第11号「週刊カノジョイド!発動!」
深夜の町を、
冷たい
少しは鍛えた身体に自信があったが、胸に出入りする空気が
アンドロイドのマキナは
「こっちよ、羽継クン! やっぱり、起動信号を受信してる……でも、どうやって」
リーリアは手首の腕時計みたいな端末を操作しながら、苦もなく抜きん出た。
逆に、全く緊張感のないマキナは隣から離れようともしない。
「クソッ、
「むむっ、そうでしたか。やはり、クラス委員長も攻略対象! つまり、わたしのライバルですね! メインヒロインの座は渡しはせんよ! わたし、カノジョイドですから」
「あー、うっさい! お前もリーリアさんを見習え、全力で走れ!」
もともとが
人通りはなく、犬の遠吠えが細く響いていた。
やはり、
だが、相手は遠い未来の巨大ロボットだ。
ただの女子高生が探偵ごっこで解決できる事件ではないのだ。
「そういえば……その、モビルタイタン? ってのは、どうやって閉鎖された空間から
「知るかっ!」
「いえいえマスター、この辺はマスターの安全にも関わることなので! だって……少なくとも、この時代の常識を崩してでも、なにかしでかそうって敵がいるんですから」
「敵、か……もう、俺にはなにがなんだかわからないことだらけだよ」
本音の本心だ。
裏のじいさんが未来の人間で、その人に未来の自分が殺されてて、
だが、リーリアやマキナの存在は、
だから、せめて本当の日常を生きる人間は巻き込みたくない。
そう思っていると、突然マキナが抱きついてきた。
「覚えててくださいね、マスター……わたし、絶対に! 常に! かなり! マスターの味方ですから」
「お、おう……って、おい放せ馬鹿! ちょ、ちょっとぉ!?」
「
不意にマキナは、羽継の腰に手を回して軽々と持ち上げてしまう。そのまま小脇に抱えるや、彼女は
マキナは前だけ見て、リーリアを直線的に追いかけた。
屋根から屋根へと、迷いなく最短距離を進む。
そして、聴き慣れた声が悲鳴となって響き渡った。
「今の! 静流の声だ!」
「ほいほい、急ぎますねっ。マスター、
「ここにあるっ!」
「いつもの感じでよろしくです! 二人のラブラブパワーで、甦ったポンコツをやっつけましょう!」
先程にも増して、速く鋭くマキナが駆ける。
情けないことに、羽継は手にしたバインダーを落とさぬようにするだけで精一杯だった。
そして、目の前に異様な光景が現れた。
闇夜に
両腕を振り上げるモビルタイタンの前には、
「リーリアさんっ! 例のあれを! 時間を切り離して!」
ブロック
それは、静流の頭上に巨大な鉄拳が落ちるのと同時だった。
迷わず覚悟を決めて、羽継はその瞬間を
衝撃音が響いて、羽継はアスファルトの上に放り出された。
同時に、世界の時間が停止してゆく。
「羽継クンッ! なんて無茶を、キミッ!」
リーリアの叫びを聴いて、羽継は飛び起きる。
全身が痛んだが、マキナがなるべく丁寧に落としてくれたのが伝わった。そして、そのマキナは今……振り上げた両手でモビルタイタンの拳を受け止めていた。彼女の足元がひび割れ
「んごっ、んぎぎぎぎ……ギリギリのギリ、セーフでしたね! マスター!」
「ああ! ……悪い、ちょっと待っててくれ、マキナッ!」
「ほいきた!」
今、周囲の時間は停止した。
過去から未来へと流れる、従来の時間軸から隔離されたのだ。
それでも羽継は、急いで静流に駆け寄る。頭を両手で抑えたまま、眼鏡の奥で彼女は泣いていた。その頬を伝う
羽継は急いで彼女を抱え上げ、まるで冷凍されたように固まる身体を脇に寄せた。
リーリアもすぐに駆けつけ、手伝ってくれる。
「ゴメンな、静流……重いなんて言ったけど、割りとお前の存在って重いんだよ。重要なんだ、俺にとって。誰もが全員、関わるなら全部!」
「羽継クン! これは切り離されたこの時空に残された、いわばこの子の抜け殻みたいなものよ? あんな危ない
「これは静流ですよ! 静流の形をしてるんです! どうにかなったら、俺は平気でいられないっ!」
「ふーん、そっか。ま、いいわ。お姉さん、そういうの嫌いじゃないぞ? ……
彫像と化した静流を、安全な場所まで運んでから下ろす。
振り返れば、マキナは圧殺寸前の状態でまだ耐えていた。
迷わず羽継は、手にしたバインダーを開く。
「よしっ、マキナ! 俺を乗せろ! 例のやつだ、ほら! あれだよ、あれ!」
「ふぎぎぎぎ……し、死ぬっ、死ぬ……あ、はい! マスター、合体ですね! まさしく、夜の
「いいから早くしろっ!」
「りょーかいっ!
