最終号「週刊カノジョイド!終劇!」
最後の戦いから数日、
今まで通り、平凡で平穏な毎日。
そう、壮大で現実感のない羽継の未来は、唐突にぶった切られた。
望んで取り戻そうと思っていた平和が、今はなんだか寂しいのだ。
「四郎のおじいちゃん、元気そうだったわね。……これでよかったのだわ」
「ん、ああ」
病院からの帰り道、羽継は静流と家路を歩く。
家の方向は逆なのに、最近はいつも一緒だ。
二人になると、自然と手を握る時もあるし、腕を組むこともある。そういうことを、今思えばマキナにはしてやらなかった気がした。
「マリアさんは……ねえ、バツ。いいの? 私は……バツがいいなら、別に」
突如として全世界で、同時多発的に全てがシャットダウンした。損害規模には一
真実を知るのは、羽継達ごく少数の人間のみである。
混乱と混沌を広げたマリアは、
「おじいちゃん、張り切ってたわね。戸籍とかの偽造は得意だ、って」
「ああ……マリアさん、一度死んだことになってるからな。交通事故で」
「びっくりしたでしょうね。トラックで
確か、丁度このあたりの道路じゃなかっただろうか。
羽継の初恋の人は、不幸な事故で知った……自分がロボット、アンドロイドだったことを。そこから全てが始まり、それ以前へと今は戻ったと言ってもいい。
あの戦いのあと、マリアの
納得したかどうかはわからない……それでも彼女は、あんな
とぼとぼと歩く羽継の隣で、静流が小さく
「デウス・エクス・マキナ、かあ」
「ん? なんだ、それ」
「
「そっか……量産型の女神、ね。あいつさ、『わたしは死んでも代わりはいるから! たっは、一度言ってみたかったやつだこれ!』なんて笑ってさ」
あのあと、クロノスと名付けられたタイムマシン、巨大なモビルタイタンは爆発した。羽継がマキナと共に破壊したからだ。だが、それは閉鎖空間もろとも全てを消滅させるだけのエネルギーを暴走させるらしい。
それを伝えると同時に、マキナは自分の中から羽継を放り出した。
へらへら笑って、ペラペラ
「俺、さ……
「平行世界、的な? まあ、無限の可能性があるのが未来なのだわ」
「信じられるか? その中の最良の未来……自称最良の未来の俺が、他の全ての平行世界にマキナを送り出したって」
マキナは、週刊カノジョイドは未来から届いていた。
無数の未来の一つ、DIVER-Xとして多くの
マキナは、羽継と結ばれたマリアを元に大量生産されたのだから。
「四郎のじいさんも言ってたけど、時間や空間を超える物理法則は……人型、人の姿をした存在しか受け付けない。人間だけが、人型タイムマシンで
「でも、マキナってパーツ
「あいつ、閉鎖空間にも平気で出入りするからな。つまり……人だけが
詳しい話はわからない。
神を模した人の姿でしか、歩けないと思った未来がある。その世界線は活力を失い、人類の衰退が
ただ、DIVERと呼ばれる未来の
今も、最後までいいかげんで馬鹿みたいなマキナの言葉が思い出される。
『という訳で! このデカブツが爆発すると
『なーのーでー、チョチョイとわたしが持ってっちゃいますね! でわでわ!』
『あ、ブライド・システムの使用に伴い、軽く
適当というレベルではない、お
肝心のマキナが助かっていない。あの
だが、羽継達が無事に現実空間に戻れたのは、彼女のおかげなのだ。
それを思い出しているうちに、家についてしまった。
すぐ間近に顔を寄せて、
「元気出せなんて、言えない……けど、落ち込んだままも駄目なのだわ。それに、ほら!」
そっと静流の手が、羽継の前髪をかきわける。
そこには、以前は十字傷だった刻印があった。
マリアが昔、可能性の
「はは、俺はバッテンからハッテンになっちまったよ」
「そりゃ、横にしたら8だけどさ。……発展、進展、期待してる。私もマキナに助けられたのだから、そ、その……ロボットにはなれないけど、彼女にはなれるのだわ!」
