第14号「週刊カノジョイド!遭遇!」
昨日までのクラス委員長、席が隣のクラスメイトは一変してしまった。今はもう、休日に
だが、
買い物を
まさか静流と、
「ねえ、バツ。じゃあその……
静流はパスタを、上手にフォークで巻取り食べる。
昼の話題は、羽継の巻き込まれた現状に関する、補足説明という感じのものだった。同世代の女の子になにを話していいかわからず、ついついこんな話題を選んでしまったのだ。
だが、静流は真剣に聞いてくれるし、必要な話でもある。
そして、順を追って説明することで、羽継も現状の認識を新たにしていた。
「俺はなんか、さ……
「えっ……なにそれ! ちょっと待って、凄いじゃない! 設定盛り過ぎじゃない?」
「いやあ、俺も言われてチンプンカンプンなんだ。ただ」
――ただ、羽継は別の時間軸で一度殺されている。
そして、そのために因果調律機構ゼウスから派遣されたエージェントが、
そして
「で……その四郎さんって、リーリアさんの恋人なのよね!」
「そう、みたい、だけど。なんだよお前、なんでそこで盛り上がるんだよ」
羽継はピラフを口に運びながら、身を乗り出してくる静流に驚いた。
だが、彼女は瞳を輝かせて
「年の差の愛……いいものなのだわ。リーリアさん、きっと片思いだったのでは」
「や、じいさんはいろんな時代を行き来してて、時にはその時代に留まったりしたから歳をくったらしい。……お前、こういう話好きなのな」
「だって、ロマンチックじゃない! 時空を超えた恋愛なんて」
あまり実感はないが、女の子はコイバナが好きだともいう。
静流はハスハスと嬉しそうにお喋りを続けていた。
「でも、再会できなかったのは残念よね。生死不明で行方不明っていうけど、まだ望みを捨ててはいけないのだわ。それに」
「それに?」
「なんとなくだけど、いろいろわからない謎を
確かに、全ては四郎の自宅が爆発したことから始まった。
週刊カノジョイドを定期購読しようとしたのも、四郎だ。
今も羽継達を狙う、正体不明の敵……それは、通常の時間軸から切り離した閉鎖空間から、リーリアが放棄したモビルタイタンをサルベージするだけの力を持っている。
生きていれば、どこかで恨みを買うことはあるだろう。
だが、遠未来のテクノロジーを駆使する人間なんて、周囲にはいなかった。あの四郎でさえ、一度もそういう素振りを見せなかったのだ。言われるまで、彼が未来人だとは知らなかったのである。
「とりあえず、リーリアさん以外で未来人、ないしは未来人の技術を手に入れてる人間。これが犯人像だな」
「……バツ、あんまり言いたくないんだけど、その」
「わかってるよ。この条件には、四郎のじいさんも当てはまる。死んだと思わせて身を
そう、四郎の死亡はまだ確認されていない。
生きているとしたら、表に姿を現さない理由はなにか? それが、羽継を再び亡き者にするべく身を隠しているとしたら? 考えたくないが、ありえない話ではない。
「まあでも、そうだとしたら……じいさんにはなにか、そうせざるを得ない理由がある。もしくは、できた。でなきゃ、十年以上近所付き合いしたのに、不自然だろ」
「そうよね。それに、あの、マキナ? だっけ? 週刊カノジョイドっての、定期購読しようとしてたんでしょ? そこが少し気になるな」
静流はパスタをぺろりと平らげ、紙ナプキンで口元を拭う。
確かに、妙だ。これから姿を消して、死を偽装し行動を
死んだ孫娘の面影を求めた、こっちの方がありきたりだが信憑性はある。
そのマキナに関しても、謎が多い。
先日、その本当の力を羽継は使ってしまった。
マキナは、DIVERと呼ばれる人間の能力を引き出し、それを圧倒的な破壊の力に変えることができる。ゆるほわなアホの子キャラだが、恐るべき
「マキナ、なあ……そういやあいつも、謎というか……むしろ、謎しかない」
食事の手が止まっていたので、羽継も慌ててピラフをかっこむ。
「ほら、バツ? ご飯粒、ついてる」