マキナの全身が光り出した。
そして、その中で膨らみ始める彼女へ吸い込まれる。
気が付けば羽継は、以前と同様に球形の空間に立っていた。手にするバインダーは次々と立体映像で情報を処理し、周囲360度をカバーするモニターにウィンドウがポップアップする。
ここは、あのマキナのコクピットだ。
ダメダメでウザいカノジョイドの、バトルフレーム……ようするに、マキナは羽継が乗って戦う戦闘用ロボットでもあるのだ。
「さっさと片付けるぞ、マキナ! 押し返せっ!」
「ガッテーン!」
今、マキナの全身をドレスのような装甲が包んでいる。
スカートこそ短いが、まるで鋼鉄の魔法少女か変身ヒーローだ。
光の女神と化したマキナは、闇夜に純白の姿を
「うおおおーっ、どっせーい!」
見た目を裏切る、身も
あっという間にマキナは、モビルタイタンを押し返した。すぐに羽継は、舞い上がる土煙の中でリーリアを探す。彼女は、避難させた静流をすぐ側で守ってくれていた。
例え現実の静流が無事でも、彼女が無残に潰されるのは見たくない。
文字通り凍ったような彼女が、バリンと音を立てて粉々になる姿を想像する。
ここ最近襲ってくる理不尽と不条理への怒りを、羽継はその光景で着火させた。
「片付けるぞ、マキナッ! なにか必殺技的なの! 一番痛いのをお見舞いしてやるっ!」
「でしたら、突然の雨で雨宿りに駆け込んだ
「そういうのはいいっ! ガチであいつをブッ壊せっていってるんだよ!」
「了解っ! ではでは、セフティー解除っ!
「な、なんだ? おいマキナ、お前……なにをした!?」
突然、コクピットを
自分が光っているのだと知って、羽継は思わず片手で
そして、知る……自分のオデコの十字傷が光っていた。
同時に、マキナは両腕を高々と天へ突き上げる。
月を
夜空よりも尚も暗い、全てを吸い込む暗黒のような
「マキナ、これは……俺の力なのか!?」
「当然ですっ! バインダーは……バディ・イン・ダイバーエントリーライドは、DIVERの力を最大限に発揮できるゴイスーな力です。覚醒前のマスターでも、これくらいは!」
「……嘘だろ、これが俺の……力?」
「って訳でぇ、消し飛べっ! 必殺っ! スターレスゥゥゥゥ! デ・ス・ト♪ ルァクショオオオオオオンッッッッッッッ!」
――スターレス・デストラクション。
こっ恥ずかしいが、割と普通の技名だった。
チョイエロなおどけた雰囲気がないので、それが逆に羽継の不安を増長させる。
そして、解き放たれた漆黒の
否、それは爆発と呼べる認識ではない。
文字通り、目の前の全てが消滅してしまった。
「ふう、お疲れ様です! マスター! いやあ、出力12%でも楽勝でしたね! 圧勝ぉ! ……マスター? あれ、どうしたんですか?」
羽継は戦慄した。
現実には影響しないとわかっていても……今、目の前の全てが消し飛び、巨大なクレーターが広がっていた。爆心地は
これが
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