「ありがとな、静流。流れでお前と、って訳じゃなく、こう……今度いつか、ちゃんとするからさ」
「ん、いいよ。じゃあ、また明日ね」
そう言って離れると、静流は笑顔をくれた。
最後に「ああ、大量生産」と眼鏡のブリッジを指で押し上げる。
「女神だから、デア・エクス・マキナ……複数形なら、デアエ・エクス・マキナね。出会える、よね……またきっと」
ドヤ顔でうんうんと
その背中を見送り、羽継も奇妙な
マキナのいない部屋へ、今日も帰るのだ。
「ただいま……って、うわっ! な、なな……どした? おい、
ドアを開けると、そこには妹があった。
そう、表情も存在感も失せた真瑠が立ち尽くしていた。その
「バツにい……ううん、むしろ……ハチにい? ねえ、そうなの? 今の、なんなの?」
「げっ、聞いてたのか? やめろよな、もう。今まで通りでいいよ、真瑠」
「俺はバッテンからハッテンになっちまった、よ? ……妹とは、ハッテンしないのに?」
「馬鹿よせ、どこから聞いてたんだ」
「元気出せなんて、言えない……ねえ、なになら出るの? いいんちょさんに、なにを出すの? ……ねえ」
がらんどうの目が、問い詰めてくる。
だが、彼女は
「バツにい……カノジョイドって、なに?」
「へ? ……あっ! この荷物!」
「ねえ……なんなの? あたしとじゃできないこと、するの? むしろ、出すの? バツにい……妹じゃなくて、そういうので青い劣情を処理するの?」
ドス黒いオーラから逃げつつ、ダンボール箱を抱えて走る。
部屋に駆け込むや、一気にそれを開封した。
そう、今日は木曜日……目の前に、週刊カノジョイドの第3号があった。
「って、付属パーツは足かよ! ……右足、だなあ」
ピョコン、と白い足が出てきた。
それでも羽継は、
「もしかして……え? ちょ、ちょっとおい、マキナ! の、足ぃ!」
足は飛び跳ねながら、羽継を無視して机の上に乗っかった。そして、ジタバタと周囲を散らかし始める。
マキナの右足は、器用にペンを持ってノートを広げていた。
「おいおいマキナ……まさか! か、書いてる! 文字を! ――あっ、つった! 足をつったんだな? そうだよな、その角度やばいよな! ……でも、お前」
なんとか書き終えるや、
だがもう、羽継はバインダーを持って部屋を飛び出していた。
確かに日本語で書かれていた。
裏山の、と。
羽継の家の裏には、そう――
「じいさんち! の、あった場所!」
全力疾走で向かう先に、完全に焼失した日本家屋がある。今でもまだ、少し焦げ臭い。だが、近付くとバインダーに奇妙な反応があった。
あの日以来、ずっと沈黙していたバインダーに光が戻ってくる。
その反応を頼りにウロウロしながら、羽継は思い出した。
彼が通っている高校が建つ前、四郎がこの時代に来てタイムマシンを……モビルタイタンのクロノスを隠した。ならば、もしかしたら……?
「反応が強くなった! ここか? ……マキナッ!」
あとはもう、夢中で地面を掘った。痛む手がかじかんでも、止められない。気付けば泣いてる自分がいて、
そして、何故かサムズアップした白い手が出てきた。
その指が羽継に触れた。
「プハーッ! シャバの空気は最高だぜぃ! おひさです、マスター! 一万二千年ぶりでーす!」
「マキナ、お前……」
「テンプレ通りラスボスの爆発からマスターを遠ざけたはいいんですが……どこで爆発させるかなーと思ってこのあたりに。エヘヘ」
「エヘヘ、じゃないぞお前……お前っ!」
ピンクの髪も少し
「そのー、マスター? バインダーでアクセスして、お色直しを……マスター? ……わたし、こんな姿で恥ずかしいですよぉ」
「うるさい馬鹿……そんなのあとだ、お前はお前だろ」
こうしてまた、違う平行世界が生まれ始めた。一つの可能性が分岐し、なにもかもが
涙を拭う羽継の額には今、無限を示す∞の傷が優しく光っているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます