第28話 訪ねてみよう

 午後の賑わいで混雑している路地を、職安組合ギルドへと向かって進んでいる自分がいるのだが、その道中は生物ナマモノたちが作り出す波という流れが存在しており、その流れに逆らわずに進んでいる間にもかかわらず、相も変わらず物盗りの様な存在が、自身の懐や腰辺りめがけて何かしら仕掛けてきていた。

 それらをさり気に躱したり、なおかつ手や剣の柄で触れた手を払っていたりしているのだが、なんというか、他の生物ナマモノを狙わずに、こちらばかりに何度もやって来るのは何なのだろうか…人込みなんだから他にもねらい目があるだろうに…なんで毎回こっちにくるんだよと言いたくなる。


 そんなこんなの小さな相手との小さな格闘をしながら、人込みのある場所からは遠のく形でようやく目的の場所となる職安組合ギルドへとたどり着き、トラップとしか思えない引き戸を開けて中へと入っていっては、歓談することもなく手続きをサクッと済ましていく。


 当座の資金として手に入れた金額としては、手切れ金みたいな恰好で追い出された場所の生物ナマモノたちから手渡された内容よりも、少し多めとも思われる中身が存在していた。


 予想外に斜め上すぎる金額であったため、これが口止め料的な代金が加味されたという事なのか?と少し考えさせられもしたが、もらえるものはもらっておこう精神で倉庫デポットへとしまっておく。


 さて、次は何か問題が起こりそうな…お約束的な展開が起きそうな…そんなハンター組合ギルドへ向かいますか。






 職安組合ギルドから移動する事、約1時間……


 やっと着いたのかという印象の方が強い。

 何しろ、説明を聞いて大方の道筋だけで来たものの、まさか町の正反対に位置するところまでいかなければならいとは思いもよらなかった。

 そもそも、この街の大きさというか規模というのを甘く見ていた。大き目な港もあり、放り出された神殿っぽい敷地ありと、今迄の事ながら気にはしていなかったが、これほどまでとは……、通りで馬車での移動を進めてくるわけだ。


 そうして、肉体的な疲れよりも精神的な疲れの方が出てきている中、ようやくという形で目の前に存在するは、煉瓦と木造二階建てという佇まいに、各階には窓ガラスが存在してはおり、その隣には倉庫の様な建屋も併設している。

 扉の存在しない開きっぱなしの大きい扉から覗ける中身は、よくある酒場ともよべるゾーンが併設されているのが見て取れ、雑音という騒がしさが聞こえてくる。


 正直な話、第一印象としては酒場じゃないのか?ここ。というレベルである。

 本当に此処なのか?と、半歩ほど後退し、その入り口にぶら下がっている管板をみるも、やはり教わったハンター組合ギルドと記載されている板がぶら下がっている。



  とりあえず、手続きをするだけなのだから…と割り切り、その入り口から中に入っていけば、案の定酒場で管を巻いている生物ナマモノたちがこちらへと視線を投げて「でけぇ・・・」「でかいな」「牛人…いや、角は無いしハーフ?」「なら巨人族か?」「埋もりてぇ」「巨人族なら手を出したら」「わぁってる…」という声を聞き取れていたりしてはいたが、その内容はこちらを観察しているという印象で、以外にも絡んでくるという想定はなさそうだった。



「いらっしゃいませ」



 しかし、その印象とは場違いな妙に品のある声が聞こえ、そちらに振り向くと犬?というほど、犬顔の人物がそこにいた。正直、久しぶりに見た獣人系生物ナマモノだった。みるからにハンターを主にしていそうな犬種の頭部に、少しおしとやか系の衣装を身にまとっている生物ナマモノではあったので、たぶん性別的には女性なのだろうとは推測する程度、なにしろ獣人系の生物ナマモノは街中でも見かけはいたが、こうはっきりと面と向かってみるのは初な為に、性別云々はよくわからないといった所である。



「ハンター組合ギルドに何か御用でしょうか?」

「ええっと、港湾の方からガーランの件で来たのですが」

「はい、伺っております。申し訳ありませんが、お名前と身分証明になるモノを提示して頂けますでしょうか?」

「ああ、はい。アーネストといいます」


 身分証明としての就業証明書を一緒に提示すると、その獣人はまさに"できる人"といった形でこちらと証明書を手にとってはカウンターの中の端末らしきものへと通しては確認し


「はい、確かにご本人と確認しました。申し訳ありませんが、これから面会をしていただける時間を頂けませんでしょうか?」

「それは構いませんが…」


「ご理解の程、ありがとうございます。では、ご案内しますので、どうぞこちらへ」


 そう丁寧に説明されたのち、通路から2Fへと案内されていくといくつもの扉の前を通り過ぎ、突き当りの扉の前からその部屋の中へと案内される。

 その部屋の中といえば、テーブルに椅子がある程度の会議室とでもいう代物だった。


「では、係りの者を呼んできますので、そちらの席でお待ちください」


 そう告げる獣人の受付は、そのまま部屋を後にしていった。



 何というか、事前に何かあるんじゃないかと構えていたのだが、いきなりお偉いさんのところに連れていかれるとか思ったりしていたために、何か拍子抜けというか、警戒するのも何だかと思っていたのだが…‥


 そんな折に視界情報に現れる着信の文字。

 通信に関する内容を提示する物であり、"tell"機能として使われている物である。その相手先はといえば、ヒョウからであった。


 元々はユーザー間用の通信連絡手段の一つであり、一応、許可をだした支援サポートユニットにも使用できる連絡機能なのだが、ユーザー間でもない場合は、同じフィールドにいないと使えないという機能でもある。

 一応はヒョウさんとオタカさんなどの偵察・観測役に徹してもらうユニットに関してはtell機能を使用できる形にはしている。が、一部の支援サポートユニットに対しては許可も出していなければ、制限もかけてはいる。理由は…いわずもがな……



『アーネスト様、ご連絡したい事が』


 受信可状態にすると無線回線に入ってくる声が一つ


『それで、ヒョウさん?ちょっとこちらは用事があるから手短にできる?』

『はい、それならば大丈夫です』

『それで…何かあった?』



 その声は事務的というか、淡々といった口調でもあったのだが、ヒョウさんの方から連絡が入ってくるとなると、何かしらの緊急事態でも入ったのか?と少し気にはなっていたが、



『アーネスト様を尾行していた人物の一人が、その建屋の裏口から中に入っていきました』

『……はい?』


 なぜ尾行していた生物ナマモノがこの建屋に…‥?


 言われてすぐさまMAP表示を開けると、確かに建屋の中には今朝方に印を付けていた存在を示す表示が一つが存在し、他の印をつけていた二つは建屋の外に存在はしているのが確認できていた。


 ただ、建屋の中に入ってきていた印をつけた存在は、建屋内の別の二つの光点と共にこちらへと向かってきているのを確認できていた。





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〇おまけ

「柔らかかった…」

「マヂかよ・・・」

「すんごく、こぅ・・・ふぅ・・・」

「役得役得」

「ボク、この手洗いたくない…」

「くそっ、なんでお前らばかりなんだよ!オレだけ躱され続けるんだよ!」

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