第34話
取り残された状態でいる自分の近くには、黒い皮膚に白い模様をしている
その存在感が自分にとっては圧倒的すぎる為に、そちらに視線が向かってしまい、どこをどうみても海洋哺乳類のシャチにしかみえないという印象を植え付けてくれる存在が、違和感なく二本の足で立っており、その外套で見えない身体の部分には、尾びれらしきものもありそうなふくらみもあり、こういう種族を今の今まで見たこともなかった為、自然と観察するかの様に視線が自然と向いてしまう。
「ん?何か?」
「え、いえ、初めて見たものですから…その…」
「……クッ。クッ…」
こちらのあからさまな探りを入れている視線に対し、シャチ頭の
その開いた口から牙と舌とが見えてしまうと、ますますシャチにしか見えなかったのだが、"あ、やっちまったか?"という焦りを隠す為に感情表現という機能の停止を心掛けているなか、その大口を開けて笑っている隣にいた雌の
「ハハハハ…いや、失礼。面しろ・・・いや、正直な方だと思った次第で」
それでもいまだ体を少し震わせながら、いまだ笑いの中にいるそのシャチ男は、こちらに対して謝りを入れてくる。
というか、"面白い"と言いかけられているし。とりあえず、セーフ?という事でよいのだろうか。などと、こちらが考えていたが、あらかたその震えがおさまりかけた頃に、コホンという恰好で咳払いをすると、
「私どもの種族は、遠い北方の寒い海洋沿岸にしか定住地を持っていませんから、こちらの大陸では、そう滅多には見ないでしょうね」
「そもそも隊長は、その国の元海団兵だし、もっと珍しいと思うけどね」
「ですね」
「そういうあなたたちだって、似たようなモノでしょうに」
「そうだっけ?」
「まぁ、私も元水夫という点では似たようなモノの部類には入っているでしょう」
そんな残り二人からのやり取りをみるからに、隊長と呼ばれたシャチ男を筆頭に、部下が二人といった感じだろうか、それよりも、元海団兵や元水夫という言葉から鑑みれば、海洋、それも軍に属する人だったのだろうと。
「まぁ、昔の話ですよ。今はその時に培った知識や技量で食いつないでいる一介のハンターですからね」
「それで、あなたが噂の
「おお、そうでした。やはり
そういって、腰のあたりにぶら下げているいただいた突剣に視線が集まる。
三者三様の面持ちで、シャチ男の感情はさっぱりわからない、感情がわからない様は、まさにポーカーフェイスとでもいった感じではあるのだろうが、その目は確実に興味という意思を向けているのが、何となく分かった程度であった。
その隣では、雌の
そんな興味を向けられたのなら、見せない訳にもいかないという脅迫感にも近い物を感じてしまったため
「一応、コレがそうらしいですけど、そこまでのモノなんですか?」
と、その突剣を三人の前に掲げて見せてみる。
鞘から出された証といえる突剣は、その刀身に太陽の光が当たっては虹色にと変化させながら反射しており、なんというか、個人的見解を述べるなら"派手だなぁと。そういえば、手に入れたときって藍色の淡い色してたのに、太陽に掲げるとこうも変わるものなのかとファンタジーは不思議でいっぱいという言葉をまざまざと見せつけてくる。
というか、そもそも武器とか兵器とかは実用性が重要であって、見た目が派手なものは儀礼用がほとんどであって、実利としての機能なんて二の次であったりするし、そんな代物では、武器本来の意味合いからかけ離れているという事になるわけで、なんというか、せめて機能的な性能だけはしっかりしてある事を望みたいけど、まぁ、これもこれで収集するものの一つという事でよいのかなぁ・・・けれど、やっぱり見た目が派手すぎてなんかこう…やっぱり武器としてみえないよなぁ、何か違うよなぁ……という印象なのだが。
「ふむ、これは素晴らしい」
「すっごく綺麗」
「見事な代物です。ええ」
どうやら、お三方の意見は、自分とはまったく違うものだったらしい。
「そんなモノなんですか?」
これが海の戦士としての証というのは話を聞いていたが、そしてそれが一人前という証であるという事だけを伝え聞いているだけなので、そういうモノ的な感じはするが、それ以上の興味も無いがために、自身がそう告げた言葉に対して、三人ともが"えっ?"という感じで此方に視線を向け、そして三人が三人ともにお互いに視線を向け合ったあと
「ソコまでのモノですよ。海洋に携わるモノなら、"海の魔物"の脅威というのを嫌というほど知らしめてくれる存在ですからね」
