第31話 夕食を摂ってみるは・・・

 世間話が終わる頃には、空は茜色に変貌しており、その色を作り出す日の光が差し込む路地を、まばらとなっている人波がそれぞれの家に帰るのか、はたまたこれから夜の活動をするのかはわからない生物ナマモノたちが、路地を歩み進んでは店に横路地に建物へと消えていく、そんな中、自分といえば気が付いた時には宿の前へと戻っており、その時には辺りには日の光はとうに消え失せ、建物からあふれ出る灯に向かうかのように、そのままロビーへと入る。と



「おかえりなさいませ!お姐様ぁ!」



 そんな大声と共に勢いよく、こちらへと飛び込もうとしている故障体Sシーの頭部を、付きだした左掌に当てて物理的に強制静止させると、「ヘブァ」という変な声を発しながら、その吶喊といえる行為の名残りになってしまった慣性力が、接触した左掌部分を支点に回転するかのごとく、勢いに任せて後頭部を地面に叩きつけるという結果を見せてくれたりするが、こちらはそんな馬鹿Sシーの事を全くも意に介する気もないので「ただいま」と事務的な言葉で返しておく。



「お姐様の、シーの扱いが酷いです…」



 後頭部があれだけ勢いよく床へと叩きつけられ、その衝突による振動が伝わってきたにもかかわらず、まるでそんな事は無かったかの様に、すぐさまにその場で座り込むと、その接触部部分を摩りながらこちらを見上げつつ、抗議の言葉を口にはしていた……のだが



「けど、これはコレで……」



 グフフという様な笑みをこぼして小さくつぶやいていたりする破損物体Sシー

 そんな小さな言葉も聞き取れてしまう自分の聴覚機能がちょっと問題だな、と思いつつも、コレ、もう手遅れなんじゃないかな?と確信してしまう。

 これはもう根本的な修理…いや、この場合は調整?を行った方が良いのではなかろうか。


 そんな寸劇を終わらせては、周囲からは何事かという物珍しい視線を投げかけられているのを無視して、何事もなかったかの様に食堂へと移動しては夕食の席についたのだが、夕食が来るまで肘をつきながら思い出しているのは、先ほどまでハンター組合ギルドの一室で話していてた世間話という内容ばかりだった。



 この世界へ来た当初に説明を受けて覚えている内容としては、魔王という存在が復活したために、その影響をうけて魔物とよばれる獣が活発化しており、その被害が大きくなる前に勇者となる存在を召喚したという事だった気がする。気がするというのは、その時は自身の身体の事ばかりでまじめに話を聞いていなかった為であるから、いまさらどうしようもない。

 ハンター組合ギルドでの話と、説明されていた話とに何かしらの違いがあったりするのは、まぁ伝承違い?という割には、魔物という存在が暴れているという共通点がおとぎ話として伝わっている事であったし、いまさら魔王云々とかの話をしていた処に、首を突っ込む気もさらさらないので、火の粉が来ない限り放置確定でいいか。という事で、今後の路線を決めておこう。


 そんな、これからの大まかな予定を決め、ふと気づいたら側面で立ちつくしている棒立ち人形Sシーが此方を見てうっとりという感じで眺めているのに気づく。



「考え事をしているお姐様の横顔……これも…イイ…」

「ていっ!」

「アダッ!」



 廃品Sシーの方を向かずに、すかさずお決まりに成り始めてきている手刀による突っ込みを入れ故障物体Sシーの調子を元に戻す。

 よくいう叩いて調子を戻すには斜め45度といわれるが、故障電家製品Sシーにはそれはもうほぼ垂直に叩き込む方が良いぐらいである。

 そんな直撃を食らっても手に持っている物を落とすことなくいるのは、なかなかにすごいことなのではなかろうかと思ってみたりはしたが



「それで、何だ?」

「あぅ、お食事をお持ちしました」



 まぁ、わかってはいたけど、その手に持っていた食事といえる代物をテーブルへと置いていく給仕係Sシー

 普通にしていたら、本当に普通なんだよなと、再認識をしていたのだが



「それでは、不肖このシーが、これから愛情というスパイスを「いらん」…えぇ…」

「仕事があるだろ?ほら、戻った戻った」

「そ、そんなぁ……」



 コレである。

 こちらがアヤシイ行動をとられる前に静止させてる格好ですぐに料理を口に運んで阻止を試みてその味を堪能している状況を眺めては、お水はいかがですか?など甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている給仕Sシーがいたりするのだが、何かこう落ち着かない。


