イモ類の栽培法を模索しつつ、発酵食品を作ることを模索しつつ、とりあえず公共事業(農具製作)で領内にお金を回す

 クーガーは効率的なことが大好きである。


 例えば、唐棹を農民に広めることで、棍棒の武器の扱いを農民に覚えさせ、それを発展させてフレイルを上手に扱えるお手軽な農兵たちを作れる――だなんて青写真を描くほどには効率主義者である。


 この土地が、魔物が次から次と襲ってくる辺境地である以上、農民にも一定の防衛力を持たせるほうが賢い経営だ。

 それぞれの村に兵士を派遣したり、冒険者ギルドに多額の謝礼金を払ってまでして魔物を追い払ってもらうよりは、農民たち自身に戦ってもらうほうが効率的であろう。


 そういった副次的なメリットも視野にいれた上で、クーガーは唐棹を導入したのである。


 反乱、一揆のリスクについては、この際目をつぶる。

 もちろん農民に武器を与えないほうが、反乱や一揆を簡単に静められるのは間違いないのだが、それでも唐棹は農民に広めるべきだとクーガーは考える。

 どうせそうなっても、兵法を知らない村人たちに負ける気がしない――というのは舐めてかかりすぎかもしれないが、あまり久我崎はそんなことを心配していなかった。


 何故なら、クーガーは火薬を作るつもりだったからである。


(どんなに一揆衆が息巻いていようと、火薬を使えばちょちょいのちょいだ。そんなことに杞憂するよりも、むしろ農業改革に全力を注ぎたい)


 最後に火薬に頼ればいいや――という安直な、しかし概ね真っ当な考えが、クーガーの脳裏にあった。


 千歯扱きと唐棹をたくさん作って各地に配り、それぞれの地でその使い方をデモンストレーションする、ということを計画している久我崎は、当然のごとくてんてこ舞いに忙しくなっていた。


 あれをやったらこれをやらないといけない。

 予算はこうしないといけない。道具はこう作らないといけない。

 平行して、発酵食品の開発により一層の力をいれないといけない。

 そんな風に、矢継ぎ早に指示を飛ばす久我崎ことクーガー・ザッケハルトをみて、使用人たちは、あの我が儘放題だった四男坊がこんなに立派になるとは、と心のそこから感動したという。






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 根や地下にある部分を食べるものは、連作障害が起こりにくく、逆に果菜類は、連作障害が起こりやすい傾向にある。


 農業改革にむけて、農業を勉強しているクーガーは、そんな当たり前の知識を改めて知ることになった。

 それは、この時代の本に書いてあることでもあったが、ゲーム【fantasy tale】のヘルプウィンドウのTipsに記載されている知識でもある。

 両方をきちんと確かめて勉強しながら、クーガーは自分の知識不足を痛感した。


「なるほど、俺は、まだまだ勉強しなくてはいけないことがたくさんあるようだな」


 例えば、ジャガイモは寒冷地でも痩せた土地でも育つ便利な食物だが、疫病に弱かったり味が悪かったりと、この時代のジャガイモは、品種改良がまだまだ必要な作物であった。

 しかしそれでも、贅沢を言わなければかなり便利な食物であることには間違いない。


 ジャガイモが便利な食物であることは、久我崎もある程度予備知識として知っていた。

 だが、詳細はあまり知らなかったのである。ただ何となく、ジャガイモをうまく活用して人々の生活をより豊かにできないだろうか、とぼんやり考えていたのだった。


 このジャガイモ、実は使用人たちに無理をいって取り寄せてもらった作物であった。

 ジャガイモの特徴をいくつか伝えると、「食用ではありませんでしたが、似た作物があったかと」と使用人の一人が答えてくれたのだ。

 まさか実在しているとは思ってなかったクーガーにとって、この偶然の出会いはまさに天恵であったといえる。


 荒れ地を開拓するにあたって、ジャガイモやサツマイモなどは、うってつけの作物であることは間違いない。

 これらの栽培法を取得し、品種改良を進めることで、この領地は今後ますます発展するであろう。


「さて……次はサツマイモなるものを探してもらうとしようか」


 クーガーの人使いはとても荒い。

 それは5000兆枚という破格の金貨の持ち主だからこそ成せるわざでもあったが、転生者としてのどこか一般とはズレた感覚もまた、その人使いの荒さに一役買っていた。






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「クーガー、ちょっとよろしいかしら」


「はい、母上、いかがなさいましたか?」


「内政のお話です。最近お父様から聞きました。どうやら最近、領地経営に対して色々と働いているそうね」


「はい、父上から特別の許可をいただき、後学のためと日々内政に務めております」


「結構。日頃の努力は私も認めます。――しかし、問題は資金です。お父様はどうしてか咎めませんけども、資金は民草から預かる貴重なものです。我々貴族は彼らに責任があるのです。そうむやみに無駄遣いせず、堅実に、かつちゃんと活用なさい。ノブレス・オブリージュ、忘れたわけではありませんね?」


「5000兆あります」


「5000兆」


「金貨5000兆枚です」


「金貨5000兆枚」


「なりませんか」


「何それ詳しく」






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 クーガーの提案はとどまるところを知らない。

 千歯扱き、唐棹の提案による農業改革、からの余り時間を有効活用した「副業奨励」、および発酵食品の作成の奨励……といった経済政策に並行して、ジャガイモなどの作物の品種改良を手掛け、さらにはまだまだやりたいことがあると頭を捻る始末。


 これにはザッケハルト家の皆が騒然とした。

 父ジルベルフ、母マリーディアは勿論のこと、三人の兄、一人の姉、一人の妹もまた、目を白黒とさせて言葉を失っていた。


 元よりダメな四男坊、クーガー・ザッケハルトが、我が儘旺盛な子供であったのは事実。一度言い出したら我慢の利かない性分であったのは確かなことである。

 しかし、それは子供が癇癪を起こすようなものであって、我が儘の範疇を出ないものであった。


 今は、何もかもが違う。

 規模感は勿論のこと、使命感までもが異なっている。クーガーの我が儘は、単に駄々をこねるようなものではなくなり、ある意味ではまともな方向に、しかしある意味では更にたちの悪い・・・・・方向に進化していた。


 なまじ提案が有用そうに聞こえるだけに、なおのことたちが悪い。

 これがもし馬鹿げている考えだらけであれば、鼻で笑って、いくらでも却下できたのであろう。


 だが、彼には資金がある。そして提案は、阿呆な提案と一笑に付すようなものではない。

 古今東西より、歴史はアイデアと資金力で培われてきた。そして面白いことに、クーガーはその両方を持っている。


「……まだ金貨を一万枚程度しか使ってない。体感的に円に直して考えても、精々10億円程度を使ったという感じだろうか」


 クーガー・ザッケハルト、こと久我崎は、唐棹と千歯扱きを作って、各領地にそれぞれをあてがうのに、金貨一万枚は安い・・と考えた。

 そもそもこの金貨一万枚でさえ、丸々すべてをどぶに捨てたわけではない。金貨一万枚の仕事を作り出すことは、金貨一万枚分の雇用を産み出すことに等しいのだ。

 木材を調達するもの。治金により千歯扱きの歯を作るもの。そして千歯扱き、唐棹を組み立てるもの。


 クーガーはこの際、治安をよくするために浮浪者に職をあてがうことを考えていた。

 治安が悪化する理由はごく単純で、金がないから。金がない者は日々の生活に困窮し、最後には犯罪を働く。浮浪者や失職者が集まる場所は、いつもスラムであったり非差別部落であったりするのが相場である。

 貧民街が犯罪を産み出している――そんな現状を変えていくには、少しずつ経済を回すしかない。


「唐棹や千歯扱きが盗まれたって別に構わん。盗まれたってその損失はたかが知れている。作れ。作って作って作り倒せ」


 公共事業で雇った貧民が、ある日突然、職場の物を盗んで姿を消す、なんてことはよくあることだ。

 無論クーガーも、そのようなことがないようにしっかりと警備の者をあてているが、盗まれる損失についてはあまり大きく考えていない。兵を大掛かりに配置して警備をするのもコストがかかる。なので、万全の警備を期するよりも、お金を使ってじゃんじゃんと唐棹や千歯扱きを作成することを優先していた。


 クーガーの内政はまだ始まったばかり。

 当然、金貨一万枚にも及ぶ大がかりな公共事業は、ザッケハルト領内の経済によい影響を与えることなど、自明であった。


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