第32話 朝の確認をしてみよう

 外から小鳥の鳴き声が聞こえ、まるでいつもの生活が戻ってきたかの感じがするのだが、意識して最初に認識できたのは目の前の空間に現れている…というか、どういう表現をすればいいのかわからない"Ernest"という文字列が4箇処浮かんでいるかの様に存在している表示と、"Michael"と"Robert"という文字列と共に円周を伴う恰好に並んで存在している存在を確認したことで、"ああ、この状況なんだっけ"と再度認識しては、円周右端の名前に意識を向ける・・・



 最初に感じたのは、何かしらが自分に乗っかっている感覚がし、それがどういう存在かを確認する事もなく、重石Sシーをそのまま地面へと転がり落としながら身体を起こす。


 転がり落ちた重石Sシーからは、「えへへへへ・・・お姐様ったらダ・イ・タ・ン・・・」などという意味不明な言葉を口から涎らす様に発していたが、機械生命体という存在は、夢とか見るのだろうか?という、どこか哲学的な内容が出てきたのだが、ここ数日のところ自身がそういう体験らしき物を体感したことがないがために、疑問に思えてしまう。



 とりあえずは身体を慣らすために一旦裏庭へと赴いては、軽く身体の関節をほぐすかの様にあちらこちらを動かしていく。

 特に支障をきたす様なものもなく、動作的に問題が一切おきていない。これもそれも、シーという存在がいたからこそとも言えるのだが、いかんせん前科が存在するために信用という意味では地に落ちている状態である。

 そんなシーが休息をとる前に



「お姐様の身体は、シーが全責任を持って絶好調に仕上げておきます!

 なので、ごゆっくりと休息モードになってもご安心ください!」



 という、とにかく"メンテナンスしたいしたい"という建前を盾に、何かしらの欲望を満たそうという魂胆が丸わかりな力説をされたのだが、海中での作業を行っている時点で何かしらのメンテナンスはするべきという点に関しては、同意せざる得ない理由でもあり、"職場、間違えたかなぁ…"という今更感をもちながらも、メンテナンスだけ行えればよいという五寸釘レベルの釘を差し込んでは置いたのだが、前科が前科ナタメに信用が出来ない。

 そのために、不安要素が少なからずあるために何かしら仕出かしているのでは無いのか?と、体を実際に動かしてみては各部の確認をしている始末である。



「おはようございます!」


「おはよう」



 裏庭にあたるところで柔軟体操的に体を動かしながら身体状況をモニタリングしていると、本館の裏口から井戸へと水を汲みにきた元気娘と顔を合わせる格好になり、朝の挨拶を交わす。


 まだ、日が出ていない早朝でもあるのだが、そんな中で行動できている元気娘をみて関心をしながらも、おのずとこちらのポンコツSシーを思い出してみれば、まだ夢の世界(?)にダイヴしたままなのだろうなと思いながら、従業員なのだから起きないとダメなのでは?という事にかられ



「あー、シーの奴を起こそうか?」


「いえ、まだ宿の仕事には時間がありますから、大丈夫ですよ」


「そうか?それなら良いんだが…」


「ええ、シーちゃんは主に食堂の接客役ですから」


「接客役ね・・・アイツは上手くやれてるのか?」



 ふと、昨晩の事を思いやる。

 こちらに対して何かしらの感情を向けての接客をしている状態というのが、実際に正しいのかどうなのかよくわからない。

 多少なりとも役に立っているというのであるならば、マシというモノだろうとは思っているのだが…



「大丈夫ですよ?取り違えもないですし、お客さんへも愛想もよいですし、

 噂を聞いてか、新しいお客様も来ていただけましたし、

 正直、看板娘の座が危ういのでは?と思います」


「そ、そうか・・・それは、すまなかった・・・」


「あ、冗談ですよ?冗談。それぐらいちゃんとできてますから」



 元気娘は笑顔になりながらも「やっぱり心配してるんですね」と言いながらも、縄がつながった桶を井戸へと放り込んでは引っ張り上げては水をくみ上げていたりする。

 彼女の言っている心配の対象は確実にシーの事を言っているのだろうが、こちらとしては「シーよりも、周りの客の方が心配」と言いたくなるが、まぁ、そこは大事に至っていないなら重畳と思っておくべきか……



「あ、お顔を洗います?」


「ああ、準備運動が終われば、使わせてもらうよ」


「じゃぁ、桶を上げておきますね」


「わかった」



 それでは!という形で、釣瓶によってくみ出された水桶を、"うんしょ"という恰好で宿へと運びこんでは消えていく元気娘を見送ったのだが、それよりも自身としてはさっきから気になっていた事がある。