 これではおちついて飯が食えないじゃないか。

 食事という行為は誰にも邪魔されずに静かにこう救われければならない。と、どこかのグルメなサラリーマンが言ってそうだが、それには自分としてはとても同意してしまう。


 仕方ない。ちょっと試してみるか…



「仕事をしているシーは、カワイイんだけどなぁ…その姿を見たいんだけどな…」

「えっ!なんですと!?お姐様!このシー、頑張って仕事をこなしてきます!!」



 と、ビシッという感じできれいな敬礼姿を行ったかと思えば、すぐさまその場を離れて給仕の仕事へと戻っていった。




 何、この子、チョロすぎやしませんか?




 …まぁいいか。静かに食事ができる事にはなったわけだし。

 夕食のメニューに出ているこの肉は…たぶん、これ塩漬けしたガーランの肉をベースにしたシチューとか、歯ごたえも味付けもしっかりあるしで、食べ飽きてるはずなのに、なかなかに旨いと感じてしまう。


 うん、この2ndキャラクターだと、食事がしっかりと味が味わえるというのが利点であるなと、再度確認できてしまっている。ただただ違和感しかない気持ち悪いという印象しかなかった1stキャラと比べては、大違いである。

 この生物ナマモノに近づけるメインキングをした過去の自分へとグッジョブを送っておく。グッジョブ、俺。




**********


「ちょっといいか?」



 食事を終わらせ、飲み物を飲みながら食後をくつろいていた時、自分のテーブル席の近くに、見た目的に言えば、よくありそうな"さえない冒険者"風の恰好をしている生物ナマモノオスが現れた。

 


「何か?」


「いや、礼を言いたくてな」



 そういいながら、テーブル席の向かい側へと座り、手に持っていたカップからエールらしきものを呷りながら話を続け…様としていた背後に、そのバイザーに隠されているはずの視線が、まるで汚物をみるかの様にオスを睨みつけている様にも見えており、まさに雑菌は抹殺だ!とも言わんばかりであった。


 さらにいえば、手に持っている食器という名のナイフが、その手の中に綺麗に隠されているのを、自身の視覚情報がはっきりと捕らえており、まさに暗器の様な扱いになったかと思えば、音もなく周囲からも気取られることもなく、今まさに目の前の標的を排除しようとしている暗殺者Sシーがいたが、こちらの視線に気づいたのか、そのまま停止していた。


 その行為を咎めるべく、冷めた視線とジェスチャーで仕事してろと合図を流しすと、何か納得しなさげにオスの方とこちらをチラチラと伺いながらも「ああ、その冷たい視線もイイ…」などという小声がしっかり聞こえてしまい、こちらの精神的ダメージを加えてくれながらも、しぶしぶと給仕の仕事に戻っていくのを確認してから、話を続けていく。



「ん?なんだ?」


「いや、こっちの問題だ。で、礼とは?」



 こちらの行動に対して、自身の背後へと振り返ってはいたオスだったが、その時にはその存在は平常運転をしており、こちらとしてもそれ以上は聞いてほしくないために話を続けてもらう。



「昨晩のごちそうはあんたからの提供って言うじゃないか。俺たちとってみれば、めったにお目にかかれない、下手すりゃ一生お目にかかれるかどうかわからない代物だったしな、礼ぐらい言っとかないと罰が当たるってもんだ。だろう?みんな」



