4-3 VS 空

 四人が移動した場所は学校の武道場。先生の許可と武道場の鍵をもらい、愛と知紅は道着に着替え、相吾は武道家崩れだからと制服のまま、空も相吾に合わせて制服のまま靴と靴下を脱ぎ、武道場に足を踏み入れた。

「まずは誰からだ」

 準備運動を済ませた知紅は三人に声をかける。空が手を上げた。

「僕がいきましょう」

「あんたか。確か、天枝あまえだだったか?」

「はい、天枝空と申します。気軽に空とお呼び下さい更科さらしな先輩」

「知紅でいい。空は見たところ武道家じゃねぇが……過去異能力者か?」

「はい、僕と愛ちゃんが過去異能力者です。そして愛ちゃんと相吾くんが武道家。武道家であり過去異能力者でもある愛ちゃんと知紅さんが最後に戦うのが定石じょうせきでしょう」

「あたしの過去異能〈血の拳〉は死なないだけだ。攻撃する手段はねぇよ。死んでからじゃねぇと発動しないから、それまで傷が治ることもない。だから、ただの武道家だと思ってくれていい」

「ご謙遜けんそんを。史上最年少で武術を極め、最強の武道家を父に持つあなたが、ただの武道家のはずないでしょう。そしてそれだけではありません。あなたの過去異能は長所でもあるし、短所でもあるんです」

「……短所? 死ねないことか?」

「いいえ。相手が死ぬまで続くバトルロワイアルならば長所でしょう。ですがこうした試合では、死なないあなたでも負ける可能性が生まれる。そう、一回死んだら負けなんです」

「…………テメェ、まさか」


 ◇◇◇


 頭のいい知紅さんには伝わったけど、愛ちゃんと相吾くんには上手く伝わらなかったようだ。愛ちゃんがいてきたから、笑って答えてあげた。

「今から知紅さんは僕を倒しにくるけど、殺しには来ないよね。でも僕は知紅さんを殺せるんだ。だって生き返るんだから」

 そう言うと二人はびっくりしたような顔で僕を見る。だよね。何か言いたそうにしてるけど、僕はやめないよ。だって、せっかく人を殺せるかもしれない機会が来たんだ。しかも生き返る。殺すしかないじゃないか。

「まあ、とはいっても。簡単に殺せるとは思っていないよ。だからハンデが欲しい」

「……言ってみろ」

「一分……いや三分かな。知紅さんには当てないから、〈空の拳〉を好きなだけ撃たせて欲しい。その間動かないでね、計算が狂うから。あ、愛ちゃんと相吾くんもだよ」

「いいぜ。好きにしな」


 知紅さんの了承りょうしょうを得た僕は、〈空の拳〉を武道場内に張り巡らせ始めた。


 ◇◇◇


「――178、179、180!」

 カウントダウンが終わる頃には片方を破裂させ片方を加速、それを繰り返し『百倍速』にまで膨れ上がった〈空の拳〉を知紅さんは避けた。


「……ん?」


 知紅さんの胴体を貫いたあと武道場の壁を破壊して外に突き抜けないように設定したから壁にぶつかる直前で〈空の拳 百倍速〉が消えたから、とりあえず被害は出なかったけど…………あれ?

「何だよ。これでおしまいか?」

 まるで炎のように燃え上がる赤い気に包まれた知紅さんは、平然と僕に問いかけた。

 僕は両手を握り合わせ、祈るように懇願こんがんする。

「……ご、ごめんなさい。許して下さい。殴らないで下さい!」

「別に殴らねぇよ。これは試合だ。空が降参すれば済む話だろ」

「そ、そうか、そうだったね! じゃあ僕はこの辺で――」

 組み合わせた両拳を振り降ろしながら叫んだ。

「《天空てんくう》!!」


 武道場を埋め尽くすほどの巨大な空気の塊を撃ち出した。さっきの『百倍速』を避けられたのは予想外だったけど、『四倍速』程度なら相吾くんにも避けられた技だ。朱雀すざくを極めた武道家――いや知紅さんだからか? なら避けられるんだろう。納得した。

 でも、この武道場を埋め尽くす、避ける隙間のない《天空》なら――!

「おい」

「へぁっ!?」

 変な声がでた。おそるおそる後ろを振り返ると、そこには知紅さんが立っていた。

「降参すればいいって言ったけどよ。不意打ふいうちは卑怯ひきょうだろ」

「ど、どうやって僕の背後に」

「テメェが撃つ瞬間に背後に回ったんだよ」

 速すぎる。僕は、こんな化け物を相手にしていたのか。知紅さんがこんなに速いなら、その上をいく更科知久はどれだけ――

「あっ、ちょっ、待って殴るのはやめてぶるぁああぁあああああ!!」


 殺さないように手加減されたその拳を受けて、僕の目の前は真っ白になった。

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