「その存在に対して、一部の地域では神格化までされている程の存在です。そうですね…陸上でいうならば、亜竜ではなく真竜クラスといっても過言ではありませんし、過去には海難を恐れ、生贄をお供えしたという話もあるほどです」
「私の故郷だと、お供え物として狩猟品をお供えしてたね」
「そんなに?」
「他にも、神話の時代から生存している物は、海真龍へと昇華されると言われていわれてたよね?この証の大きさからといえば、少なくともそれなりの年を重ねた成体にはなってるんじゃない?」
「ですね」
「ええ」
あの大きさを思い出すが、あれで結構なご年配という事だったのか…
「今では、魔物の一つとして扱われてはいますが、海に携わる者にとってみれば信仰にも近い存在として、一部では形骸化となってはいますが、まだまだその流れが残っている処もありますからね」
「海の戦士としての証、というのもその一つになりますが、実際には、それだけの実力を持っているといえる証左でしょう」
「だねぇ、なら、今回の依頼は楽できちゃうかもね~」
何かすごく頼りにされそうな雰囲気と感じるのですが…
とりあえず、要件がどういった物かがわからない。
協力するという話は取り付けられているので、止むを得ないという心境で話を聞き出すことにしてみる。
「それで、どう協力するという話なんでしょうか?」
そんな談笑ともいえる会話が続く中、そろそろ本題へと進めてくれないかと見せていた突剣をしまいながら聞いてみる。あのままでいたら先にすすみなさそうであるし
「おおっと、そうだったそうだった」
「団長、しっかりしてくださいよ」
「ハハハハ、まぁ、そういうな。私も少し興奮することもあるという事だ」
それでも豪快に笑っている姿は、シャチよろしく何かをかみ砕きそうな主張をしてるよなぁとしか思えなかったが、その笑いがすぐくに消え去ると
「それでは仕事の話をしましょうか」
そう言いながら、近くに積まれた木箱の上に、地図らしきものを広げていた。
それは内湾から近くの海域まで記載されている海図ともよべる代物だった。
「これがハーヴェンスの港湾地区とその周辺ともいえるものだ。ガーラン、それも大系と呼ばれる
「なるほど」
「ガーランは特定の場所に住処を持つともいわれているが、たまにその住処を追い出された物、例えば…海底火山などで住処にい続けられなくなったものや。他にも何らかの影響でという可能性の話がある」
「追いやられた的な?」
「まぁ、そういう事もあるといわれている。ガーランといえど、成長しきれていない幼体では海の覇者というわけでもないからな。他にも回遊しているという説もあり、季節などによっては場所を転々とし、その身体が落ち着く場所に居座るという格好なのか、そういう場所もいくつか明らかになっていて、航路からは外されていたりする」
「なるほど…」
「それで、今回は襲われた場所を調べ、新たな回遊とする道となったものか、それとも住処から追い出されたのかというのを調べる必要がある。もし、追い出されたハグレ的なモノであるならば、その原因を、回遊する道になるとするならば、少々面倒な話にもなりうる事にもなるが…まぁ、それはその時だな」
「面倒な話?」
「それは戦士様の報告次第…かな?」
「そうですね。まぁ、十中八九はハグレだとは思いますしね」
「とりあえずだ、まずはガーランに襲撃された地点というのを示して貰えないだろうか?なに、大雑把でもいい」
「分かりました。ええーっと、だいたいでよければ・・・たしか・・・」
そういわれて、襲撃がされた地点を記憶から探り出す。たしか目印の石をみつけたあたりだから、大体このあたりになるのかな?と、海図に対して指さしてみると、
「むっ…それは間違いないかな?」
「ええ、間違いなく、大体この周辺だったかと」
その間違いがないという事を栗変えず形で返答すると
「団長、おかしくない?」
「その場所でその様な事が起こりうるのは、少々…いえ、かなりおかしいですね」
「確かに、大系が"入り込む"という意味ではおかしいな」
三者ともに同じ様に"おかしい"という言葉を出してくるのだが、こちらとしては何がオカシイのかがわからない。
ただ、その指さした場所というのは外湾から大きくえぐれる様な形で形成されていた半円状にも見える内湾、その内湾のほぼ真ん中に近い場所を指し示していただけなのだが…
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