 そう周囲へ話をふると、「おう、そうだそうだ」「ありがとよ。姐さん」「ごちそう様ッス!」と、いたるところから感謝や礼ともいえる言葉が投げかけられていた。

 そんな周りの中に一人、腰に手を当てて「あたりまえです!」とでもいわんばかりの給仕係Sシーが視界に入ったが、そこはスルーしておく。



「あまりにも多すぎだったから、腐らせるのが勿体ないと思っただけだ」

「どんだけデカかった……って、どうみても相手は大系みたいだな」



 そういいながら、テーブルに立てかけておいたあの刺突剣をみて反応を変えていた。



「ああ、ガーランってのは俺たちハンターの間でも難敵の魔物だからな、しかもその剣のサイズからみれば、大系だったというのは解る」

「これが・・・?」



 そういってその刺突剣を持ってみせてみる。

 みすぼらしい冒険者のオスは、通りがかった元気娘へ追加の注文をしながら、こちらの問いに首を振ってこたえていた。

 


「ああ、そいつの角の長さでガーランは大きさが大体わかるからな。その長さだと、単純に5、6m程度は軽く超えてたんだろ?それだともう大系ともいわれる区分で災害級とも言える相手だ」



 確かに、この刺突剣は1mと少しぐらいだったから、単純に5倍すれば5mくらいになる話である。確かにそれぐらいの大きさでもあった。

 これがそんな指針みたいな物だったのかと、少し感嘆してしまった。



「そんな大系の災害級を一人で仕留めたっていうじゃないか。大盤振る舞いもしてくれたってんなら、礼でも言って多少なりともお近づきには成りたいっていう魂胆があるってモンさ」

「お近づき…ねぇ…」



 そういいながら、いぶかしげにその生物ナマモノを睨むと…



「おっと、別にオタノシミ・・・・・を狙ってるわけじゃねぇよ。俺たちゃその"ガーランの剣"を入手した経緯をを知ってるからな。ぶっちゃければ、腕の立つ奴とは知己になっておくって話だ。直接であるにしろないにしろ、何かしらの繋がりで助かる事があるのを知ってるからな」


「なるほど…」


「ま、その剣を持っているにも関わらず、オタノシミを狙って声をかける奴がいるなら、それはモグリか新人か、はたまた大馬鹿か豪気かってとこだしな。それに、俺らはアンタから上物の飯という"貸し"ができちまってる。その"貸し"を無下にするほど腐っちゃいない奴らばかりだ。そうだろ?みんな」



 その問いかけにも、周りからは好意的に「だな」「ウスッ」などなど、酒精をおびた様な声もまじってはいるが、カップを持ち上げたり、おおむね同意的な意見が出ていた。



「おっと、そういや自己紹介がまだだったな、一応ハンター業を営んでる"ロクェ"だ。ここにいる奴らのまとめ役みたいなことをやってたりしてる」



 そう言いながら、ちょうど元気娘から追加のエールを受け取り話を続けてくる。



「ここにいる奴らのほとんどは、同じハンターをやってる奴らで顔なじみというか、腐れ縁というか、そういう付き合いの奴らが多くてな、それに長いことこの街で世話になってる奴らも多いから地元に顔も結構利く。

 でだ、あんたの見た目が…その……アレだ、結構目立つからな。この街での些事的な事が起きやすいだろうと……ま、いらぬ節介かもしれねえが、何かしらあるなら言ってくれ。それぐらいは協力させてもらうからよ」



 何気に義理堅い生物ナマモノ達といったところなんだろうか…

 気持ち的には悪い気はしない。持ちつ持たれつというし、



「わかった。その時はよろしく頼む。それと自分の事は”アーネスト”でいい」

「おう、まかせときな。よろしく頼むな、アーネストのあねさん」

あねさんというのはちょっと…」

「じゃぁ、なんだ?ねえさんがいいのか?」

「いや、それも…」

「じゃぁ、嬢ちゃんか?さすがにそれは無理すぎだろ…」

「それはそうだが…」



 自身としては中身が男の為に、異性ともなる呼称をどうやっても付けていこうとする相手に、どうにかやめてもらおうと、小さな戦いから始めるしかなかった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「(むっきぃ、あの雄は何ですか!何なんですか!!シーのお姐様をぉ!!)」

「はい、シーちゃん、これ4番テーブルね」

「わかりました(ぶっ殺してやるですか?それとも…)毒で苦しめてやるですか…」

「ん?何か言った?」

「4番テーブルですね!いってきます!」

(どうすれば気取られずに消せるのか)ブツブツ

「・・・?」


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