第25話 説明をうけるは・・・

 事務所から出て向かった先は、工事予定地となっている入り江の近く、話を聞く限りでは、ここに防波堤となる石垣を建設する予定という形であった。


 建材として石材が運び積まれており、その作業場場となっている場所には多数の人夫たちが木枠と石材をひとつづつ積んでは固定という作業をこなしていた。

 そんな作業員達が作業を行っている中、怒声という恰好で指示をしては周囲を監視している親方が目に入る。


 同行していた助手の方から、その親方に対して手を上げて呼び出すと、親方の方もそれに気づいたのか、こちらへと向かい歩み始めていた。


「またせたか?」

「いえ」

「とりあえずさっそくだが…おい、工事予定図面を出せ」

「はい」



 近くに積み上げられていた木箱の上に、手持ちで広げられた地図。そこに記載されているのは工事予定と思われる図が記されていた。

 その中で現在位置と思われる場所から、さらに奥に向かって堤が作られる予定となる部分を指でなぞる仕草をしながら


「見た通り、この場所まで伸ばす予定だが、ここいらの底調査が滞っている。嬢ちゃんはその底の状況調査だ」


 そういって示されたのは、その伸ばされている線の中腹。ほぼ真ん中あたりであり、現状の位置からみるとまだそこまでは工事が到達はしていない物の、そちらの方へと延びようとしているのは、素人目からみてもはっきりしていた。


「調査というと…例えばどんな?」

「深くはなってはいるが、ここらは岩盤が多く石切状態が続いているはずだ。だが、その状態でも場所によっては色んな物が存在してもいる。まずはそれらの現地状況を調べてもらえればいい。状態によっては方向を修正する必要も考える」


 そういって、親方は今度は洋上の方を見ながら説明を続ける


「このあたり、内湾状態で大型の魔物が出てくる事はほとんど起きなかった。が、稀に迷い込んでくる魔物がいる様だ」

「そう、みたいですね」


 そういうと、突然


「今更だが、すまなかった」


 こちらに対し、深々と頭を下げる親方がいた。

 周囲の人夫たちからは「おぉ」「親方が頭下げてるぜ…」などと茶化す様な野次がとんではいるが、それらに動じる事もなく、頭を下げ続けていた。

 少し驚きもしたが「不器用な親方なりの誠意なんです。受け取ってもらえないでしょうか?」という、助手の方から耳打ち…にもならない身長差の為に小声でそう伝えられ、


「いや、それはもう良いですよ。気にしてませんから」


 そういって、親方の背後へと目を向けると、こちらを見ていた数名の男手たちが急ぎ顔を背けては作業へと戻っていた。「あいつら、覚えておけ…」という声が聞こえたりしたのは気にしないでおこう。


「そう言ってもらえれるならば、助かる…それとだ、詫びにもならんだろうが、回して・・・おいた奴がついさっき返ってきた。ソイツも渡しておく」



 そういって親方は木箱が積まれている場所から、何やら布にくるまれた長尺物を取り出し、それを手渡してきた。

 それを黙って受け取ると、「ほどいてみな」というのを頷きで示されたので、そのまかれている布をめくっていくと細い鞘に包まれた一つの剣が現れた。

 親方に視線を向けると、再び「抜いてみな」という視線で返されたので、恐る恐ると抜いてみると、その刀身は淡い藍色をしており、どこかで見た様な代物という印象だった。


「そいつは、昨日嬢ちゃんが仕留めたガーランから作った突剣だ」


 そう言われて、どこかで見たというモノを理解する事ができた。確かに、カエリのある部分が後付けされたツバの手前に存在しており、新たに存在している握り手には滑り止めとなる処理が施されていた。


「海の中じゃ普通の剣なんて使い物にはならん。大抵は小回りの利く短剣か、突く事に特化した代物の方がマシだからな」

「そう言われれば、確かにそうですね」


 確かに水中でよく使われる得物と言われれば突く系統が多い。横に切り抜くにも刃が長ければ、それだけ水の抵抗を受けてしまう為、思うように振れないのは確かな話でもある。

 この剣を見てみても、確かに斬るというよりも貫く事に特化しているのは確かである。


「アーネストさん、その剣の意味合いはご存知では……なさそうですね」


 今度は助手の方から声がかかる。


「意味合い?」

「ええ、ガーランを仕留めた者は"海の戦士"として認められる。というのが、我々の業界、というか海の掟みたいなものでして、その証として特徴のある部分を何かしらに細工するというのがあります」

「はぁ……」

「大抵はあの特徴のある角を使って、ナイフサイズの物にしたりするんですが…」

「物が大系でしかも良質ときていたからな、自ずと剣サイズに仕上がったんだろう」


 そう言われながらも、自身は刀身を再び眺める。

 これがそういう意味合いを持つ代物か。と、感心という意味で色んな方向から眺めていると、日の光に照らされたその刃は、その光が当たる角度によっては虹色に光る部分が幻想的とも呼べる不思議さを醸し出していた。


「嬢ちゃんにはソレを持つ"一人前の海の戦士"としての資格がある。ソレ以上の物はなかろう」


 そう言われると、何故かズシリとした重みの様な感触を感じざる得なくなる。

 "海の戦士"ねぇ…そういわれても、こちらとしてはそんな意識は無かった訳で、そもそも近接戦闘なんて得意でも何でもないズブの素人なのだが……



「…わかりました。では、いただいておきます」

「そうしてください。護身用として役には立つと思いますし、どうも色々と・・・ある様ですし」

「色々・・・?」

「いえ、それはこちらの話です」



 ニコニコと笑っている助手の人と、視線をずらしてそっぽを向いている親方という対象的な態度を取っている二人。

 先ほどから、場の空気がコロコロ変わっている気がしないでもないが、自分がやる事が解ったので、作業に取り掛かろうと切り出してみる。



「ええと…、さっそく調査に行っても‥‥?」

「あ、あぁ……ちょっとまってろ」


 親方はそういうと、作業員が働いている方に向かい


「おーい、クァン!こっち来い!」

「はい!」


 作業員の中から元気よく返事を返してくるのは、年恰好が20代にも届いイていなさそうな、小麦色に日焼けしている少年とも青年ともいえない人物であった。


「底調査を頼んだアーネスト嬢ちゃんだ」

「は、初めまして、クァンといいます」

「初めまして、アーネストだ」


 軽く挨拶をかわしてみるが、クァンと言った青年はどこか余所余所しい照れている様な態度ではあった。


「ウチの中で舟の事ならコイツが一番だ。仕事の相棒バディとしてつける」

「よ、よろしくお願いします」

「あ、あぁよろしく」

「さっそくだが、舟に案内して仕事に取り掛かってくれ」

「はい。では、舟に案内します。こっちですアーネストさん」



 青年に案内されるがまま、仕事用の舟がある場所へと移動していった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

○おまけ

「それで親方。あの剣の加工代金は?」

「…‥経費で落ちんか?」

「無理ですね。給金から引いておきます」

「…‥…‥」

「そういえば昨晩、鍛冶師のヴァクルさんも同席されてたのは、偶然ですか?」

「…‥」

「色々とやるのは良いですが、一言いって下さいと毎回言ってますよね?」

「…あ、あぁ……」


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