終章 彼女の歩く道

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 早朝。

 出迎えたのは柔らかい陽射し。

 そこへ吹き込む冷たい風が心身を引き締める。

 優路は、見送りをするために家の外へ出ていた。

「――さて。私はそろそろ自分の家に帰るよ」

「本当に大丈夫か、美聡? やっぱり俺も一緒に行こうか?」

「平気だって。それとも何? 優路は私を信じてくれないの?」

 昨日の夜のうちに話は聞いているのだが、それでも優路は、西山が一人で向かい合うことができるのか不安だった。

「でも」

「そんなに心配なら私の家まで付いてくる? 両親に挨拶しておく?」

「茶化すんじゃない」

「あう」

 優路は額を指で弾く。小突かれても西山は笑っていた。

「ありがとう。気遣ってくれて。充分伝わった」

 徐々に表情が真剣なものに変わる。

「空っぽで、何もなかった。人生の目標って呼べるほどのものは、今も見つかってない。だけど、絶対に譲れないものが一つできた」

 西山は居住まいを正す。

「もう大丈夫。私には大切な恋人がいるから」

「……恋愛脳の惚気話なら、相手にしないぞ」

 注意に対して、思わず零したような笑みが一つ。

「優路が言ったんだよ」

 相手の軌跡をなぞるように、西山は同じ志を表明する。

「私も、誰かのために生きていたいの。そのためなら、きっと頑張れる」

 それは昨日の朝、西山に対して優路が口にした願いだった。

 相手を想う純粋な感情は、そう簡単に曲がるものではない。

「だから――大丈夫だよ」

 芯の通った声と、揺らぎのない瞳。それらは他の何より信頼に足るものだ。

 柔らかく、優路は破顔した。心配は無用なのだという確信を得る。

「そっか。美聡がそう言うなら問題ないな……」

 一抹の寂しさを惜しみながら、胸を撫で下ろした。

 不意に、西山が優路の傍へ歩み寄る。

「もし駄目だったらまた家出する。そうしたら、もう一度拾ってね」

 耳許で囁く。茶目っ気を含む弾んだ声色だった。

 優路が少し睨むと、首を傾げ、許してと言わんばかりの上目遣いが返ってくる。

「随分な甘えん坊になったもんだ」

「甘えもするよ。自慢の彼氏だもの」

 そこにあるのは、等身大の、歳相応の少女の笑顔だ。


「――じゃあ、行ってきます」

「――おう。頑張れ」


 まるで巣立つ我が子を見守るような気持ちで。

 優路は最愛の背中に手を振った。

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