7-4 VS 空

「――ぁああああああああああああッ!!」

 鮮血が舞う。少年の絶叫が響き渡る。

 瞬間、相吾の身体は大きく上空へ吹き飛ばされた。

(ぐっ――この威力は《天空》か……!?)

 念のため〝龍鱗〟と〝徹心〟を身にまとっていた相吾は気絶することなく、異常な攻撃を分析できた。

(周囲の空間から音が聞こえる……これは〈空の拳〉の倍速化への準備……!)

「〈空の拳 十倍速〉×4」

「がッ……!?」

 空中にいる相吾へ四方向から衝撃が同時に襲いかかる。宙を舞い、平衡感覚が狂っていく相吾は地面に落下していくのだが、下方から飛んできた不可視の巨大な塊に全身を打ち付けられて上空へ向かって再上昇する。

「拳を失った、過去、異能、力者は、どうなるのか。その答えが、これだよ。無制限の360度全方位攻撃。拳を振るわなくても、〈空の拳〉が発動できるようになるんだ……ぐっ……!」

 血まみれで、痛みに打ち震えながらも気丈に笑ってみせる空。なすすべもない相吾はピンボールのように上空で跳ね飛ばされ続けていた。意識はすでに途絶えかけている。

(勝てねえ……。俺は、また空に負けるのか――)

「ごめん。もう無理」

「――げふぉおおお!?」

 攻撃がやむと、上空にいた相吾は落下して地面に激突した。床にめり込んだ顔を上げて空の方を見ると、空もうつ伏せに倒れて相吾を見ていた。

「この勝負引き分けにしよう」

「……しねえよ」

 相吾は立ち上がる。全身ぼろぼろで血だらけになりながらも、空のもとへゆっくりと歩いていく。

「まだやるか?」

「降参だよ。まったく、しぶとすぎるよ相吾くん」

「愛のためだからな」

「そうだったね、君はそういう人だ。そんな相吾くんに僕からはこの言葉を贈るよ」

 転がって仰向けになった空の下に扉があらわれる。


「新しい世界でも、僕と友達になって下さい」


「約束する」


 開いた扉が閉じると消失する。ずっと試合を見守ってきた愛が相吾に駆け寄っていくと、思い切り抱き着いた。

「相吾くんっ……! うぇええんっ……! ありがとう相吾くんっ……!」

 鼻水を垂らして泣きながらも感謝の言葉を繰り返し述べる鉢巻きの少女に、金髪の不良は頭に手を置いてなでてやりながら言った。

「頼む。傷が痛むから離れてくれ。身体が限界なんだ」

「そんなになるまで、うぇええええええええんっ……!」

「……だから離れてくれよ」

 しばらくして泣きやんだ愛が自分から離れると、相吾は笑って言った。

「その自慢の拳でぶん殴ってこい」

「はいっ! でも、もう会えなくなるかもしれないのですよね……でも、きっと会えると信じています!」

 背伸びをすると、口づけを交わした。

「また〈会い〉ましょう」

「……ああ、必ず〈会い〉に行く」

 二人が拳を打ち合わせると言葉を交わすのはそれきりで。


 鉢巻きをなびかせた少女は古い扉を開き、光の向こう側へと旅立って行った。


「まかべそうご」

「……何だよ」

「ないてる」

「うるせえ」

 力尽きた少年は泣き笑いながら地面に倒れた。いろりはその手を取ると、脈をはかる。

「……」

 急いで床を叩いて扉を開くと、知紅がいる救人部室へ相吾を運び込んだ。

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