭を教科書の背でポンと叩いていくのが見えた。そのパコンという軽い音で、すこし高いところに浮遊していたわたしの意識が一瞬戻ってきて、あれ? ちょっとおかしいな? と思った。


 まず、佐々木葉子はかなり真面目なほうの生徒のはずで、普段は授業中に居眠りをしてたりするタイプの子じゃない。いくら風が心地よい午後のミスター河野の退屈な英語の授業だとしても、佐々木葉子が完全に机に突っ伏して寝ているというのはちょっと普通じゃないし、ポンと頭を叩かれてもまったくの無反応となると、かなり普通じゃない。


 それで、わたしはもう少し、注意深く佐々木葉子の様子を伺ってみた。


 佐々木葉子はシャーペンを右手に握ったまま背中を丸めて、おでこを机の天板にくっつけていた。顔はほぼ真下を向いている。肩まで届く長めの髪が簾のように顔のほとんどを覆っていたけれど、よくよく見てみれば、髪の隙間からほんの少しだけ見える佐々木葉子の目がきらりと光を反射していて、開いているように思えた。


 ん? なんか、佐々木葉子、寝てなくない? 目、開いてるくない?


 ほとんど停止していた頭をすこしだけ回転させて、わたしがそう考え始めたところで、ようやくミスター河野もなにかがおかしいと感じ取ったらしく、足を止めて振り返り、カタカナ英語の朗読をやめて佐々木葉子のところまで戻った。あれ? なにかあったのかな? という気配が波のように伝わって、ちょっとだけ教室全体の空気が冷えた。



「ヘイ、ミス・ササキ。ナウはスティル授業中ですよ」


 そう言って、ミスター河野は佐々木葉子の肩に手をかけ、強く揺すった。佐々木葉子の頭が力なく揺れて、ゴロリと右を向いた。佐々木葉子の右隣の席の遠藤正孝が、え!? と叫んで飛び退くように立ち上がり、その勢いで椅子が倒れて大きな音が鳴った。その音で、深い微睡みに沈んでいた教室のすべての注意が一気に佐々木葉子のほうに向き、そして、に気が付いた子たちから順番に、悲鳴をあげたり息を呑んだりとそれぞれに反応を見せ、ざわめきは瞬く間に教室の端まで伝播した。騒然となった。


 ミスター河野はまだ「ミス・ササキ! ヘイ! ミス・ササキ!?」と、佐々木葉子の肩を揺すり続けていたけれど、もうそのときには佐々木葉子は完全に死んでいて、どれだけ呼びかけても揺すっても、返事をすることも身動きを見せることも、二度となかった。



「夕焼けが見えるってことは西の空の遠くのほうまで雲がないってことで、天気は西からやってくるわけだから、西の空の遠くのほうまで雲がなければ翌日も晴れる可能性が高いっていう、それだけの話じゃないのかな」


 たぶん、小学生のころから使っているのであろう、子供っぽい意匠の青い学習椅子の背もたれに体重を預けて、リヒトがそう言った。中学生男子にしては小柄なリヒトの身体にも、その椅子はもういくぶん小さすぎて、きぃきぃと不服めいた音を立てて軋んだ。


「なるほど」と、わたしは返事をしたけれど、でも、わたしが疑問に思ったのはそういうことじゃなかったから、別にリヒトの説明に納得していたわけでもなかった。でも、じゃあなにがどう納得できないのかと言語化しようとすると自分でもなかなかうまくいかなくて、億劫になったわたしはついつい「なるほど」なんて返事をして、そこで話をやめてしまう。


「むっちゃんが言っているのはそういうことじゃなくて」と、リヒトのベッドの上でタロットカードを繰っていたリオンが口を開いた。

「夕焼けの翌日は晴れる、というのは、日本においてワン オブ ザ モースト ポピュラーと言えるほどによく聞く言い回しでもないし、文じたいも、ことわざと言っていいほど洗練されているようには思えないということだから、夕焼けの翌日は晴れる、という言明の真偽はどうでもいいのよ」


 そう。わたしが疑問に思っていたのは、つまりそういうことだった。リオンはいつも、わたしの頭の中のもやもやをわたし以上に的確に言語化してくれる。


「ああ、なるほどね。そういうことか」と、リヒトが顎に手を添える。すこし考えて「そこはたぶん、プロヴァーブスっていう語が日本語のことわざっていう語に、そのまま対応しているわけじゃないせいだと思う」と言う。