 先ほどから元気娘が井戸からの水汲みをしていた行いに対し、

 手押しポンプとか、梃子てことか滑車とか、そういう物が無いのか…と



 いや、別にそういうモノを作る気はないが。



 まぁ、井戸というローカル文化的な、人工的な構造物に接触できるという期待感というのがあったのは事実だが、釣瓶を落として引き上げるだけという単調かつ重労働な作業を繰り広げている状況を見ていれば、この身体でその行為をやってみるとどうなるのか?という好奇心というものに強く惹かれ、さっそくとばかりに釣瓶を落として水を入れ、そして右腕の初動を勢いよく引き上げると…あら不思議、手桶が手前まで飛び上がってくるではありませんか。


 そのちょうど手元の高さまで上がってきたそれを左手で柄の部分を瞬時につかみ取るという事で成し遂げてしまう。


 何というか、力加減に関してがまるで自動オート調整でもかかってるのかというぐらい、何度やってもほぼ同じ位置に引き上げれる。

 やばい、これちょっと楽しい、そんな動作を繰り返す恰好で水をくみ上げる事2,3回で、水が桶にたまり、そのぐらいで縄がやばそうだなと思い行為を止めては顔を洗い出していく。



「うん、滑車とか必要ないな……それに、意外とこの方法、結構楽しいな」


「何つーやり方でくみ上げてんだよ姐さん・・・っと、おはようさん」


「うぇぁ!?」



 声のした方をみれば、呼称論争を繰り広げていた貧相な恰好の男が、こちらを何とも言えない表情をしながら眺めていた。

 「というか、そんなひでぇ声を上げて驚かなくてもいいだろう‥‥」という苦情が来ていたが、あえてそこはスルーしておく。



「一部始終みてたけどよ、そんな方法をやる奴ぁ今まで見たことねぇわ。

 どんだけ常識規格外なんだよ、姐さんはよ……」


「いや、これはその・・・」


「まぁ、大系を単騎で仕留めれる奴は、みんな人、辞めてるっていう噂があるが、

 噂は本当なんだろうなぁと。な」


「ハハ・・・ハハハ・・・・」



 そっか、人辞めてる人がいるのかぁ、そっかぁ…、正直乾いた笑いしか出ない。

 なにせ、こちらといえば人を辞めてるというか、人という生物ナマモノですらないから…ねぇ…

 よし、ここは深く聞かれる前に話を変えるべきである



「それで、何か用なのか?」


「いや?朝の準備運動をしに降りてきただけだぜ?

 そしたら姐さんが何かやらかしてるなぁと、見てただけだな」


「そ、そうか・・・なら自分は部屋に戻るよ」


「あいよ。っていうか、今更だが」


「ん?」


「そっちの嬢ちゃん、おはようさん…って、何だ?」


 

 嬢ちゃん?と言われ、その言葉が投げかけられた先を見てみると、馬房の扉から半身だけのぞかせているが、その背中には注射器銃シリンジガンを携え、何かを狙いつつもこちらを伺っている存在が…

 その視線と行動は、まさに獲物をしとめるハンターの様な…



「って、お前、何…やってるんだ?」


「えっ?あっ、いや、これは…その…って、そうだ!おはようございますお姐様!」


「あぁ、おはよう…それで、いつからいたんだ?」


「えーっと・・・その・・・」


「そうだな、正直に答えたら、一緒に食事にでもいくか」


「はいっ!それはもう、お姐様のたわわな実りを揺らしながら汗を流されているお姿を見逃す訳にはまいりません!その姿を見たシーは、もうこれは記録容量のほとんどをREC領域にして上書き保存するべく、可及的速やかに保存しては、あとでじっくりと堪能するb…アバァ!?(ズゴン)」



 何かよろしくない行動発言が聞こえそうになってきたので、とりあえず停止スイッチ兼記憶削除スイッチ代わりに、足元にあった到底石には見えないブロックの塊を勢いよくオーバースローで投げつけておく。

 その軌跡は見事にレーザービームとも呼べるぐらいの直進性をたたき出し、変質者Sシーの頭部装甲へ"ズゴン"という、どこからどう聞いてもよろしくないだろうというレベルの音と共にクリティカルヒットしては、変態Sシーをその場で倒れこませるレベルだった。

 よし、これで削除はできたはずだ。



「お、おう・・・嬢ちゃん・・・大丈夫・・・なのか?」


「いつもの事だ。防具にしか当ててないし問題ない」


「そ、そうか・・・。って、いやいやいや、そういう問題か?」



 そんな第三者の言葉を聞き流しながら、自身の部屋へと支度をする為に戻るのだが、途中、変質者Sシーの近くを通り過ぎようとした途端、「お姐様成分補充!」と言いながら、再起動した不死者Sシーが腰へと組み付いきたりされたりしたが、その背後からは「本当に、大丈夫なんだな…」という驚きとも呆れともとれる感情が含まれた言葉が聞こえていたりしていた。



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