第8号「週刊カノジョイド!真相!」
結局、妹の
そんな訳で、
突然訪問してきた、リーリア・ラスタンと共に。
すぐに全焼した
「……やっぱ、じいさんが戻ってきてはいないか。でも、まだ死体は見つかってない」
この場所を訪れるのは、事件があってから初めてだ。
リーリアに言われるまで、忘れていたのもある。
無意識に遠ざけ、触れぬようにしてきた……この場所に本当は、平屋建ての古びた日本家屋があったのだ。四郎はいつも、
そんな師匠と弟子のような二人を、孫娘のマリアが温かく見守ってくれていたのである。
「リーリアさん、ここがじいさんの家……だったとこです、けど……リーリアさん?」
妙齢の美女を振り向き、羽継は絶句した。
リーリアはまるで彫像のように凍ったまま、泣いていた。
だが、再度呼びかけると
羽継の疑念は、この時点で
リーリアは無理に笑うと、ぎこちなく
「……ここに四郎が?」
「はい。俺が2歳か3歳の頃に越してきたと思います」
「そう……ありがと」
「い、いえ、俺は別に」
礼を言われるようなことは、なにもしていない。
だが、突然の訪問でリーリアが要求したのは、四郎の住んでいた場所はどこかという問いだった。彼女は、花やお酒が置かれた一角に立つと、左の胸に手を置いて
少し思い出話などを求められるかと思ったが、前を向いて彼女は振り向いた。
そして、恋人の死よりも、羽継の事情について語り出す。
「改めて自己紹介するわね。私はリーリア・ラスタン。
「いや、まだ死んだと決まった訳じゃ……その、親しかったんですよね?」
「ええ、それなりに。……将来を約束して、一緒に未来を守ってた。二人で進む未来、人類のあるべき未来を」
リーリアは順を追って、わかりやすく説明してくれた。
因果調律機構ゼウスは、
そう、先程も言ったように……人類のあるべき未来を守るために。
「天暦という時代、人類は
「と、いうと……」
「人類という種そのものが老年期に入ったんでしょうね。探究心や好奇心より、停滞とさえ言える
生物の細胞は時として、全体のために自ら死んで滅びることを選ぶ……それがアポトーシスである。世界を構成する細胞の一つである人類という種が、役目を終え始めたのだとリーリアは語った。
そして、話は本題へと入る。
「そして、人類の中から次なる人類が現れ始めた……彼等のことを私達は、
「DIVER……あ! それで俺が
「そう、信じられないかもしれないけどね、羽継クン。キミがこの世界での、最初のDIVERよ。
「そ、それって」
ぐいと身を寄せ、リーリアが手を伸ばしてきた。
ひんやりと冷たい手は、柔らかく触れてくる。そして、羽継が前髪で隠している
まさかと思ったが、リーリアはじっとその傷を見詰めて
「西暦の時代に、初めてDIVERとして覚醒した人間がいた。私達ゼウスは、時間を逆行しながらその人物を探し――」
「殺そうとした?」
「……ええ、そうよ。四郎は危険なその任務の専任だった。私より任務を選んだのかな? でも、失敗した……いいえ、彼が失敗したんじゃないの。因果の調律がなされなかった」
昔、そんな感じのハリウッド映画を見た記憶がある。
核戦争後の荒廃した未来から、筋肉ムキムキの殺人アンドロイドが送られてくる……そのアンドロイドは、未来の世界で人類の救世主になる子供と、その母親を殺そうとするのだ。
羽継の場合は、四郎が殺しに来たとリーリアは言っている。
映画と違うのは、
「結論から言うと、西暦2025年の野上羽継を殺すことに成功したわ。まだ微弱な能力しか持っていない、ただの市民だった青年をね」
「でも、失敗したというのは……」
「過去を修正することで、その影響を未来に……私達の時代と、その先へ
「そ、そりゃそうですよ! タイムスリップ系の基本なんじゃないですか? え、ええと……エビフライエスプレッソ?」
「バタフライエフェクトね。そう、地球の裏で
四郎が大人になった羽継を殺しても、それは新たに『DIVERという新人類が現れない未来、野上羽継がいない未来』が発生するだけである。新たな可能性へと
本来ならば、そうだ。
だが、それを繋げるからこそ因果の調律だと彼女は言い切る。
「因果の調律は、極めて高度な計算のもとに行われるわ。西暦2025年が選ばれたのも、その時点でキミが死ぬのが、最も影響が少なく、かつスムーズに本来の歴史に繋げられるから。でも、なにかしらの計算ミスがあったみたい」
「その原因は?」
「不明よ。ただ……四郎は
「西暦2003年……あっ! 俺が生まれた年か」
リーリアは大きく頷くと、ヒョイと規制線を軽々と飛び越えた。
力を込めた様子を見せなかったが、彼女はそのまま焼け跡の中を歩き出す。
「ゼウスはすぐに四郎を追跡し、連れ戻すべく探した……ようやく、この西暦2019年で彼を
「それで、口封じのために殺した……? この家を爆破した!」
「違うわっ! 違う……私は、説得して連れ戻したかった。でも、来てみれば彼は謎の爆発で生死不明。でも、その近くにキミがいた。本来、私達古い人類が修正しなければいけない特異点……後の世にDIVER-Xと言われるキミが」
なんとまあ、壮大な話だ。
その話が本当なら、羽継とリーリアは互いに勘違いをしていた。相手が四郎を殺したと思っていたのである。
そして、さらに話をややこしくする声が降ってきた。
「マスターッ! 怪しい
見上げれば頭上に、ふわふわとマキナの頭が浮いていた。
アチャーと、思わず羽継は顔を手で
声もデカいし、死ぬほど目立つ。他の人間に見られたら非常に困る。なので、羽継は渋々バインダーを開き、彼女のアーリィフレームを実体化させた。
突然首から下が現れて、マキナは空中で暴れ出した。
「あ、ちょと、マスター! わたしの頭部が持つ浮遊能力の限界重量は、わたしの頭部一個分なので! 急に身体が生えると、おお? あわわ、落ちるっ!?」
無様にマキナは落っこちてきた。
彼女のキャラ的に、人の姿の形をした穴が空いてもおかしくなかった、そんな落ち方だった。だが、彼女は起き上がるや羽継に近付き背に
「さあこい、痴女! あんなエロカワなコスチュームでマスターを誘惑するなんて」
「……いや、あれは、その……天暦時代のゼウスの多機能戦闘服なんだけどね。まあ……少し恥ずかしいのは確かかも。で、ね? それよ、それ……なんなのかしら? 羽継クン」
なにかを探すように歩いていたリーリアは、振り返ってマキナを指さした。
だが、それは羽継が聞きたいくらいである。
「因果の調律ってね、最小限で最低限の歴史修正で、極めて近い
「いや、それは俺が聞きたくて。勝手に送られてきたんですよ! じいさん
「……四郎に?」
リーリアは自分の
一方で、マキナは鼻息も荒く臨戦態勢である。
「マスター、やっぱりああいう大人の女性が好きなんですか! いわゆるお隣の綺麗なお姉さん的なサムシングなんですか!」
「いいからお前、ちょっと黙っててくれ。それとも……お前、自分のことをアレコレ俺達に教えてくれるのかよ」
「わたしはカノジョイド、毎号届くパーツで完成するマスターの恋人です! ……あ、あれ? いや、そうなんですけど」
「ん、どした?」
身構えたまま、エヘヘとマキナは振り向いた。
彼女は不意に「わたしの中に、プロテクトのかかった機密事項が」と笑った。それが恐らく、謎を解く鍵かもしれない。
だが、現代の技術は
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