 どうしてそんな話になったのかといえば、リヒトがわたしに佐々木葉子が死ぬところを見たか? と質問をして、わたしが佐々木葉子が死んでいることに気付いたときのことを説明して、その説明をしている途中でフと「夕焼けの次の日は晴れる」なんてことわざが本当にあったっけ? と考えたことを思い出して、それをリヒトに訊いてみたからで、つまり、早々に話が脱線してしまったのだ。


 この時点では、わたしたちにとって佐々木葉子の死というのは、すこし気が逸れると早々に脱線してしまうような、その程度のちょっとしたトピックでしかなかったのだろう。


 話を戻して結論だけ言ってしまうと、わたしは佐々木葉子が死んでいるところは見たけれど、佐々木葉子が死ぬところを見てはいない。


「まあ、たしかにミスコーも不注意だったんだろうけど、でもまさか、自分の授業中に生徒が静かに死んでいるなんて、普通は予測しないもんな」と、カーペットの上で胡坐をかいていたキミヤが言って、リヒトが「正常化バイアスって言うんだ。人間っていうのは予想もしない悪い出来事に対して、機敏に動けるようにはできていないんだよな。もともと」と、応じた。


 人間はたいていちょっと呑気にできているものだというのは、わたしにもなんとなく分かる。火事を知らせる非常ベルが鳴った瞬間に異常事態だと察知してすぐに動ける人は、その性質のおかげで火事のときには生き延びるかもしれないけれど、そんなにピリピリしていては普段の生活においては心理的負荷が大きいだろう。ずっと気を張り詰めたままで生きていくには一日は長すぎるし、人生は果てしない。ちょっと鈍感で呑気なぐらいのほうが生きやすくはあると思う。


「でも、仮にミスター河野がもっと注意深くて、突発的なトラブルにも機敏に動ける人だったとしても、佐々木さんを救うことができたかといえば疑問よね」と、リオンが言う。「そもそも、佐々木さんがいつ死んだのか、誰も知らないのだもの」


 これがたとえば、本人が不調を訴えていたのにミスター河野が適切な対応をとらなかったせいで佐々木葉子が死んでしまったとかなら、ミスター河野の責任も問えるのだろうけれど、佐々木葉子の死にはなんの予兆もなかったのだ。そんな突発的な死を防ぐ方法が、なにかあるのだろうか。


「うん、だから基本的には仕方のないことだったとは思うけどね」と、リヒトが言うと、キミヤが「まあ、俺たちは仕方のないことだって言って諦められるけどさ」と、口をはさんだ。


「佐々木ともっと親しい間柄だった人間は、なかなかそう納得することはできないだろう? まして、親や他の教師や、もっと偉い教育委員会とかの人は、実際に教室にいて佐々木が死んでいたのを見たわけじゃない。なんの予兆もなく気が付いたら死んでいたんですって言っても、いや、実際にはなにか予兆のようなものはあって、それを不注意で見過ごしたんじゃないかって考えるのは普通のことだと思う」


「うん、それもそうだ。だから、ミスコーが監督責任とかそういう理屈で責められてしまうのもまた、仕方のないことなんだろう」

 そう答えて、リヒトは中途半端に両手をあげた。お手上げのポーズだ。


 佐々木葉子が死んでいることが分かって、他の先生たちが次々と駆け付けてきて、わたしたちはひとまず教室を追い出され、所在なく廊下で立っていたら救急隊が駆けつけたあたりで廊下からも追い払われ、学年主任の先生の指示で視聴覚室で小一時間ほど待機させられた挙句、結局、ろくな説明もないまま家に帰らされた。母子家庭で母親も夜遅くまで仕事に出ていて、家に帰ったところで誰がいるわけでもないわたしは、いつものように学校帰りにそのままリヒトとリオンの家に寄って、リヒトの部屋でこうして時間を潰している。


 リヒトとリオンの家は百坪以上は余裕であるちょっとした邸宅で、わたしとキミヤの通学路の途中にある上に、両親ともに仕事に出ていて帰りが遅く放課後の時間帯はリヒトとリオンしかいないから、こうして気兼ねなく上がり込むことができるのだ。そんなわけで、わたしとキミヤは学校が終わるとだいたいその足でこの家に遊びにきては、夕食時までの時間を潰している。つまり、良いたまり場ってわけ。リヒトとリオンはどちらも、毎日のようにわたしたちが遊びにきても嫌な顔ひとつしないので、たぶん嫌がられてはいないと思う。


