問いかけの試練がほぼ一周回りそろそろ出番が来るかと身構えると、ここにきて死体に鞭打つような試練が王女に襲いかかる

 

「第三問! 今から読み上げる人物は一体誰?」


「あああああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああ!」


 第三問目で発狂したのは『自分のことをイケメンだと勘違いしてた』『友達の女子が自分に気があるんじゃないかと勝手に勘違いして舞い上がってた』エピソードを暴露されたソイニであった。


「あああああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああ!」


 ソイニの暴露話も、クーガーには色々と身につまされるところが多い話であった。


 やれ『急に母親のことをお母さんと言いたくなくて"おかん"と言い出す』とか(しかもそれに失敗して「急に色気付いてるんじゃねーぞマセガキ」とワイルドなお母さんに拳骨を食らってる映像が流れてた)、

 やれ『腰パンだとか眉剃りとかし始めてイキりはじめる』とか(しかも「まーた阿呆なことしやがったなマセガキ」とまたお母さんに拳骨されていた)、

 やれ『勉強も運動もできるけどちょい悪な俺カッケーし始める』とか(そして例のごとく母親に拳骨をされていた)、

 全部含め、見ているクーガーたちが思わずむず痒くなるような沙汰であった。


「あああああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああ!」


 この『問いかけの試練』の残酷なところは、問題が終わるまではいかなる妨害をも許さない点である。この試験の門番モンスター「なぞなぞゴーレム」は全キャラ屈指の防御力を誇り、恐ろしく強いことで有名である。だからゴーレムを倒して切り抜ける、ということもまかりならないのである。


 だからこうして黒歴史上映会になるのである。槍玉にされる者は涙をのみ、槍玉にならなかったものは次は我が身、と沈痛そうな顔で俯く。


 当のソイニは泣いていた。おああああああ……と頭を抱えて悶絶しながら泣いていた。過去の自分の目に余る痛々しさに涙を流している様子であった。

 最後には、『女の子をさりげなく褒めるとモテる』みたいなテクニックを彼が実践していたら「またキモ男がうざがらみしてきたんだけどー。調子に乗ってるよねー、受けるー」と女子に陰口を叩かれるソイニの悲しい有り様が映像化されていた。

