第36話

「アーネストさん、あの人、一人で本当に大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫・・・じゃぁないか?そういう種族なんだろうし・・・」



 そう言い合っているのは、相棒として存在する少年である。


 今いる場所をあげれば、それは洋上の作業船の上であり、つい先ほど黒い生物ナマモノが「それじゃぁ、ちょっと見てくる」と言うや否や、こちらの意思とは関係なく飛び込んでいき、追いかけて見下ろしたその先に、その黒い物体姿が海中へと没していったのを見送りながらこぼしていた。



 それと、一応は相棒に状況説明はしてある。


 状況が状況であり、親方からも要請が出されている時点で拒否権が無いに等しい立場でもあり、それならばと多少なりとも最悪の事態を想定して行動はしておくべきであろうというシャチ男の提案で、簡易的な説明を行ってはいるが、当の本人にとっては、魔物の話になると、相棒からは「大丈夫なのか?」という不安に対して、自分の口からは「大丈夫だろう」と答えてはいるのだが、種族的にどうとかという知識が無い為、ぶっちゃければ当てずっぽうで答えているに過ぎないのは考えないでおこう。



 黒い物体を見送った後の相棒といえば、作業船の操船を担当しては、周囲を警戒しながら潮に流されない様にと微調している。

 MAPを見ている限り、確かに潮に流されてはいないので、そういう腕前はしっかりしてるんだなぁと、再確認をしている中、自分といえば、とりあえずの補助要員として、船上待機かつ周囲監視という事になっているのだが、作業船の上から周囲を見渡してみるも、コレといった気配もなければ、MAPにそういう感じもない。

 しいていうなれば、あの白い建造物?らしき物がよく見えるという程度であり、その建造物の周辺を、海鳥がその周辺だけに飛び回っているというだけの状況しかみえず、静かな海とでもいうぐらいである。



「何もないなぁ・・・」

「何かあったら、大変だと思うんですけど……」

「確かにそうだな」


 そんな他愛もない会話をしながら、海中に潜った黒い物体からは、連絡用にと通信道具?みたいな石ころを渡されてはいるが、使い方を聞けば、なんでも耳に放り込んでおけば対となる石と連絡がとれるとか何とかいう代物らしい。

 というか、耳にいれるのはまだいい、振動とかで音を発しているというのは骨伝導とかなんとかでも説明はつけれるだろうし理解はするが、その逆に音を拾う側、収音する部分はどういう構造になってんだ?もしかして、別の方法があるのか?と思っていたら、その石ころから何かしらの音が聞こえてきた。



『聞こえるか-?状況の確認をした。一つ目は根元から折れて、上部構造が無く破片だけになっている。とりあえず、一度上がる』



「一つ目の確認終わって上がってくるそうだ」


「あっ、はい!」



 操船をいったん止め、二人して海上に浮かび上がってくる黒い物体を待ち受けていると、艦尾方向からこちらに向かってくる物体を確認し、縄を降ろして引き上げると、布巾で体をふきながら、「久しぶりに潜ったなぁ」と面白かったとでもいう雰囲気だった。


「で?結局はどういう?」


「ああ、やはり、杭としての機能は失われていそうだ。一つ目で君が言った通りだったな。これだと、残りも同じになっている可能性が高いだろうな……」


「じゃ、じゃぁ・・・ガーランみたいな大型の魔物がこの近くにいるって事なんですか!?」


「アレは例外だと思いたいが…この状況を確認してしまうと、可能性は否定できんな……」


「えぇ・・・そんなぁ・・・」


 何か、青ざめた顔をして急に周囲を見渡し始めている相棒役と、それとは異なる感じ?表情がよく読み取れないが、何かしらを考えていそうな態度をしてから、



「ふむ・・・念のために、もう一か所を見て回ろ・・・ん・・・?」



 顔を上げて言葉が止まったシャチ男の方を見てみると、うん、あからさまに小さな陸地らしき物と木の様な物と一緒に動いているのが見え・・・っていうか、アレ何だ?どこかで見たような……ズームしても、やはり、どこかでみた様な・・・あの特徴的な頭部と宝石みたいなのがついてる奴って・・・


 そんな、こちらの状況に相棒も気づいたのか、そちらに視線を向け



「な、何ですか?!アレ!!水竜とかじゃないんですか?ええっ!?」


「ああ、一応は水竜ではあるが……まぁ、大型の海生魔物がいる可能性が確実になっただけだな」


「だ、大丈夫なんですか!?あれ本当に大丈夫なんですか!?」


「落ち着け、あの魔物は大人しい魔物だ。こちらから刺激しなければ襲ってくる事は一切ない」


「ほ、本当なんですよね?」


「ああ、それは本当だ。ただ、餌を求めて来ているのならば、養殖場は諦めるしかないだろうが……アレを討伐ともなると、相手は大人しいとはいえ一応は竜種だ。被害覚悟でやらなければならんだろうが……これもギルド案件にしないとな……」


「えぇ、やっぱり竜種なんですか!?」


「ああ、そうだ。ただ、私の知ってる魔物と大きさが違うが・・・それより、なぜアレがここに出没しているかだ。確か、生息は東方の広海洋にいるはずなのだが……こんな西方にどうやって……」



 そんな二人のやり取りを聞きながらも、自分としては先ほどからズームして確認してみても、えーっと、なんだっけ、どこかで・・・と記憶に引っかかっている内容を思い出そうとして、ようやく思い出した。




 アレ、MMOVRにあった海星に住む、NPCキャラとして登場する、首長竜種にそっくりだわ・・・



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