第22話 食堂へ向かってみよう

 朝の騒動が終わりを告げ様としていたころには、もうどうにでもなれというか、どうでもいいという心境で宿のロビーへと赴いていた。


「おはようさん。昨晩はありがとうな、うちのも楽しめた様だ」

「おはようございます。それは良かったです」


 受付の掃除をしていた親父さんから無骨な言葉が投げかけられたが、なぜか癒しを感じてしまっていたのは、思い違いではないのだろう。先ほどまで行われていた内容が内容なだけに、精神的な癒しを内心では求めていたからかもしれない。


「それで、朝食は今からでも?」

「ん?ああ、大丈夫のはずだ。先に食堂に行っててくれ」


 そう促され、食堂に足を運ぼうとすると


「お姐様!なんでシーをほっといて行くんですか!!」


 裏庭へと通じる通路から、騒音Sシーが現れてはこちらへと小走りになって駆け寄ってきており、そのあとを元気印少女とふくよかな女性とが一緒に入ってきていた。

 駆け寄ってくるのはまぁいいとするが、そのまま両手を広げて勢いよく抱き着かんかとしてくるので、「いい加減にしろ」と左腕一本で頭を引っ掴んではそれ以上近づけさせない様にしておく。


「なんだ?嬢ちゃんの連れか?」

「アーネストさんを追っかけて来たシーちゃんっていうそうよ」

「今日からうちの宿で働いてもらうんだって」

「オレは何も聞いてないんだが‥‥」

「さっき、私が決めました」


 ふくよかな女性が綺麗な笑顔で"決めた"と発言した時、その笑顔の先にいる親父さんはというと、それ以上何も言えない。というか、発言は許されていません的な、そんな雰囲気をあたりに充満させており…ガタイがデカイわりに、敵対できなさそうな相手に対し、なんとなくその存在が小さくなっていく姿が見えてきていた。

 ああ、どこの世も、尻に敷かれるというのはこういう事をいうんだろうな


「あ、あぁ、わかった‥‥」

「やった!おとーさんからも許可もでたよ」

「ね?私が言ったら大丈夫だったでしょ?」


 そんな女性陣二人の攻撃に対して、男性陣一人というのは民主的にも敗北をせざる得ない状況で、そんな中でようやく絞り出された言葉が、空しい争いが今まさに起きたかとおもえば、主張する余裕もなく全面的にあっけなく敗戦したのだと察する。


「………ごくろうさまです」

「あ、ああ‥‥わかってくれるなら、多少は救われる……」


 お互い、主権を握っている陣営に聞こえない様、小声で親父さんを慰め、大きくため息をついたと思えば、大きく肩を落としながら、布巾を片手に奥へと消えていった。

 その背中には、女系家系に嫁いでしまった婿養子的な寂しい背中という…それはもう、頑張って生きるんだ!と、こぶしを握って応援してしまいそうになるほどであった。

 

「お姐様?どうされました?」

「いや、何でもない。それより朝食をいただきたいのだが‥‥」


 自身の腕から逃げ出そうと両手で取っ組んできいたモノが、それが不可能であるとわかったのか、あきらめと共に状況に対して質問してきたが、こちらとしてはその中身を伝える必要はないので、その主権者に対して朝食がとれるのかと聞いてみると


「あら、そうね、そんな時間でしたね」

「おかーさん!急いでしたくしないと!シーちゃんも行こ!」

「わかりました!お手伝いさせていただきます!」


 主権者二人と左腕から解放した新人Sは、いそいそと食堂の方へと消えていった。

 取り残されている自身一人が、空しくロビーに立っている状況というのが、なんともはや…‥


 気を持ち直し、昨日の様に朝食を取りに食堂へと歩を進めた。



******************

「お待たせしました、モーニングセットです!」


 自身が座りだしてからは、食堂にぽつりぽつりと人が増え始めていた。

 一応、朝方急に決まった不安要素Sシーの働き口となるこの宿においての動向が、昨晩からの言動から"きちんとやれるのか?"という疑問が肥大してしまったため多少なりとも気になってしまい、朝食をとった後、邪魔にならなさそうな隅の席に座ってはしばらく観察をしていたのだが、そんな中、人が増えてきたにぎやかな中を元気いっぱいに朝食メニューを運ぶ元気少女と、その恰好は、頭部にあるバイザー部分はそのままに、まさにウェイトレスという給仕服かつエプロンをつけている状態であった。

 まぁ、そのバイザー的な部分をどう説明したんだ?とは思ったりもしたが、とりあえずは飲食店用の姿恰好で、その働きというのを行えて‥‥



「お待たせしました。朝食セットです」

「お待たせしました。朝食セットです」


 ……いる?


 ナニカオカシイ。


 一字一句まったく同じ言葉を放ってはいるはずなのに、男性客に対してはあからさまに無骨な態度というか冷めきったものと感じるのに対し、女性客に対してはこれでもかというぐらい笑顔を向け、まるで媚びを売っている腹黒Sシーという状況にしか見えないでいた。


 ただ、そんな態度で給仕をやっているにも関わらず、その男性客女性客ともに受けはよいのか、「君、かわいいねー」「名前は?」「今日からなの?」などとチヤホヤされている事に、まんざらでも無さげなのも見え隠れしており、とりあえずは大丈夫かと席をたっては食堂を出ようとした際


「あ、ちょっとまってください、お姐様」


 呼び止められ、何だ?と足を止めて一応の抱き着かれるという行為に警戒を行っていたのだが、急ぎ足でこちらに歩いてきたかと思えば、


「行ってらっしゃいませ、お姐様」


 と、これまたお見送り挨拶という物を完璧に近い礼でおこなってきた。

 そんな給仕姿でそう言われてしまうと、そういう系統のロボ娘という区分があったな、メイド服格好で兵器扱うとかはかなり絵にはなるんだよな、いっそのことそういう路線にしておいてもよかったか?いやそれなら、あの性格を何とかしなければ、給仕系は完璧かつクールなのが一番だというのが持論なため、あの性格ではやっぱりナシだな、いや、ドジッ娘というのもあったか、ただこれはドジ成分が含まれないとその派閥からは顰蹙を買いかねないよな…



「どうしました?お姐様?あ、この場合はご主人様の方が良かったですか?」


 そんな思考に苛まれていた時に、"ゴシュジンサマ"というこちらの心臓に直撃を食らわせてくる不意打ち的な語句が…


 コ、コイツ…ワカッテヤッテルダロ……

 くそう…動揺を悟られてはいけない…平静だ、平静を装うんだ…



「イ、いや、何でもない。じゃぁ行ってくる…」

「はい、いってらっしゃいませ」



 動揺した内心を隠す様に、先日の現場へと向かうべく宿を後にした。





―――――――――――――――――――――――――――――――――

〇おまけ

「(ふむ、この姿で、ご主人様呼称も良いと・・・メモメモ)」

「シーちゃん何してるの?」

「(お姐様の事で)ちょっと…」

「ふーん‥‥」

「さぁ、お仕事がんばりますよ!次は何でしょうか?」



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