 ひたすら可哀想だった。


「――さて問おう。この人物は一体誰!」


「……答えはソイニ・ラーンジュ。この先に行かんとするものだ」


「――見事なり!」


 クーガーが答えると、またもや、ぎぃん、と鐘の音が鳴り響いた。ゴーレムの咆哮と共に重苦しい扉がゆっくりと開く。

 次なる試練への扉は、ソイニの尊い犠牲によって達成されたのだった。






 ……………………。

 …………。






「第四問! 今から読み上げる人物は一体誰?」


「あああああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああ!」






「第五問! 今から読み上げる人物は一体誰?」


「あああああああああああああああああああああああああ! ああああああああああああああああああああああああ!」






 次に犠牲になったのは、天使の末裔だと謳われている女ヴァレンシアと、男装の策士オットーであった。


 それぞれ、ヴァレンシアは

『"周りとはちょっと違う私"をこじらせた結果、おかっぱ髪+ピアスをし始めて影で"こけし"と馬鹿にされていた』

『高々十二年しか生きてないのに、人生について悟りを開いて周囲の大人に偉そうな説教を垂れる』

『"幽霊が見える"設定でちょっと違う私を演出していたら、ガチで幽霊が見える霊媒師に出会ってたじたじにされる』

 というエピソードを、そしてオットーは

『家庭教師に怒られてばっかりでイライラしたので、"実は私は本当はとても強くて、自分の内なる封印が解かれたとき魔力が暴走して敵は焼け死ぬ"という妄想をしていた』

『トイレを極限まで我慢したらどんな感覚になるかというのを好奇心で試したら本当に我慢できなくて漏らす』

『イライラしてたあまり、使用人に「今は私に近寄らないでください、さもなくば……どうなっても知りませんよ?」など"切れるナイフ"キャラを作ってたことがある』

 というエピソードを暴露されており、それぞれ頭を抱えたくなるぐらい痛々しいエピソードであった。


「――見事なり! さあ挑戦者たちよ、次の門へと進むがいい!」


「……」「……」「……」「……」「……」


「……初めてだよ、こんな残酷な試練は」


「これはひどい」


 ぎぃん、と聞きなれた鐘の音が鳴り響き、これで残すはユースタスケルとクーガーの二名のみとなったところで、ついにパーティ内の会話が途絶えてしまった。


 とはいえ無言というわけではない。一応、ぶつぶつと悔恨の言葉みたいなものは聞こえてくる。呻き声、すすり泣く声、許してと呟く声が先程から終わることなく続いている。

 クーガー、ユースタスケル一行のうら若き思春期の精神は、容赦のない質問によってズタズタにされていた。


(しかし相変わらずえげつない試練だな……。このイベントを直に経験するとなると怖いものだ)


 クーガーがごくりと唾を飲み込んだときに、果たしてようやく一行は次の試練へと辿り着いた。


 第六の試練。相変わらず佇む屈強なゴーレムと重苦しい門。力わざでは突破できそうにない質量の重圧がそこにある。

 もう覚悟を決めるしかない、とクーガーは腹を括った。こういうのは主人公がオオトリを飾るのが普通なので、ここはクーガーの番である可能性が高かった。


 さあ来い――と意気込むクーガーを前にして、ゴーレムは問いかけた。


「第六問! 今から画面に写される絵の作者は誰?」


(……?)


 さあ次は我が身だ、と覚悟を決めていたクーガーとユースタスケルが同時に意表を突かれた顔になった。

 記憶にない。全く身に覚えがないのだ。

 今画面に写されているのは、

『幻想三遊記のキャラ、執事チャンバーレインが、謎のオリジナルキャラクターの上品な未亡人とお茶を飲んでいる』

 という謎漫画であり――。


(あ、これってもしかして)


「あああああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああああああああああああ!」


 クーガーの気づきと同時に、背後で誰かが叫んでいた。振り返るまでもない。叫んでいたのは不機嫌の二つ名で知られる王女、ビルキリスであった。






 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△






「死にたいです」


「なりませんよ」


「漫画を見られたので死にたいです」


「なりませんよ」


「パースとか顔の造形とか狂っててポーズも下手くそな自作漫画を見られたので死にたいです」


「なりませんよ」


「微妙にえっちなシーンが描かれている自作漫画を皆に見られたので死にたいです」


「なりませんよ」


「私の描いたえっちなシーンを皆で黙々と鑑賞する羽目になって、死にたいです」


「なりませんよ」


「王族としてもう私は生きていけません」


「言い過ぎですよ、殿下」


「過言ではありません。この噂が流れたら、王位継承権も低く有力な後ろ楯もない私は、社交界から抹殺されるでしょう」


「……殿下」


「それどころか、王家が『変態の血族め』と謂れのない嘲笑に晒される可能性もあります」


「……」


「王家の名に泥を塗るぐらいなら、変態の私は死ぬ方がいっそましなのかも知れません」


「……それは」


「……言い過ぎではありませんよ、クーガー。王家の名誉のためなら私の命なんて」


「大丈夫です、王家は変態の血族です。前国王は王妃たちに女騎士の格好をさせて『くっ殺せ』と言わせる夜伽をなさってましたし、現国王は『孤児院の保母さんなのに、くやしい、でも感じちゃう』というシチュエーションの夜伽を好んでいらっしゃいますし、建国の祖の初代国王に至っては『ラミアーに締め付けられながらの授乳手コキは至福』とかいう世迷言を残していらっしゃいます」


「」


「現王妃も現王妃で、ハロウィンイベントではノリノリでドスケベミイラ服を着て、嫌がるビルキリス殿下と無理矢理親子で共演してましたし、他にも王女たちの部屋をタップして調べればレア防具"際どいドレス"、"透明なシュミーズ"、"すくうる水着"、"なあす服"、"猫耳メイド服"などが手に入るなど、とにかく『fantasy tale』においては王族変態説はネタに事欠きません」


「」


「……ビルキリス殿下?」

 

「……あんまりのことで記憶が飛んでしまいました。とりあえず一行で」

 

「王族は、建国王も前国王も現国王も現王妃もお姫様たちも全員ドスケベ」


「」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る