第20話 確認してみよう

 認識が働いた時、再びあのログイン状態が表示されていた。

 その脇にはデジタルで時刻が示されており、その数字は朝7時を少し過ぎたことを示していた。


 意識が覚醒した状況なのか、少し頭の中が静かに整理されている感じだったのだが、その感じのおかげか記憶の中から"何か"ひっかかる要因が思い出されていった。

 スリープモードに移行する前、リペアを頼んだシーからは、作業に5時間以内かかるという事を言っていた。が、自分が知るVRMMOのゲーム内で損失部があるレベルの大幅なリペア作業には、専用の機材部屋でなくとも数分程度で修繕されていたはずである。それなのに、数時間という単位で行うという事に今更ながらに違和感を強く感じてしまっていた。



 嫌な予感がする‥‥



 すぐさま先日と同じ部分のErnestを選択し、2ndキャラといえる自身の身体を起動させてはすかさず起き上がり、起き上がった際に身体の上で双丘に顔をうずめていた何かがベッドの下へと転がり落ちていったのだが、それはとりあえず無視しておくとし、破損のあった場所へと視線を向けて確認をしようと視線を向けてみたのだが…


 何も‥‥されていない?


 新たに増えた関節を無理やり戻した左腕に関しても、手甲となる装甲が外された状態というだけで、他には何らおかしなところもなく元に戻っていた。

 試しに、グーパーと繰り返し動かしてみるも問題なく動き、内臓兵装を起動としてみたところ、左腕の内側からはアンカーワイヤーの射出可能状態がしっかりと動作していた。

 パッと見た目では、たしかに元に戻ってはいる様なのだが、先ほど、内臓兵装を起動しようとメニューを意識した際、昨日までには見受けなかった新たな項目が増えている事に気づいた。


 やはり、何かしら手を加えた事は確定なのだろうが、どこだ?どこに何をした?と、再度確認する為に左腕から始まり、胴体に穴が開いていた部分まで調べてみるもコレといった変わった点も無く、さりとて画面内のメニュ-には増えている選択項目が存在している。


 まさか、外観には見えない"何かしらのモノ"があるという話なのだろうか?と、試しに起動という意識を飛ばし、その表示ステータスが有効イネーブル状態に変わってはみるものの、コレといった反応が何も起きない。


 ‥‥本当に何をしたんだ?


 そんな、何かをされたはずの身体のいたる所を、有効イネーブル状態のままで再度チェックしていた時、足元の方向から自身へと飛びかからんとする存在がいた。



「おはようございます。アーネスト…お姐様ァァァァ!   ヘブァ!」



 さきほど、ベッドの下へと転がり落ちていった物体Sがどうやら起動したみたいなのだが、こちらが2ndキャラと分かった途端に抱き着こうと飛び込んできたまでは解るのだが、自身の身体に接触するほんの少し手前で、まるで見えない壁にぶち当たっているかの様に、顔の一部が平らになってそのままずり落ちていく変態Sがそこにいた。



「お姐様ぁ!コレ無効ディセーブルにして!でないと抱き着けない!!」

「抱き着かなくていいから、で、何をした?」



 何気に空いていた右腕でシーの頭をガッシリホールドしては、一定の距離以内に近づけない様にしつつ、さらに前後へとゆさぶりながら何をしたのかを聞きだしてみる。

 そのシーといえば、しっかりと隙あらばこちらを捉えようと両手を構える形の恰好で、それはもう興奮気味に


磁気単極子抑制モノポールサプレス型の小型縮退リトルデジェネートを使って指向性重力子制御ベクターグラビティコントロールを使用できる様にしただけですよぉ、これでお姐様の柔肌を傷つける衝撃なんて、慣性制御イナーシャルコントロールで遮っちゃいます!バリアでしっかりガードしちゃいますよ!」


 フンスッとでもいう擬音すらも目で見えそうなぐらい、興奮している態度で説明を受けたのだが、何かとんでもなく危険極まりない単語が羅列している気もするし、正直、言葉の意味がどういうものなのかが全くわからない。が、とりあえず最後の内容でバリア的な何かが搭載されたというのは解った。現にホールドしていた右腕の拘束を放してせると、抱き着こうと飛び込めば見えない壁に衝突し、ふたたびずり落ちていく残念なSという存在がいる訳で。



「確かに、お前シーを遮ってるな」

「なのでぇOFFにしてください!無効ディセーブルにぃぃぃ」



 「わかったわかった」と、先ほど起動させた項目をOFFにするや否や、目を光らせては突撃してこようとする馬鹿Sがいたので、すかさずONへと切替ると、ふたたび「ヘブッ」という声と共に、再び見えない壁に張り付いては、そのまま下へと崩れ落ちていく存在Sがそこにいた。と思えば、急にその場に座り直し


「しまった。これは大欠陥品だったみたいです。取り外しましょうお姐様。あ、でもそうなったら私のお姐様の大事な大事なお肌に傷がついてしまいます。それは駄目です。私が断固拒否です。しかし、それでは私がお姐様成分を補充する事が…そもそも、新しく支給された防御ユニットが未接続のままなのがオカシイんですよ。恒星間航行用のシールドがようやく小型化されたために先立ってお姐様の様な機械生命体に組み込まれたはずなのに、お姐様が使用されている形跡が無かったから、まさかと思えば搭載だけされて使用するための接続が一切成されていないとか…これだから役所仕事は駄目なんですよ、まったく、私のお姐様に何かあったらどうしてくれるんでしょうか。ね、お姐様!」


 独り言の様な物言いから、最後は座りながらも何気に此方の足元へと擦り寄ろうとしては見えない壁に遮られている人型S。というか、誰がお前の何だって?と問い詰めたい衝動にかられそうにはなったが、そこはとりあえず置いておくとし、先ほどのバリア的な要素に関しては、記憶に引っかかる内容でもあった。

 確か、VRMMOのバージョンアップ前情報に、放置されていた機械生命体に対して新機能として追加される物があった事は知っていた。たしか"物理シールド"とかいう呼称になっていたと思う。


「物理シールドがどうとか、そんなのがあった様な…」

「そう、それですよ!使用するとエネルギー消費が起きますが、

 ある程度の慣性エネルギーの物体はきっちりしゃっきりぴしゃりと、

 それはもう完璧に防いでくれますから、これで大丈夫のはずです!

 しっかりちゃっかりと使ってください!お姐様!」


 万能でもなく、ある程度というのがある意味あのメーカーの調整らしい対応ともいえるが、今、ちょっと不安材料が出てきてるぞ?使用するとエネルギー消費が起きると…



「エネルギーが、消費されるのか?」

「はい、消費されるみたいですね」



 エネルギー量を意識して確認すると、そこには昨日摂取して増やしたはずの残量が、ふたたび1/3を切ろうとしていた。



「効率が‥‥悪い?」

「そうみたい…ですね。もともとは巡洋艦用のを転用したみたいですし」



「「……」」



 これ、まさかの食事量を増やさなければという案件が増え‥た‥‥?





―――――――――――――――――――――――――――――――――

○思いついたオマケ

「ところで、この修復と機能追加でどれぐらいかかったんだ?」

「ざっと一時間もかかっていませんよ?」

「流石だな。なら、残り時間は?」

「お姐様のベッドに潜って、お姐様成分を十二分に堪能させ…‥‥ヘブァ」



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