第35話

「このあたりで間違いは無いな?」


 シャチ頭がそう言いながら、海図ともいえる地図に指先で囲っている部分は、先ほど自分が指し示したあたりであり、「間違いないです」という意味で頷いて答えると



「やっぱりオカシイよね、団長」

「これは調査の方向を変えるべきかもしれませんね」

「そうなるな。そうなると足をどうするか・・・今から借りられるかどうか・・・」



 三者三様に、何かしらの物事が進んでいる様でもあったが、こちらとしては何がどう進んでいるのかが理解できないまま、ただただ会話の状況を黙っているだけになってしまい、そうなと、自分がここにいなくても良いんじゃないかなぁと

 そんな心境を読み取られてしまったのか、



「そういえば、この地は初めてで?」

「え?ええ、この地に来て、まだ数日しかたってませんから、何がどうなのかとさっぱりといった所で・・・」


 急にふられた褐色肌の生物ナマモノの問いに対して、そのまま素の心境をそのまま口にしていた。


「そうか。なら、この海図のここを見てほしい」



 シャチ頭はそういって、大きな指で示されたのは、内湾のちょうど外側に位置する場所、そこには小さな島ともいえなくもない何かしらの丸い存在がそこにあるという形で記されていた。


「ここからだと、なんとか見えるくらいじゃないかな、ああ、小さいけど。なんとか見えるね。あそこだね」

「お前、本当に見えてるのか?」

「団長ひどい!ちゃんと見えてるよ!目だけは良いんだからね!」



 そういって、雌の生物ナマモノは、沖合へと視線を向けては指をさしていた。本当にその方向にあるのかなと、少し興味を持ったので指さした方向を確認し、手のひらで日の光を遮る恰好にしながら、望遠モードでその方向を見てみる。


 するとx1倍でも"何かある"という程度で確認でき、次にx2倍へと倍率をあげると、確かに何かしらの物がある事がハッキリとわかり、さらのx4倍へと上げれば、はっきりとした人工物といえるモノが、そこに存在しているのを確認できた。



「確かに、あの方向にありますね。白い…建物?塔?みたいな物が・・・」

「あれが見えるのですか・・・」

「えっ?あなたも見えるの?あっちであってたでしょ?」

「まぁ、なんとなく"白いそんなモノ"があるというのは、指さした方に見えます」

「ほらほら~間違ってなかった~」

「わかったわかった。それは置いといてだ、話を続けるぞ」



 それは、白い灯台の様な、そんな代物がその場所にそびえ立っているという感じだろうか。いや、海から突き出しているとでもいうのだろうか・・・



「でだ、見えるなら話は早い、あの島に立っている建造物は少々特殊な能力というか機能というか・・・まぁ、そういう類の物があるらしい」

「特殊な機能?」


「ええっとですね、夕刻あたりからはうっすらと光だすので、この湾へのしるべとして、その他には海生魔物を寄せ付けない防御壁の始点的な要素とでもいうのでしょうか」



 褐色肌の生物ナマモノが、そういいながら海図上にある点を中心に小さく円を描く様に指でなぞっていき



「正確に言えば、海生魔物が何故か寄り付かないと言われている場所とでもいうのでしょうか。所説も色々とありすぎて、どれが本当かどうかいまいちわかってはいません。ただ、はっきりしている事としては、神聖的な人工物というより魔術的な代物であるという点でしょうか」


「大抵、魔除けとしては神聖的な代物が主流だが、なぜかあの塔は魔術的な代物でそういう機能を持たせているという恰好になっている」


「そういう訳で、あの塔があるおかげで、こっちの内湾にまでは海生魔物が入ってくることは、稚魚ともよべる影響が少ない小物以外は、自分から入ってくることが無かったのよね~」


「それも数年前から、湾内で養殖事業が始まった時分に、小型の海生魔物に被害が出たことから、海底にも同様に魔除けとなる物を追加で設置はしてたはずなんだが・・・」


「ええっと、海底に?ですか?」


「ああ、大体人の身長よりは高いぐらいの杭の様な物で、神聖系法術による祝福を施したもので要所要所に設置はしていったからな」

「あの時は大変だったよね」

「ほんとに大変でしたね・・・」



 そういえば、先日に行った海底状況の記憶が正しいのなら、人の身長より高い杭の様なものというのは、見かけていなかったのだが…



「すいません、その杭みたいな物を設置されたのですか?」

「ああ、実際に設置の施工はしていないが、施工業者の護衛役として私たちの団が請け負っていたぞ」

「どこら辺に施工したのか、覚えていますか?」



 三人ともが、何?という感じでお互いが顔を見合わせたと思えば、ここらへんだったか?いや、違うよ団長、ここだよ。ええ、確かにこことここと、ここにここ、ですね。と地図に対してその場所を教えてくれたのだが、みごとに先日調べた場所と重なっているところがあった。

 いや、何かこの状況からいくと、嫌ーな予感がするけれども、言っておいた方が良いだろうと


「ええっと・・・昨日、その場所の海底を工事前の調査という事で調べていたのですが、そいういった杭?みたいな代物を、一つも見かけ無かったんですけど・・・」


「何だって?それは、どこら辺の部分だ?!」



 急にシャチ頭から凄まれる格好で問われてしまい、少し腰が引けかけたがとりあえずは海図を確認しては「ここからここまでの調査の間でですが・・・」と、先日確認していた場所を伝える格好で、陸地に向かっての線を引く様に示してみると、



「・・・」

「四分一以上なくなってることになっちゃうね・・・」

「ちょっと待ってください、コレが本当なら、かなり不味い状況になるんじゃないですか?」

「どうしよう団長・・・」

「まだ、他に被害は出てないようですが、このままでは他に被害が出始めるのも時間の問題かと」



 シャチ頭の生物ナマモノは、その海図への場所を示している時から一言も話さずにいたのだが、



「メッセ、港湾部の方へ連絡を、内容は港湾内における海洋作業に警告と、今の話のの報告を」

「はーい」

「ファンテはギルドへ戻り、状況の報告と新たな杭の準備ができるかの確認を」

「わかりました」

「それで、団長はどうするの?」

「私か?私はその場所がどうなっているか確認してくるよ。彼女とな」


 そういって此方へ視線を投げかけるシャチ頭


「って、えっ?」

「ガーランを単騎で仕留めた戦士なのだから、腕の方は大丈夫だろう」

「ですね」「だね」

「えっ?えっ?」

「方向は決まった。なら、事は急がなければまずい。急げよ、では散!」



 その言葉を合図に、生物ナマモノ二つは足早にその場を離れていった。

 残るこの場には、シャチ頭と自分が取り残されて…って



「うぇ?うぇぇぇ!?なんで自分も駆り出されるの!?」

「ん?場所の案内と現場確認の為には来てもらわないとな」



 そのシャチ頭の口が、まるで何か面白いことを見つけたかの様に笑っている風に見えたのは気のせいだろうと思いたかったが、身体をほぐすかの様にストレッチを始め



「さぁて、久しぶりの海中だ。しっかりと羽根を延ばすか」



 いや、その意味間違って使ってないですか?それにあなたの場合、羽根じゃなくてヒレなんじゃないかな・・・うん絶対・・・



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