「ん? ああ、悪い」
そっと静流の指が、頬の米粒を拾った。
それを彼女は、特に気にした様子もなく口に運ぶ。
なんだかドキリとして、羽継は残りを一気に食べて飲み込んだ。
「と、とりあえず、な。まずはじいさんを探そうと思う。リーリアさんにとってもそれが一番だし、じいさんを見つけて話さなきゃいけない」
「ん、そうね。大丈夫よ、きっと生きてるわ」
「だな。生きててほしいんだよ、本当に。じいさんがもし、仮に俺を狙ってたとしても……そのためにじいさんがなにを思って行動してたか、一度は話しを聞いておきたいしさ」
ウェイトレスが食後のコーヒーを持ってきた。
店内はどのテーブルも埋まっているが、混雑する時間帯は過ぎたようだ。今はそこかしこで、市民がお茶を片手に談笑を楽しんでいる。
こういう日常、平凡な人間社会が……遠い未来には失われる。
種族としての活力を失った人類に変わって、
「ま、この話はこの辺にしようぜ? 今はもっと遊ばなきゃ、そうだろ?」
「そうね。せっかくバツと二人きりなんだし。……
「振り切った、と、思う。まあ、あいつの行動力は異常だけどな」
「ふふ、愛されちゃってるわね、バツ」
「嬉しくない。でも、真璃と家族だけは巻き込みたくない。本当はお前だって」
いいのよ、と静流は笑った。
今はコンタクトレンズを外しているから、彼女はあまり周囲が見えていない
そのことをもう、午前中で羽継は恥ずかしいと感じなくなった。
ちょっと嬉しいとさえ思えているのだ。
「じゃあ、午後はどうする? 今日は俺、どこにでも付き、あ、う……って、ありゃ?」
「どしたの? バツ」
バツは、見てはいけないものを見た。
見つけてしまって、思わず目を背けた。
恐らく、困惑が顔に出ていたのだろう。静流もハッとした顔で顔を近付けてくる。二人は
窓際の席は、ガラスの向こうに負のオーラを感じさせていた。
「やばい、静流……補足された」
「ちょっと、もぉ! なんなのよ、あのキモウト……どうする? バツ」
「いや、どうするって言われても」
「って、ちょっと待って、バツ! あれ、なにか変よ」
静流に言われて、羽継は外へと視線を滑らせた。
目が合ったりしたら、やばい……そう思う彼の視覚が、奇妙な景色を
それは、謎の人影に捕まり、
そして、まるで荷物のように小柄な真璃を持ち上げているのは――
「なっ……マキナ!? あいつ、なにやってんだ! あんな格好で!」
そう、カノジョイドのマキナだ。
彼女は今、ジタバタ暴れる真璃を抱えて、去ってゆく。首から下はやはり金属で、すすけたボロ布をマントのように羽織って隠していた。
慌てて羽継は立ち上がる。
「おいおい、そういうおせっかいはいいんだ。ってか、見られまくってるじゃないか!」
「どうする、バツ? 時間、止めようか?」
静流が腕の携帯端末に手を伸ばす。
リーリアから借りている予備のもので、設定した対象以外の時間を止めることが可能だ。原理的には、時間の流れから切り離された閉鎖空間へと逃げ込めるのである。
だが、朝にスナック感覚で気軽に使ってしまった。
アプリを立ち上げてみると、どうやら連続使用はできないらしい。チャージ中の文字が立体映像となって浮かぶだけだった。
「とにかく、追いかけよう! すまん、静流」
「ん、まあ……いいわよ、バツ。凄く楽しかったし、ふふ」
「そ、そうか? なんか、半端なデートになっちまったな。……デート? 俺は今」
「いっ、いいわよ! デートでいい! それでいいから、ね? 急いで行かなきゃなのだわ!」
静流も伝票を片手に立ち上がる。
そうこうしている間にも、マキナは
だが、その時羽継は見た。
彼女は肩越しに振り返り、奇妙な視線の矢を放つ。
ゆるゆる笑顔の空っぽ頭、そんなマキナとは思えぬ強い視線だ。
羽継は急いで静流と会計を済ませ、慌てて外へと飛び出すのだった。
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