 やっぱりリオンは女の子だから、キミヤがリオンの部屋に入るのはアレだし、四人の場合はこうしてリヒトの部屋に集まることが多い。


 リヒトは自分の学習椅子、リオンはリヒトのベッドの上、わたしとキミヤはガラス製のビーンズ型ローテーブルの脇というのがもっぱらの定位置で、カーペットに直接座っているわたしとキミヤは椅子に座っているリヒトをやや見上げるかたちになる。これが猫の集会だったら一段高いところに座っているリヒトが一番偉いということになるし、わたしたちは猫ではないのだけれど、でもまあ、この集団の格付けみたいなのはだいたい猫の集会と同じルールだ。つまり、リヒトが一番偉くて、リオンがその次、わたしとキミヤが並列でヒラ。そういう感じ。


 四人でなにか同じことをして遊ぶなんてことはあまりなくて、だいたいは各々が好き勝手に過ごしている。今もリヒトはスマホの画面をすばやくフリックして、色んな人と連絡を取り合っているみたいだし、リオンはベッドの上でタロットカードをめくっている。


 リオンがなにかを占っているみたいだったから「どんな感じなの? 今後の運勢は」と、訊いてみると、リオンは「今後の運勢なんて、誰にも分からないわ」と、身も蓋もないことを言う。


「それ、占っているんじゃなかったの?」

「そうよ。占っているの」

「占いって、今後の運勢とかを見るものじゃない?」

「運勢、という言葉の定義次第かしら。これからどういうことが起こるのかを予測するんじゃなくて、これから起こることをどう解釈するかを委ねてしまうのよ」


 わたしが「解釈?」と、鸚鵡返しにすると、リオンは「人生万事塞翁が馬って言うでしょう?」と、返事をする。


「出来事はただ起こるだけで、本来そこに良いも悪いもないの。ただ人間がそれを良いこととか、悪いことと解釈しているだけのこと。でも、すべての物事は両義的で、良い面も悪い面もあるものでしょう? そして、どう解釈するのがのかは、原理的に知りようがないのよ。つまり、どれだけ考えてみても時間の無駄ということ。それなら、判断をカードに委ねてしまったほうが、無駄に悩む時間を節約できるでしょう?」


 そんなものなのだろうか? どっちでもいいのなら、どうせなら物事はなるべく良い方に解釈していればいいような気もする。


「そうとばかりも言えないわ。たとえばこれは」と、リオンはタロットカードを一枚めくる。


「ストレングス。力は、良いほうに解釈すれば勇気や行動力、強い意志といった意味があるけれど、でもそれは同時に、柔軟性の欠如や他者への暴力といった危険性も孕むものでしょう?」と、リオンはちらりとキミヤのほうに目を向ける。「良いほうにばかり解釈していると、そういった負の側面を見落としてしまうかもしれない」


 キミヤはリオンの視線を受け流して「それで、今回の件を俺たちはどう解釈するべきなんだ?」と、質問する。リオンはまたタロットカードを一枚めくる。


「月」


 あまり良くはなさそうね。リオンはそう言っただけで、それでもう解説は終わりらしい。たぶん、その占いでは商売にはできないだろう。


 そんな話をしている間にも、わたしたち四人の四台のスマホは、LINEの通知でひっきりなしにピコンピコンと鳴っている。いろんな方面から、いろんな噂話が飛び込んできて、また別の方面に飛び出していく。


「病院でも確認されたって。やっぱり、佐々木が死んだのは間違いないらしい。まだ原因は分からないって」 「誰かが、ミスコーが死んでる佐々木の頭を叩いたっていう話をしたみたいで、それでかなりミスコーの印象が悪いっぽいな」 「別に、ミスコーだって佐々木が死んでるって分かってて頭を叩いたわけでもないだろうに」 「でも、死人の頭をパコンと叩いたっていうのは事実としてあるわけだし、なんとなくだけど、それは咎められることなんだろうなって感じはする。なんでなんだろ」 「基本的には、ただのウッカリなんだろうけど。でも、もう死んでる人の頭を叩くっていうのは、ウッカリにしてもなんていうか、不敬って気はするな」 「不敬って」


「どうして、死ぬと人間は尊くなってしまうのかしら? 生きてる人間の頭を軽くはたくぐらいは、なんてことない感じだけれど、死体の頭をはたくというのは、もっとずっと悪いことに思えるわ」と、リオンが誰にともなく、部屋の真ん中くらいの曖昧な空間に向かって呟いて、 「死体はどんなに強く叩かれたところで、もう痛がらないのにな」 と、キミヤが応じる。けれど、その話はそれ以上ふくらむことはなく、そのまま虚空に吸い込まれるようにして尻すぼみに消えていく。


 次々といろんな方面からやってくる真偽も定かでない情報の断片を持ち寄って、わたしたちはつらつらとそんな話をする。クラスメイトがひとり死んでしまったっていうのに、わたしたち四人も、あらゆる方向から飛んでくるLINEのメッセージも、あまり悲しんでいる風ではなく、伝聞や噂話ばかりが飛び交っているのがなんとなく嫌だった。


 人がひとり死んでしまったのだ。ひょっとすると、わたしたちはもっと真剣に、深刻に、悲しんだり故人を悼んだりするべきなのかもしれない。


「どうして、なにかあるとすぐ悪者探しみたいになっちゃうんだろう」と、わたしがスマホの画面に目をおとしたまま呟くと、リオンが「みんな、頭が良いのよ」と、ポツリと言った。


 わたしがリオンのほうに目を向けると、気配を察したのか、リオンもスマホから目を離して、わたしのほうを見る。


 リオンと目が合う。相変わらず、超越的に綺麗な顔をしていて、目が合うとそれだけで思考が一瞬飛んでしまう。いま、自分がなんの話をしていたのかも忘れてしまいそうになる。


「頭が良い人って、なにかが起こると、なぜ? なぜ? って、原因を探るでしょ? 原因を究明すれば再発を防止できるかもしれないし、損失を取り戻すことだってできるかもしれない。そういう風に考えて、実際に多くの場合においてはそれが有効だったから、あらゆる場合においても同じように対応してしまうの。でも、世の中には原因なんてないこともたくさんあるのよね。それなのに、頭が良い人は、原因がないことにも原因はありませんじゃ納得しない。そんなはずはない、なにか原因があるはずだって、無理に原因を探そうとする。そうなると、それは原因の究明じゃなくて、ほとんど原因の捏造と変わらない」


 リオンが言う。わたしも素直に、そうだと思う。


 佐々木葉子が死んだことに、たぶん原因はない。いや、もちろんなんらかの原因はあるのだろうけれど、それはたとえば、夕焼けの次の日が晴れるのは西の空の遠くのほうまで雨を降らせるような雲がないからとか、そういう類のものであって、つまりただ物事の因果の上流という意味での原因であって、たぶん誰かの悪意だったり過失だったりはしないはずだ。夕焼けが次の日を晴れさせているのではなく、夕焼けの次の日は晴れるのだし、誰かが佐々木葉子を死なせたのではなく、佐々木葉子は死んだのだ。そういうものなのだと、受け入れるしかないのだろう。


 翌朝の全校朝礼で改めて佐々木葉子の突然死が全生徒に知らされたけれども、原因についてはまだ分からないようだった。死因が判然としないので、佐々木葉子の遺体は行政解剖されるらしく、通夜と告別式の予定もまだ立っていない。


 集会のあとのクラスごとのホームルームでは、充分な睡眠を取ることとか適度な運動をすることとか、健康に関する一般的な注意が促されたけれど、それではまるで佐々木葉子が不摂生で突然死したみたいに、佐々木葉子の突然死は佐々木葉子の自業自得だと言っているみたいに感じられて、すこし嫌だった。


 その日から通常の授業が再開されて、佐々木葉子の死は休み時間中の話題にもほとんどのぼらなくなってしまった。ひょっとしたら、むしろ意図的に避けていたのかもしれない。わたしたちは意識して佐々木葉子の死から目を逸らし、いつも通りの日常を取り戻そうとしていたのかもしれない。そして、その試みは一定程度うまくいっているように、わたしには見えた。


 クラスメイトがひとり死んだくらいのことでは、わたしたちの日常はすこしも変わらない。これもまた、人間が持つある種の鈍感さなのだろう。



 けれど、その翌週の木曜日に園田友加里そのだ ゆかりがスッと死んで、わたしたちは否応なく、再び死というものに向き合わされることになる。



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