5-2 青龍の外道家
固い
さらには〝
しかし弱点はある。玄武と朱雀の武術を使いたいならば一度〝
そして青龍の武術〝龍神〟は、気を凝縮させて実体化させるために多大な気を消費する。
青龍の才能を持つ者の気の量は玄武と朱雀に比べて
早乙女恋は青龍の外道家である。弱点があるのは武道家だけ。外道家の〝殺気〟に底はない。消費すればするほど増えていく、無限の負の力である。
青龍の外道家である彼女は、間違いなく最凶最悪の存在だった。
「……お兄さんを探すのはお手伝いしますが、その、どうか殺さないでいてくれませんか……?」
【あら。外道家に殺さないでいて欲しいというお願いは、呼吸をするなというお願いと同じことですわよ?】
「うう……」
【……まあ。もし、お兄様がわたくしに殺されたくない、とおっしゃられたら考えなくもないですわ】
「考える、ですかっ?」
【ええ。考える、ですわよ】
外道家は嘘をつけない。本能に従って行動しているからだ。考える、と言っている以上、会ってもすぐに殺さないという約束は信用できる。
(もし、お兄さんが殺されたくないと言って、それでも殺そうとしたら……。でも、いざとなったら《愛の心》がありますっ。攻撃を封じて〈愛の拳〉を叩きこめば青龍の外道家だって倒せるのですっ! 相吾くんの《相思相殺》で時間も止められますし、空くんが作戦を考えてくれるはずですし)
気を取り直して、愛は質問をした。
「えっと、お兄さんのお名前は何ですかっ?」
【
そういって恋が差し出した物は、白い小さな棒きれだった。
「これは……?」
【ゴミ箱で見つけた物ですわ。匂いからしてペロペロキャンディの棒ですわね】
「ん……確かに、甘い香りがするのです」
【それだけではありませんわ。この棒きれからはお兄様の匂いではなく、女の匂いがしましたの。それも二人。薄く残っていたのは渡した方で、濃く残っているのはこれをもらって舐めていた方でしょう】
「そ、そこまでわかるのですかっ?」
【〝外道 極真〟による嗅覚強化があれば
「舐めていた方は見つからない……ペロペロキャンディ……私があげた……あっ!」
【心当たりがありまして?】
「きっと、いろりちゃんなのですっ!」
愛はソファから立ち上がると、何もない壁の前に立つ。こんこん、と二回ノックをするとそこに扉が出現した。しかし扉は開かない。疑問に思って首をかしげながらも、扉越しに話しかけた。
「いろりちゃん、そこにいますかっ?」
「なに」
「そちらに、倒也さんという名前の方はいらっしゃいますか?」
「いるよ」
【あら。当たりでしたのねっ! 二人とも感謝いたしますわ!】
恋は笑顔で立ち上がると、ドアノブに手をかける。回して引いたが、微動だにしない。押しても同じだった。がちゃがちゃと、ドアノブを
【鍵がかかっているのかしら。ねえ、そちらにいる方……いろりちゃん、でしたっけ? 開けてくださらないかしら?】
「さおとめこい」
【あら。わたくしをご存知? お兄様にお聞きしましたの?】
「なに」
【もちろん、お兄様を殺しにそちらへ
「じゃあだめ」
【〝外道 龍鱗〟】
恋の身体から漏れていた暗青色の気が膨れ上がる。全身を包むと、それは龍の鱗でできた鎧となった。
【では、この扉をぶち壊しますわね】
「まっ、待って下さいっ!」
恋は振るおうとした腕を止めると、愛の方を見た。
「えっと、早乙女さんは」
【早乙女の名は捨てましたので、恋と呼んでくださいな】
「恋ちゃんは倒也さんに会ってもすぐに殺さずに話をしてくれるのですよねっ?」
【ええ。約束しましたもの】
「なので、いろりちゃん、その扉を開けて倒也さんを連れ――」
愛の顔の前に手をかざして話を中断させると、空が代わりに話し出した。
「いろりちゃん、そういうわけだから、みんなでそっちに行ってもいいかな?」
「空くん……?」
しばらく間が空いたのち、扉が開く。幼女が顔をのぞかせた。
「わかった。いいよ」
「よし。じゃあ少し待っててくれるかな」
そういって携帯をいじり始める空。数分後、部室の扉が勢いよく開かれて知紅が
「お姉ちゃんっ!」
「お姉ちゃんじゃねぇ!!」
【あら。知紅さんではないですか。お久しぶりです】
スカートの端をつまんで美しくお辞儀をする。ただ、身体にまとう〝外道 龍鱗〟を解いてはいない。知紅も〝極真〟を保ったままだ。
「恋……テメェ、どうして外道に堕ちてやがる……!」
【少々、家の事情がありまして。知紅さんを呼んだのは、いざという時のためにわたくしを倒すためでしょうか?】
「……空、悪いが外道家はあたしでも倒せねぇぞ。外道家に
「……
そう相吾が
「『〝最強の武道家〟〝拳を極めし者〟〝更科知久〟〝
「アースマンは小学生の頃に見たのですっ!」
「僕も見たよ」
【わたくしも拝見しましたわ】
「いや、俺も見たけどよ、あれ知久先生本人だったのか……。創始者と同じ境地って何だ」
「とにかくわけわかんねぇ強さだよ。本気出されたらあたしの目にも映らねぇ。……で、空はあたしにどうして欲しいんだ?」
「それはあとで話します。じゃあみんな、まずは恋さんのお兄さんに会いに行こうか」
そうして、愛、相吾、空、知紅、恋はいろりの後に続いて、扉の向こう側へと行った。
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